ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第25回は、現在、明治座創業150周年ファイナル公演 舞台「メイジ・ザ・キャッツアイ」(明治座・3月3日まで)で“泪姉”を演じている高島礼子だ。

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 あの「CAT‘S・EYE」が演劇に!? しかも舞台は明治!? てことは時代劇!! と驚きつつ出かけた東京・明治座。「CAT‘S・EYE」はバッチリ明治の物語になっていた。

 主人公は東京の夜を騒がせる麗しき女泥棒・キャッツアイ。その正体は「喫茶猫目」を営む来生三姉妹だ。警察官のフィアンセを持つ次女・瞳(藤原紀香)、秘密道具の発明を得意とする三女・愛(剛力彩芽)、大人の魅力を漂わせる長女・泪(高島礼子)は、失踪した画家の父の作品を狙う。

 変装、アクション、トリックなど、変幻自在なキャッツアイの活躍に加え、歌、踊り、笑いの要素もあり、内容は盛りだくさん。あの名曲が響く中、華麗な衣装に身を包んだ三人がポーズを決めると観客から大拍手が起こる。泪は妹たちを見守り、ここ一番で場をまとめ、長女の貫禄を見せていた。

 この舞台の初日は2月6日。高島は直前までNHK BS時代劇「あきない世傳 金と銀」で大坂・船場の呉服商のご隠居・富久(ふく)を演じていた。富久は「だめぼん(坊ちゃん)」の息子三人に手を焼きながらも、商才のある嫁(小芝風花)を信じて店を託す。そのやさしさにジーンとしたばかりだったので、パワフルな泪姉さんとのギャップは面白かった。そして、ご隠居から女泥棒まで時代劇における役の幅広さこそ、高島礼子の持ち味だと改めて思った。

 高島の本格的な女優デビュー作は1988年放送の「暴れん坊将軍III」(テレビ朝日)のお庭番だ。

お局様に大出世

 八代将軍・徳川吉宗(松平健=70)が城を抜け出して自ら事件を解決するこのシリーズに、男女のお庭番は欠かせない存在。彼らは陰ながら上様を護衛し、諜報活動もお手のもの。クライマックスでは忍者のような姿で吉宗の「成敗!!」の声に従い、悪の親玉を斬るという重要な役割を担うのである。第3シリーズで女庭番・梢(高島)は、鉢巻きに菱形の金具をつけた勇ましいスタイルで登場。第89話「悪霊の城の花嫁」では、吉宗の寵愛を求めるあまり“もののけ”になった大奥の浜路(芦川よしみ)の怨念にもひるむことなく活躍した。

 私が注目したのは、第3シリーズで卒業し高島が2001年放送の「暴れん坊将軍800回記念新春スペシャル 江戸城乗っ取り!! 人質は百万人!? 危うし!八百八町が火の海に」に再登場したこと。タイトルの通りすさまじい展開だったが、このときの高島は吉宗不在の城を守るため奮闘する大奥のお局様役。御庭番から出世した!とファンを沸かせた。

 その後、04年にはフジテレビの「大奥〜第一章〜」にも出演。二代将軍・徳川秀忠の正室・お江与役で、三代将軍・家光(西島秀俊=52)の乳母・春日局(松下由樹)と激しいバトルを繰り広げた。なお、このドラマから6年後に放送されたテレビ東京の新春時代劇「柳生武芸帳」では春日局役だった。

「水戸黄門」(TBS)、「大岡越前」(同前)、「壬生義士伝〜新選組でいちばん強かった男〜」(テレ東)、大河ドラマ「天地人」(NHK)、「お美也」(同前)、「鬼平犯科帳スペシャル 密告」(フジテレビ)、「善人長屋」(NHK)など、シリアスからコメディまで時代劇出演作は数多いが、個人的に印象に残っているのは03年から放送されたNHKの「御宿かわせみ」シリーズだ。

女性の三大時代劇をコンプリート

 大川端の小さな旅籠「かわせみ」を舞台に、盗難、人探し、時には殺人など江戸の町で起こるさまざまな事件と、女主人・庄司るい(高島)と与力の弟・神林東吾(中村橋之助、現・芝翫=58)の身分違いの恋模様を描く。原作は半世紀近く愛される平岩弓枝(1932〜2023)の小説で、後年、舞台化もされた。その際、高島は「『かわせみ』とともに人生を送ってきたような愛読者もいらっしゃるので、みなさんに満足いただけるるいになれるか緊張します。平岩先生は『かわせみはグランドホテルみたいにいろんな人が来て、事件を持ち込んだり、いい話をしてくれる場所』とおっしゃってました。私はその女将として、劇場のお客様にも『かわせみ』に泊まってみたいと思っていただけるよう心がけます」と語っていた。

 るいが冗談めかして言う「ばかばっかり」のセリフは、橋之助の息子たちも気に入っていたという。

 また、舞台では2012年に「女たちの忠臣蔵」で大石内蔵助の妻・大石りく役で主演している。この作品は四十七士を支えた女たちの愛と哀しみを描いた橋田壽賀子(1925〜2021)の脚本で、1979年にTBSの「東芝日曜劇場」1200回記念作として池内淳子(1933〜2010)の主演で放送され、大きな反響を呼んだ。

 高島は「二幕のはじめ、討ち入りを終えた四十七士を見送る場面も大切にしたいところ。内蔵助(西郷輝彦=1947〜2022)と主税の姿を見るのはこれが最後。今生の別れとなると知りながら、自分をぐっと抑えているりくの気持ちをお見せしたい」と語り、実際、ここではセリフはあまりなかったが、涙する観客はとても多かった。

 大石内蔵助は多くの俳優が「一度は演じてみたい」役で、長谷川一夫(1908〜1984)ら銀幕の大スターをはじめ、ドラマでも萬屋錦之介(1932〜1997)、三船敏郎(1920〜1997)、北大路欣也(80)、里見浩太朗(87)など名優が務めてきた。妻のりくも、山田五十鈴(1917〜2012)、三田佳子、大竹しのぶど大女優が熱演してきた役である。

 私は長年「女性が主役の三大時代劇」として、「くノ一もの」「大奥もの」「お姫様もの」を挙げてきた。高島は、お庭番、大奥の局、戦国の姫(浅井三姉妹のお江与)と時代劇の3大キャラクターをコンプリートした上に、大石りくも経験した稀有な女優だ。ここに「キャッツアイ」の女泥棒も加わり、さらに華やかに。時代劇ファンとして、うれしい限りである。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部