賀来賢人との対談で

 俳優の鈴木亮平が日本のドラマの現状について「韓国に20年くらい差をあけられた」と発言し波紋を広げている。これは3月31日に放送されたフジテレビ系「だれかtoなかい」での出来事。Netflixで世界的ヒットとなったドラマ「忍びの家 House of Ninjas」を企画し主演した俳優の賀来賢人と対談した鈴木は、司会の中居正広から「(日本のドラマは)監督業、脚本業、プロデュース業と分けて……」と振られると「それで今まではこれた んですけど。我々は日本国内だけに向けて作品を作っていたけど、気がついたら海外、例えばお隣の韓国に20年くらい差をあけられちゃったっていう危機感がある」と打ち明けたのだ。

「20年」という数字にネットはざわついた。鈴木によると、韓国は20年前から海外に向けた作品を制作しており、日本もドラマの世界的ヒットのために俳優が積極的に企画を考えるべきとの立場を示した。鈴木は東京外国語大学英語専攻卒業で英検1級の持ち主。22年10月に韓国・釜山で開催された第4回アジアコンテンツアワード(ACA)ではTBS系日曜劇場「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」が出品され、主演を務めた鈴木が主演男優賞を受賞しただけに海外ドラマの動向について、関心があるのは当然と言える。

 鈴木が「20年遅れている」というからには、日本のドラマ界に危機的な問題があるのだろう。実際、日本のドラマについて「学芸会か……」と嘆く声も聞かれる。NetflixやDisney+(ディズニープラス)の韓国ドラマと見比べると日本ドラマの“安っぽさ”ばかりが目立って見えてしまう人もいるのが現実だ。

 かつて日本のドラマ制作に警鐘を鳴らしたのが、映画「キングダム」シリーズで怪演を見せている俳優の大沢たかおだ。大沢は「君といた夏」(94年)、「星の金貨」(95年)、「お仕事です!」(98年)、「美しい人」(99年)、「アナザヘブン〜eclipse〜」(2000年)、「JIN-仁-」(09年)などの連ドラに立て続けに出演していたが、「JIN-仁-」以降、多くの仕事を映画にシフトしてしまった。

大沢たかおは海外にシフト

 21年8月に放送されたTBS系「日曜日の初耳学」でインタビュアーの林修と対談した大沢はその理由について「何で先をどんどん急ぐのだろうか」「クオリティーとかお客さん(視聴者)に喜びや感動を伝えることよりもとりあえず完パケ(ドラマの完成品)を作るほうが優先される」「そこに合わなくなった」と批判的に語っていた。

 大沢を知る芸能記者がこう明かす。

「彼が言いたかったのは映像や演技の出来栄えに満足がいかないのに改善しないまま撮影を終了してしまうドラマの撮影スタイルに不満がたまっていた、ということです。大沢は映像や演技に強いこだわりを持っているだけに我慢ができなかったのでしょう。日本のドラマのほとんどはここ20年進化していません。むしろ、予算削減を迫られる中、近年のドラマの質はますます低下しています」

 他にも原因があるという。主演級俳優を多く担当したベテランマネジャーはこう説明する。

「最近の俳優はいいドラマを作ることよりも少しでも多くのCMに出演することの方を重視しています。人気俳優の多くがいつもワンパターンの演技で終わってしまうのも、演技の勉強が不足しているから。肝心のテレビ局も俳優を育てるといった意識はほとんどありません。それどころか、アメリカで本格的に演技の勉強をしてきた俳優が監督から嫌われて脇に追いやられる現場も目撃しました。力の強い大手芸能プロダクションに忖度したキャスティングも目に余ります。特に若手や新人俳優の演技が下手でテイクを重ねたいところなのにやり直しする時間がないから仕方なくOKを出してしまう。まずいのは監督も分かっているのですが、時間の余裕がなくスケジュール優先になりがちです」

 これでは海外どころか国内の視聴者を満足させることすら難しい。1話に1億円をかけたと言われる「VIVANT」など例外もあるが、日本のプライム帯ドラマの制作費はおよそ3000万円前後。一方、韓国ドラマは1億円、作品によっては2億円を超えるという。

「脚本家や俳優に支払われるギャラは日本の数倍以上で、全16話の場合、脚本家の取り分は5000万円以上とも言われます。高額ギャラが保証されるので韓国の俳優たちは演技に専念できますし、監督も満足できる映像が撮れるまでこだわり続けます。このため韓国のドラマは細部にまでこだわり、高い完成度を誇ることができるのです」(前出の芸能記者)

制作費は日本の数倍

 韓国ドラマの制作費は日本の数倍に達し、その大部分はNetflixなどのグローバル配信会社との提携によるものだ。Netflixは昨年4月、韓国に向こう4年間で約25億ドル(約3800億円)というケタ違いの投資をすると発表した。この大規模な投資により、韓国のドラマ業界は莫大な予算を現場につぎ込むことが可能となり、その結果、高品質な作品が次々と生み出されている。

「大沢が久々連続ドラマに出演した09年放送のTBS系『JIN-仁-』は数分の野外シーンの撮影のためだけに地方ロケを繰り返し、大沢も睡眠時間を削って参加したといいます。こうしたこだわりを持つドラマはTBSの日曜劇場くらいになってしまいました。予算削減、俳優の演技力の低下、余裕のないスケジュール、道路使用許可が下りない、など日本のドラマを取り巻く構造的な問題は解決が難しい。ただ、ドラマ経験豊富な鈴木なら『忍びの家』のような世界的ヒットを狙えるアイデアを持っているはず。予算的規模が大きいNetflixなど大手配信サービスといかに手を組んでいくかが今後の課題でしょう」(放送ライター)

 周回遅れの日本のドラマ界に救世主は現れるか。

デイリー新潮編集部