日本だけでなく、世界中で“大バズリ”している「Bling-Bang-Bang-Born」なる曲をご存じだろうか。歌うのは日本のヒップホップユニット「Creepy Nuts」で、早くも「今年の紅白出場は間違いなし」との声が上がっている。なかでもMCとして注目を集める「R-指定」の“ラッパー”らしからぬ意外な「素顔」に、人気のヒミツの一端が隠されているという。

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「Bling-Bang-Bang-Born」はTVアニメ「マッシュル-MASHLE-」の第2期OP曲で、公式チャンネルでの再生数はわずか2カ月で7800万回を超える。またオリコン週間ストリーミングランキングでも8週連続で1位を獲得するなど異例の人気を見せているという。

「同曲は日本だけでなく、Apple Musicのグローバルチャートで2位を記録したほか、海外30カ国以上のiTunes HIPHOPチャートでも1位に輝きました。曲のサビに合わせダンスするTikTok動画も世界中でバズっていて、日本発のヒップホップチューンとしては“快挙”といえる盛り上がりぶり。すでに業界内では『今年の紅白出場は確定だ』との声が上がっています」(音楽誌ライター)

 Creepy NutsはMCのR-指定とDJ松永の2人組ユニットで、結成は2013年。松永はDJの世界大会(19年)で優勝した経歴を持つ「世界1のDJ」である。一方のR-指定もラップバトル大会UMBで前人未到の3連覇を成し遂げた実績を誇る。

「実力派の2人ですが、その素顔は“ゴリゴリのコワモテ”とはほど遠く、歌詞の内容もストリートやドラッグに関する話などは一切出てこず、内省的で文学チックなのが特徴です。“陰キャのHIPHOP”として、これまでヒップホップを聞いたことのないファン層の掘り起こしに成功し、ヒップホップの“大衆化”の先兵のような役割を果たしている。ただ海外で同曲がウケているのは、リズムなどの独創性に加え、R-指定の変幻自在の滑舌や抑揚とともに繰り出される高度なラップスキルに面食らっている部分もあるようです」(同)

「オレの得意なモノ」

 R-指定は大阪府堺市出身の32歳。黒髪の長髪とヒゲがトレードーマークとされ、妻はタレントの江藤菜摘。10代の頃からラップバトルに出場し、「天才高校生」と呼ばれていたR-指定とヒップホップの出会いは中学時代に遡る。

 その時のことをR-指定は、ラッパーの「漢a.k.a GAMI」と対談したMcGuffinチャンネルで、「家族で牛丼屋でメシ食ってる時」にたまたま流れてきたジャパニーズ・ヒップホップを耳にして「ナニ言ってるか分からんけど、メッチャ気持ちいい」と感じ、すぐにのめり込んだと話している。

「バトルを志したのは、同時期に観た米ラッパー・エミネムの半自伝的映画『8マイル』がキッカケだったといいます。同じ頃、ラップを友達の前で披露したところ、“お前、うまいな”と褒められ、人生で初めて“得意なモノを見つけた”と感じたそうです」(同)

 ちなみに「R-指定」という名前も中学時代に自分で考えたというが、当初は「R-指亭 狂HEY(本名は野上恭平)」だったと苦笑まじりに回想している。

自分には「なんもないやん」

 R-指定が“ラップで生きていこう”と決めたのは大学2年生の時。すでにUMBに出場するなど“ラップ漬け”の日々を送っていたところ、大学から「奨学金」を打ち切られ、学費が払えなくなったことで退学を決意。社会との接点が絶たれ、“ラップで食っていく”と肚を固めたという。

 その後、UMBで3連覇を果たし、「史上最強」「バトルの申し子」などの称号を得るが、当時は「(3連覇達成で)バトルは引退」すると決めていたという。しかし1年後、ラッパーのZeebraから2015年にスタートしたTV番組「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系)への出演オファーを受けたことで人生に転機が。番組の人気とともにR-指定の知名度も急上昇していくことになる。

「McGuffinチャンネルで“これまでで辛かったこと”を訊かれたR-指定は『ラップに出会うまで』と答えています。それまでの自分は『なんもないやん』と。また彼は自分の書くリリック(歌詞)について、ストリートの世界とは無縁で“平和に生きてきた”一方で、自意識と格闘する等身大の自分を表現していると語っています。そのリリックを書く上で課したルールの一つが『自分の生きてきた道がダセェなら、ちゃんとダセェって言おう』――。一見、平凡な人生を歩んでいるように見える人間だって葛藤や苦悩、厄介な自意識を抱えており、“何がリアルか”は人によって千差万別。ケンカや犯罪などの武闘派エピソードを持っていない自分の半生をウソ偽りなくさらすことで、彼なりの“リアル”を訴えかけている。これまであまりフォーカスされなかった“非ストリート派”の現実を描くことで、ヒップホップというジャンルを越え、多くのフツーの人たちから共感や支持を集めています」(同)

 結成から10年の時を経て掴んだ念願の「大ヒット曲」を追い風に、2人はさらなる高みを目指せるか。

デイリー新潮編集部