山崎賢人1強の状態が続いているのに女優はといえば

 マンガの実写化に関連する話題が「セクシー田中さん」問題以降、注目を集めている。人気作品であるほどファンの思い入れが強いため、キャスティングの段階で批判を浴びるリスクは高くなる。しかもなぜか業界内の評価が得づらいという面もあるようだ。なぜか。ライター・冨士見ネコが分析する。

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 山崎賢人さん1強問題。そう、実写化映画の話である。「キングダム」の人気を経て「ゴールデンカムイ」も満員御礼、次は「陰陽師」実写版でも主役を務めるそうだ。「ゴールデンカムイ」はWOWOWでの続編にも期待の声が高まっている。

 マンガ実写化という金脈は邦画界の真ん中に流れ続けてはいたものの、「セクシー田中さん」の事件から一転して地雷と化している。とはいえ、マンガ実写化の流れは相変わらず強いことに変わりない。特に世界観を再現するための制作費が潤沢なNetflixと、「少年ジャンプ」コンテンツのタッグは続いている。

「ONE PIECE」「幽☆遊☆白書」のヒットを経て、今度は「CITY HUNTER」だという。2次元キャラの再現度高過ぎ俳優として名高い鈴木亮平さんが満を持して登場、もちろん主人公の冴羽りょうという難役に挑む。タフでスケベでスタイルの良い色男。演じられるのは鈴木さんくらいだと、原作ファンからも納得の声が上がっている。

 実写化されるほどの人気マンガに、キャスティングの賛否はつきものだ。今回は、野上冴子役の木村文乃さんが、「ちょっと冴子にしてはかれんすぎるのでは」とやり玉に挙がったようである。2015年の日本テレビのドラマ「エンジェル・ハート」で冴子役を演じたのは高島礼子さんだが、ぴったりだと絶賛されていた。冴子といえば峰不二子らと並んで「セクシーなキャラクターランキング」の常連。美人で肉感的な見た目はもちろん、クールで仕事のできる「女狐」っぷりを醸しだせる女優はそうはいない。

 そう、これからの実写化に立ちはだかる壁は、山崎さん出ずっぱり問題ではなく、「色っぽいお姉さんキャラ」を説得力をもって演じられる若手女優不足問題ではないだろうか。

必ず出る「若い頃の藤原紀香なら」 実写化に欠かせない高橋メアリージュンも受けた洗礼

「ゴールデンカムイ」では、妖艶で謎めいた女性キャラ・インカラマッ(※実際の表記は小さいラ)を高橋メアリージュンさんが演じている。彼女もまた、実写化には欠かせない女優さんだ。「闇金ウシジマくん」のスピンオフ作品で演じた犀原茜のような不気味な役から、「セクシー田中さん」のMiki先生のようにキュートで朗らかな役まで幅広く好演。インカラマッ役も演技シーンは未公開の段階だが、ぴったりだといわれている。

 しかし彼女も、当初はケチをつけられてのスタートだった。実写化作品の中でも成功例と名高い「るろうに剣心」では、花魁・駒形由美役に大抜てき。しかし和風美人で胸元あらわな色っぽいお姉さんキャラと、フィリピン人の母を持つ健康的な見た目の高橋さんとではイメージが違いすぎるとブーイングの嵐だった。高橋さんはずっとやりたかった役だと公言しており、大きなショックを受けたと後年のインタビューでも語っている。

 なお「るろうに剣心」では同様に、高荷恵役の蒼井優さんが発表された時も「違う」の声が上がっていた。由美とはまた違うが、女狐っぽい謎めいた美女という役どころ。少女らしさの残る顔立ちの蒼井さんとは正反対だということだった。なお蒼井さん、日本テレビが実写化した「おせん」でも粋な美人ヒロインを務めたが、こちらは原作者が局の改変ぶりに怒ったといういわくつきのドラマになってしまった。

 美人で仕事もできるダイナマイトバディ。マンガではよくあるキャラだが、誰が演じるなら納得できるのだろう。もはや定番のフレーズとなったのが「若い頃の藤原紀香なら」である。それくらい藤原さんの登場はエポックメイキングであり、彼女以降、匹敵する存在感のある若手が続いていないということだ。それはなぜなのだろうか。

評価が高い割に日の目を見ないグラビア出身女優や実写化女優たち お色気キャラ自体が時代遅れという風潮も

 一つには、グラマラスな体形がハンディになるという面がありそうだ。

 ドラマ「不適切にもほどがある!」では「かたせ梨乃とか仁支川峰子の脱ぎっぷりと体当たり演技で〜」と、ベッドシーンにNGを出すマネージャーに苦言を呈する場面があった。逆に言えば「若い頃のかたせ梨乃さんや藤原紀香さん」的な女優が出てくれば、唯一無二のポジションを築けそうなものだ。

 実際、藤原さんは舞台版「CAT’S EYE」の来生瞳を演じたことがあるが、実にハマり役だった。しかし、女優としての評価は薄かった。

 その後、グラビア出身の小池栄子さんやMEGUMIさん、橋本マナミさんらが女優としても頭角を現し始めたが、意外と実写化作品には起用されない。どこかグラビア出身ということで「本職の女優より一段下」とまだまだ見られがちな部分があるように思う。

 日本アカデミー賞でも、小池さんの受賞は2012年の「八日目の蝉」での優秀助演女優賞のみ。一方で受賞する女優陣の顔ぶれは固定化している。先日は最優秀主演女優賞が安藤サクラさんに決まったが、綾瀬はるかさん、吉永小百合さん、広瀬すずさん、宮崎あおいさん、広末涼子さん、長澤まさみさん、宮沢りえさん、このメンツがぐるぐる回っているような印象だ。みなスラっとした、清楚なタイプ。

 ところが高橋メアリージュンさんや橋本環奈さんなど、はつらつとした雰囲気でも実写化作品の常連だとノミネートもされないという面がある。山崎賢人さんだって、あんなに主演作が興行成績でヒットしても、2016年の新人賞以来レッドカーペットを歩いていない。

 つまり、グラマラスな体形の女優はそもそも主演に起用されづらく、助演で映えそうな実写化映画は作品として評価されにくい。ステレオタイプ的なお色気キャラ造形に、違和感や不快感を覚える若者も増えている。こうした状況が相まって、第二の藤原紀香が出ないのではないだろうか。

 とはいえ、まだまだマンガ実写化は金のなる木であることは間違いない。90年代コンテンツがひとめぐりした今、ひと世代下の「BLEACH」や「NARUTO」を狙う配信系企業は絶対にあるとみている。実写化それ自体に賛否はあれど、イメージ通りのキャスティングも原作リスペクトのひとつとすれば、松本乱菊や千手綱手など、人気キャラを誰が演じるのかは気になるところだ。マンガ同様に、芸能界も同じようなお行儀の良さげな女優ばかりではつまらない。「友情」「努力」「勝利」ならぬ「ボン」「キュ」「ボン」なキャラを再現してくれる女優だって、たくさん増えてほしいものである。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部