日経平均株価がついに4万円を突破した。だが、喜んでばかりもいられない。このままでは日本人の「老後」が危ういのだという。

 経済部のデスクが言う。

「株高の要因にはまず円安があります。さらには、日本経済がデフレ期を脱し、インフレの軌道に乗ったと投資家から評価されたことで起きているといえます。実際に、2021年春から始まった消費者物価指数の上昇は直近で前年同月比2.2%を記録しています」

 物価がゆるやかに上昇すれば、企業の業績も回復し、そして賃金上昇につながるというのが、これまでの政府や専門家の主張である。

老後2000万円問題

 いっぽうで、このペースでインフレが続くとしたら長寿社会の日本で何が起きるのだろうか。

 思い出すのは、19年6月、政府の金融審議会の市場ワーキング・グループが出した「高齢社会における資産形成・管理」というレポートだ。いわゆる“老後の生活資金2000万円問題”の火種となった報告書である。

「同レポートは内容がショッキングだったことから麻生太郎財務大臣(当時)が受け取りを拒み、話題になりました。そこでは退職した夫婦が90代まで生きられるとすると、年金だけでは約2000万円もの生活資金が不足すると指摘されていたのです」(同)

「25年間で1億円以上必要」

 では、そもそも老後にかかるお金は全部でいくらなのか。答えは翌年10月、金融庁総合政策課の担当者名で出された資料に〈平均約8000万円〉とある。それによると夫婦二人、65歳から25年間生きる想定で、月額約27万円が必要というものだ。だが、

「インフレが始まったことで、8000万円でも収まらなくなるでしょう」

 とは「インフィニティ」のチーフエコノミスト・田代秀敏氏。

「レポートが発表された時点で、日本はまだデフレ下でした。しかし、今のように消費者物価指数が毎年2%上がってゆくとなると、私の試算では25年間で1億250万円が必要になる。もちろん、年金は物価スライドで増額しますが、社会保障費の増額で相殺され、可処分所得が増えることは期待できません」

 だから政府は「新NISA」を導入し、資産運用すべしと喧伝しているのか。金融審議会は、その後、老後資金については何も報告していない。

「週刊新潮」2024年3月14日号 掲載