プロンプトの勉強が不可欠

 この時期、レポートや課題に追われている学生も多いだろう。ただ、大学教員にとって悩ましいのは、生成AIの登場だ。なにしろ、このツールを使えばたちどころにレポートを書き上げることが可能だからだ。大学の最新事情はどうなっているのか。

 国内最難関である東京大学の現役学生がこう話す。

「生成AIを使ったことがない学生なんてみたことがありません。今やグーグルで検索しなくても、ChatGPTなどの生成AIにプロンプトを出せば、なめらかな文章を作ってくれます。特に理系の学生の場合、教授たちも生成AIを積極的に利用するよう求めています。今さらレポートだけ『利用するな』とは言えないですよ」

「プロンプト」とは、ChatGPTに与える命令文や指示文のこと。このプロンプトの内容によって生成してくれる文章の質と内容が大幅に変化する。つまり、良いレポートを書くためにはプロンプトに関する勉強が不可欠なのだ。

 そもそも、ChatGPTとは、15年12月11日にサム・アルトマン、イーロン・マスクらによって米国で設立された非営利法人OpenAIが、22年11月に公開した対話式のAIチャットボットのことをいう。

 公開からわずか2カ月で1億人のユーザー数を記録するなど凄まじい速度で広がった。無料版GPT3.5と有料版GPT4があり、無料版は英語の場合、2500字程度の文章を数秒のうちに書いてくれる。

 例えば、「日本の少子高齢化について対策を述べよ」と指示を出すと、「日本の少子高齢化に対処するためには、以下のような対策が考えられます」と前置きしたうえで「1働き方改革、2教育・保育施策、3移民政策の見直し、4地域ぐるみの取り組み、5働き方や家族の在り方に関する意識改革」の5項目にそれぞれ説明を加えて完成。約600文字の文章がわずか15秒で提示される。

 ただ、いかにもキレイな文章のため、慣れてくると生成AIが作成したことが分かってしまう。また、ChatGPTには限界があることも注意が必要だ。例えば、「日本の総理大臣は誰か?」と聞くと「2024年1月現在、日本の総理大臣は情報が更新されていないため、具体的な総理大臣の名前を確認することができません」と回答してきた。

「ChatGPTは21年9月までの学習データをもとに回答しているのでこんなことも起こります。ただ、Webブラウジング機能をオンにすると最新の情報を取得することも可能です。使い方や指示次第で高度な文章を作り上げてしまうので、IT好きの学生たちが学内で情報を交換しながら“バレない”レポートの上手な書き方を教え合っているのが現状です」(教育ライター)

 こうしたことから香港大学は1年前、学内のすべての授業とレポートにChatGPTなどのAI使用を禁止。日本では東京大学副学長の太田邦史教授が昨年4月3日に声明を発表し、「生成系AIは教育・研究活動など大学の活動にも大きな影響が生じる」「書かれている内容には嘘が含まれている可能性がある」「人間自身が勉強や研究を怠ることはできない」と指摘した。

 全国の大学に先駆けてChatGPTを導入した東北大学は、同年3月末に教員向けポータルで「ChatGPT等の生成系AIが教育現場でプラスに活用されることも考えられますが、一方で、多くの学生がレポート作成等に利用することで、従来の演習課題やレポート課題による教育効果が十分に発揮されなくなったり、適切な成績評価ができなくなるという懸念も生じます」と問題提起した。

世界中で試行錯誤

 大学当局が懸念するように生成AIの文章作成能力は日進月歩の飛躍を見せている。

 アメリカの有名SF誌「Clarks World Magazine」は昨年、AIを利用したと思われる応募作品が激増したことで、人間が執筆した作品との選別が困難になり一時的に投稿を中止した。

 一方、日本の歴史あるSF小説賞「星新一賞」では、AI利用の作品「あなたはそこにいますか?」(著作・葦沢かもめ)が一般部門の優秀賞を受賞するなどAIを排除しない姿勢だ。今年1月に芥川賞を受賞した作家の九段理江さんは自著「東京都同情塔」について「5%ほど生成AIを使った」と打ち明け話題になった。

 もちろん小説と学生のレポートは質が異なるが、それほどの勢いで生成AIが普及していることを示す好事例だろう。成績評価を前に生成AIの利用を個人的に禁止している大学教授が自信たっぷりにこう話す。

「授業の出席と授業内の活発な議論をベースに、期末レポートには授業内で配布した関連資料に登場したキーワードの解説を求めています。実際にChatGPTに打ち込んでも簡単には出てこないような、それほど難しい専門用語です。これなら学生たちも安易なレポートは出せません」

 しかし、その一方で25年実施の大学入学共通テストから新たに「情報I」が出題科目に加わるなど文科省は文系、理系問わず情報に関する教育を各大学に求めている。

「確かに文学、社会学、人類学、言語学などで頻繁に参照される研究者の主要概念についてChatGPTは詳しく回答できないことがあり限界を感じますが、プロンプト次第ではかなり良質な文章を書いてきます。“丸写し”はもちろん言語道断ですが、ChatGPTの回答を検証し、そこに学生自身のオリジナルな問題提起や課題を盛り込んでいけば、見破ることは困難です」(大学講師)

 先出の東大生は「ChatGPTによるレポート作成を防ぐため、レポート課題を取りやめて筆記試験を課すようになった先生もいます。急速に進む情報社会に逆行しているようで複雑な心境になりますよ」と冷ややかだ。

 大学教員と学生のいたちごっこが深刻化しそうだ。

デイリー新潮編集部