保険金不正請求問題でボロボロになった「ビッグモーター」の再建計画が発表された。ワンマン前社長・兼重宏行氏は今後、“残務処理”に専念することとなるが、その陰で25億円もの借金をしていた。担保は、あの豪邸や巨大別荘で……。

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 会社分割による、ビッグモーターの事業再建スキームが発表されたのは3月6日のことである。

 再建を支援するのは伊藤忠商事だ。200億円を出資して「新会社」を設立し、ビッグ社の事業を買収、継承する。一方で、オーナー・兼重家の資産管理会社が100%の株を持つ「旧会社」は、事業から切り離され、債務返済や損害賠償に専念することになるのだ。

「伊藤忠が買ったというのは、ある意味、驚きでした」

 とはさる経済部記者だ。

「オリックスなどが買収を検討していましたが、内情を見て断念した。それを中古車販売とは関連が薄い商社が買うわけですからね」

高級ホテルのような豪邸

 一方の兼重家側にとってみれば、

「ラッキーというところでしょうか。もちろん買いたたかれるでしょうが、対価は入り、一部の資産も残る」

 オーナー自身の資産も同様だ。本誌(「週刊新潮」)既報の通り、兼重家は資産管理会社の名義で多数の不動産を所有する。

 まず前社長の自宅は東京都目黒区青葉台に聳(そび)える、約500坪の豪邸である。ソニーの創業者・盛田昭夫の土地を買い取って建てたもので、噴水や滝、茶室を備える、高級ホテルのような代物だ。

 別荘も複数あり、軽井沢には約2900坪の土地に2棟のセカンドハウスを所有。隣にあるトヨタ自動車の豊田章男会長の土地よりも、敷地面積は広い。また、熱海の駅から車で5分ほどの高台にはオーシャンビューの別邸を、京都の南禅寺近くにも日本家屋風の邸宅を所有。

 まさに成金の欲望全開だが、かの不祥事の後も、これだけの資産を失うことはないままなのである。

「借り入れに緊急性があったことを意味する」

 ところが――。

 これらの不動産登記を見ると、ある“動き”があったことが分かる。

 昨年12月28日の日付で、前述の土地や建物にまとめて抵当権が設定され、25億円もの借金をしているのだ。貸し手は東京スター銀行で利率は6.08%。

 司法書士の元木翼氏は、

「年末ギリギリの借り入れですから、急に資金が必要になったのかもしれません。ビッグ社の株主への融資は銀行にとってはリスキーですが、担保価値は十分と判断したのでしょう」

 とみるが、一体なぜこれだけの額が必要だったのか。

「推測ですが、2通りのケースが考えられます」

 とは、経済コンサルタントの小宮一慶氏。

「ひとつは昨年末にビッグ社の運転資金が苦しくなり、急きょ、オーナーとしてそれを調達した可能性」

 もうひとつは、会社分割後の旧会社への出資金だ。

「日経の報道では、創業家は損害賠償などに備え、100億円を出資するとのことです。この一部を充当する目的かもしれません。これだけの担保を入れているにもかかわらず、利率が高めに設定されているのは、借り入れに緊急性があったことを意味しています」

せめてもの“償い”か

 いずれにせよ、

「兼重家は株主という立場ですから、本来ビッグ社に拠出する責任はない。巨額の借金は、せめてもの“償い”という意味があるのかもしれません」

 そうみれば少し印象も和らぎそうだが、先の記者いわく、

「とはいえ、それでも兼重家は黙っていても一生、左うちわで暮らせるほどの資産がある。一方で、会社に残った社員たちにはいばらの道が待っていますから……」

“逃げ得”との批判は免れそうにない。

「週刊新潮」2024年4月4日号 掲載