突然、辞任表明した静岡県の川勝平太知事(75)の後任は誰になるのか。永田町では早くも複数の国会議員の名前が取り沙汰されているが、地元では「静岡財界のドン」と呼ばれる大物経営者が誰を推すかに注目が集まっている。

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昭和の人間にありがちなズレたリップサービス

 川勝氏辞任への引き金となった失言は、4月1日、入庁式の新入職員へ向けた挨拶で飛び出した。農業や酪農、ものづくりに関わる人に対する職業差別とも受け取られかねない内容だった。地元記者が呆れて語る。

「またかという感じでした。就任以来、細かいのを入れると20回はあったと思う。森喜朗さんと同じで、人前に出ると昭和の人間にありがちなズレたリップサービスをしてしまうのです。失言直後に『メディアの切り取り』などと責任転嫁するのもいつものパターンです」

 ただし、自分から辞めると言い出すとは「誰も予想していなかった」という。これまで二度も議会から追及を受けるも振り切ってきたからだ。

 2021年に御殿場市を揶揄する「あちらはコシヒカリしかない」発言をした直後には、県議会で辞職勧告決議案が可決された。ただ決議案には強制力はなく、川勝氏は自身へのペナルティとして給与など440万円を返上すると発表して乗り切った。

 しかし、翌年になっても返上していないことが発覚。さらにそれを議会のせいにするかのような発言をしたため、議会がブチ切れ今度は不信任決議案を提出されるピンチに。だが不信任決議案もわずか一票差で否決されて首の皮一枚で逃げ切った。

 今も議会構成に変化はない。追い詰められるまでは、自分から辞める必要はなかったのである。

辞めてくれるならいまさら理由なんてどうでもいい

 川勝氏は辞意を漏らした翌日、正式に会見を開いて辞任を決めた理由を語ったが、「言っている意味がよくわからなかった」という意見が大勢だ。

「今回の失言とJR東海がリニア中央新幹線の2027年開業を断念したことで一区切りついたことの2点を辞任の理由として述べましたが、両者は全く関係のない話ですからね。ただ川勝氏にさんざん振り回されてきた議会やマスコミ、県庁職員は一様に『辞めてくれるならいまさら理由なんてどうでもいい』と話しています」(同)

 理由はどうあれ、リニア中央新幹線の早期開通を願う国、JR東海、隣県などの関係者からすれば、川勝氏の退陣は大歓迎であろう。静岡県にはリニアの新駅が設置されないため県民にとってはリニア開通のメリットは小さいが、いつまで経っても話が進まない状況に呆れている県民も多かった。

「リニアは、川勝氏個人の問題で止まっていたと言っても過言ではありません。反対の理由として、当初は大井川の水量が減少するリスクを指摘していましたが、JR東海は大井川上流部にある『田代ダム』の取水量を抑え、工事中に湧水が県外流出した場合でも大井川の水量を維持する解決案をちゃんと示した。すると、今度は生態系への影響や土砂の捨て場の安全性を持ち出してくるなど、らちが明かない状況が続いてきた」(同)

「川勝色がつくのは迷惑」

 では次の知事は誰になるのだろうか。真っ先に名前が取り沙汰されたのは、辞任表明前に川勝氏から「後継指名を受けた」と伝えられた立憲民主党の渡辺周元防衛副大臣(比例東海)である。渡辺氏自身も「そのような含みのあることを言われた」と認めていた。

 ただ川勝氏は会見で「渡辺氏を後継指名していない」と否定した。川勝氏によれば、渡辺氏は知事選に出た時に何度も応援してくれた恩があり、かつて知事職にも意欲を示していたが、「川勝知事が出るのであれば私は出ない」と言っていたとのこと。その際、「私が出ない時には連絡する」と約束していたので、その約束を果たしたまでとの話だった。永田町関係者によれば、渡辺氏はまんざらでもない様子だという。

「ただ周囲には『後継と目され、川勝色がつくことは迷惑だ』と漏らしています。野党系では国民民主党の榛葉賀津也幹事長(参院静岡選挙区)の名前も浮上しています」(永田町関係者)

 一方、自民から名が挙がっているのは、かつて“民主党のホープ”と言われながらも“転向”した細野豪志氏(静岡5区)である。こちらも天から降ってきたチャンスを伺っている様子だという。

「自民党に移っても大した役職も与えられずうだつが上がらないまま。後ろ盾になっていた二階俊博元幹事長も失脚してしまって、もう国政には居場所がないのでしょう。ただ裏金問題で批判が殺到しているこの最中、自民が独自候補を立てるのは難しい判断になりそうです」(同)

ドンが推す人物

 こんなふうに永田町では盛り上がってはいるが、地元では違った見方が出ている。

「どうやら永田町で取り沙汰されているどの候補についても、鈴木修スズキ自動車相談役が難色を示しているらしいのです。別に意中の人がいるようで」(前出・地元記者)

 御年94歳の鈴木氏は「静岡財界のドン」と呼ばれており、川勝氏の後ろ盾にもなってきた有力者だ。特にスズキが本社を置く浜松市においての影響力は絶大で、歴代の浜松市長は「鈴木氏が事実上決めてきた」と言われるほどである。

「鈴木さんはどうやら県ゆかりの官僚などを念頭においているようです。もう与野党が対立するような知事にはしたくはないでしょう。鈴木さんが後見人になって浜松市長を4期務めた鈴木康友氏を推す声も。こういう候補なら党派色も消えて与野党相乗りしやすい。地元政界と経済界も川勝さんの一人相撲に疲れ果てているので、知名度やパフォーマンスよりも実務や調整能力に長けた人物を望む声が高まっています」(同)

 早ければ7月中にも知事選が行われる見通しだが、果たしてドンの希望通りの人物が選ばれるのか。

デイリー新潮編集部