元TBSアナウンサーで女優の田中みな実(37)が登場するテレビ朝日のドラマ「Destiny」(火曜午後9時)が9日から始まった。田中はいきなり他界するが、これからも回想シーンで登場することになりそう。さて、田中はすでに一人前の女優か、それとも発展途上の段階か。考察したい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

第1回であっけなく“事故死”

 石原さとみ(37)が検事・西村奏役で主演する「Destiny」。田中は奏の大学時代の親友・及川カオリ役で登場することが早々と発表されていたが、第1回であっけなく死亡した。表向きは交通事故死だった。

 カオリは大学時代、やはり親友の野木真樹(亀梨和也)が好きだったが、真樹が奏とこっそり付き合っていたため、激しく嫉妬。面倒くさい女性だった。

 ある日、カオリは真樹を自分が運転する車に乗せ、山道を走る。そしてハンドルを握りながら「真樹はカオリと付き合ったりしたらダメなんだよ!」と声を張り上げた。ますます面倒くさかった。

 カオリの言い分はまるで中学生のようだったが、自死したとされていた奏の父親で検事の英介(佐々木蔵之介)が、本当は他殺だったからだと言った。その殺人に真樹か彼の父親で弁護士の浩一郎(仲村トオル)が関与しているようだ。

 その後のカオリは急に大人しくなり、真樹に対し穏やかな口調で「ねぇ、一緒に死なない? 死のうよ」と、語り掛ける。怖ろしかった。さながらサイコホラーだ。直後にカオリはアクセルを大きく踏む。

 結局、カオリは死ぬが、真樹は助かる。単なる交通事故ではない。真相はカオリによる無理心中か真樹による殺人か。その答えは今後、明らかになる。田中は回想シーンで再登場するはずだ。

評価を上げた「悪女について」

 ドラマ界で田中の評判は良い。意外に思う向きもあるかも知れないが、本当である。初主演作だったNHK「悪女について」(2023年)によって評価が急伸した。

「Destiny」の第1回においても石原や同じく大学時代の親友・森知美を演じた宮澤エマ
(35)を相手にひけをとらなかった。田中が得意とする面倒臭くてエキセントリックな女性役だったせいもあるだろう。

「悪女について」で田中が演じた主人公・富小路公子もまたエキセントリックだった。子供がいたが、2人の男性に対し「あなたの子供よ」と大嘘を吐き、それぞれから巨額の金品をせしめる。それを元手に宝石店とエステサロンを経営するようになり、財を成した。

 世間は公子を「悪女」と罵るが、本人はせせら笑いながら「この私が悪女? 面白いことをおっしゃるわね」と、うそぶく。公子は他人からの評価に関心がなかった。

 もっとも、公子が本当に悪女だったかどうかは分からずじまい。公子は家が貧しく、母親に犯罪歴があったため、愛し合っていた金持ちの御曹司との仲を引き裂かれた。公子が金に執着するのは自分の過去への復讐であり、素顔は平凡な女性だった。難役だったが、田中は演じきり、評価を上げた。

 お姫様から凶悪犯まで演じ分けられる女優ばかりが名優ではない。特定のキャラクターを演じると、他者を寄せ付けないタイプも名優と評される。田中もあざとい女性役、エキセントリックな女性役、サイコパス的な一面のある女性役などを演じると、光り輝く。

飽きられちゃうのが一番悲しいこと

 田中はこれまでに19本のドラマに出ているが、その中でもテレ朝「M 愛すべき人がいて」(2020年)で演じた姫野礼香はエキセントリックでサイコパス的だった。レコード会社専務(三浦翔平)の社長秘書なのだが、勝手に専務が自分の結婚相手だと信じ込んでいた。

 このため、専務が関心を示す女性アーチストらに激しい憎悪心を燃やし、嫌がらせを繰り返した。行動全般が常軌を逸し、犯罪的行為も厭わなかった。この手の役柄が似合う女優はそういない。

 TBS「俺の家の話」(2021年)では、人間国宝の能楽師(西田敏行)に甘える通訳に扮した。この能楽師に気がある素振りを見せながら、肩すかしを食らわせた。この女性もあざとく、田中はハマっていた。

 TBS「最愛」(2021年)、フジテレビ「あなたがしてくれなくても」(2023年)でも爪痕を残した。アナ出身であることから、色眼鏡で見られがちだが、もはやドラマ界にとって欠かせぬ存在だと言っていいのではないか。

 TBSを退社して10年。当初はフリーアナに専念するつもりだったという。

「女優をやるとは思っていませんでした。バラエティー番組も大事で、雑誌もやりたい仕事がある中で、最初は(ドラマの長い)スケジュール拘束へのフラストレーションがあって『ワンシーン撮るために何でこんな遠方に来るの』と思いました」(2020年6月12日付スポーツ報知)

 しかし、女優としてスタッフや視聴者から一定の評価を得るうち、欲が出た。

「視聴者さんに飽きられちゃうのが一番悲しいことです。そうならないように常に新しい物を提供できるような状態であり続けたいと思っています」(2020年7月6日付デイリースポーツ)

“熱愛報道”亀梨との共演にも動じず

「Destiny」では恋人と伝えられる亀梨と共演。亀梨に思いを寄せるという役柄だから、私生活と重なり合う部分もあるが、やりにくいということはないようだ。なにしろ田中はメンタルが強い。

 昨年2月18日放送のTBSラジオ「田中みな実 あったかタイム」(土曜午後6時30分)内では「プライベートでは人付き合いがないですよ。どんな会にも属してないし、だからどこからも呼ばれない。楽ですよ」と、軽く語った。こう言い切れる人も珍しい。孤独も孤立も恐れていない。

 一方で「視聴者さんに飽きられちゃうのが一番悲しい」という人なので、自分と亀梨への関心からドラマへの注目度が高まったことを歓迎しているのではないか。

 女性アナ出身の女優は田中のほかに元NHKの故・野際陽子さん、元フジの山村美智子(67)、引退した元長野朝日放送の斎藤陽子さん(55)、元TBSの宇垣美里(31)、元テレビ東京の森香澄(27)らがいる。しかし、第一線で長く活躍する人は数少ない。

 歌手から女優への転身組は「歌も演技も同じ表現だから、成功率が高い」(TBSプロデューサー)と言われ、実際に元キャンディーズの伊藤蘭(69)、モダンチョキチョキズの濱田マリ(55)、元東京パフォーマンスドールの篠原涼子(50)、元ribbonの永作博美(53)、元folder5の満島ひかり(38)らが活躍している。

 それと比べると、やはり表現者でありながら女性アナ出身組の成功例は目立たない。転身時の年齢が高くなってしまうせいでもあるだろう。しかし、田中が大成功を収めたら、後を追おうとする女性アナが増えるに違いない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部