5名もの死者が出ている、小林製薬の紅麹サプリによる健康被害事件。原因究明は遠いが、背景には同社のずさんな企業体質がある。10年ほど前に明るみに出た、とある治験をめぐる不祥事を振り返れば、その様子が手に取るように分かるという。関係者は語る――。

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 小林製薬は社名に“製薬”と銘打っているが、一般的に処方薬と呼ばれる医療用医薬品は取り扱っていない。商品はすべて薬局などで買える市販薬かサプリなどの健康食品、または日用品の類である。

「同社の礎は、創業家出身で今も代表取締役として君臨する小林一雅会長(84)によって築かれました。彼が1960年代以降、トイレ洗浄剤のブルーレットやトイレ芳香剤のサワデー、冷却ジェルシートの熱さまシート、洗眼薬のアイボンなど数多くのアイデア商品を世に送り出していったのです」(小林製薬関係者)

 臨床試験などで長い時間を要し高額な研究開発費を投じなければならない処方薬には、決して手を出さない。約半世紀にわたって切り口とネーミング重視のアイデア商法路線で、高収益体質を強化し続けてきた。

「現在、同社が製造していた紅麹成分入りのサプリを摂取した人に健康被害が相次いでいます。すでに5名もの死者が出ており、今月7日時点で入院者数は212名を記録しました。健康被害が確認されたサプリの製品ロットや原料から、プベルル酸なる毒性の強い化合物が見つかりましたが、これが非常に珍しい物質であるため、原因究明には長い時間がかかるとみられています」(社会部記者)

「製薬の専門家がいなかった」

 食品をめぐる健康被害としては近年まれに見る惨事を引き起こしてしまった小林製薬。その背景には特異な企業体質がある、と指摘する声は多い。

「2010〜11年、小林製薬は社として初めての治験を行いましたが、データ改ざんといった大きな不祥事を起こしています。この時の内情を解き明かすと、同社のずさんさがありありと分かるでしょう」(同)

 小林製薬はナイシトールとビスラットという2種類の肥満症改善薬のシリーズを販売している。いずれも市販薬の漢方薬で、同社が商品開発を手掛ける以前から成分は承認済みだった。しかし、同社はすでに販売を始めていた肥満症改善薬のパワーアップのため新たな成分を加えるべく、意気揚々と初の治験に乗り出したそうだが……。

 この治験を現場で担当したのは、治験支援会社のサイトサポート・インスティテュート(以下SSI社、現シミックヘルスケア・インスティテュート)だ。事情を知る関係者は憤りを隠さずこう語る。

「当時、小林製薬には製薬の専門家と呼べるレベルの人材がいませんでした。厚労省や医薬品機構との調整を行う窓口自体がなく、医薬品が承認を得られるまでの基礎的なプロセスを誰も理解していなかった。無知ゆえに治験をSSI社に丸投げしたのです」

治験前のBMIを偽装

 治験は肥満症改善薬を摂取させ、身長と体重から算出される体格指数=BMIがどれだけ変化したかを計測する単純なものだった。

「しかし、小林製薬はBMIの値が元より大きい、つまり、肥満度が高い被験者を大勢集めなくてはいけない条件を設定していました。これは与えられた期間に対して非常にハードルが高かった。SSI社の治験コーディネーターは、この条件に沿う被験者を集めるようにと何度も圧力をかけられ、結果としてデータ改ざんに手を染めてしまいました。被験者6名の身長を実際よりも低く記録し、治験前のBMIを大きな値へと偽装したのです」(同)

 13年、治験の舞台となった大阪市内の病院の心ある職員たちの告発によりデータ改ざんが発覚したが、小林製薬は自らの責任を省みることなく、それどころか、SSI社から被害を受けたとして損害に対する補償を請求していくと主張した。

2154万円もの謝金

 さる製薬会社の関係者は小林製薬の主張についてこう疑義を呈する。

「治験の担当医師だったこの病院の内科部長に、小林製薬は2154万円もの高額すぎる謝金を支払っていました。これは限りなく利益相反に近い行為だったといえるでしょう。同社が担当医師と結託し、自らの意に沿うよう治験をコントロールしたとみられても致し方ありません」

 実際、13年に作成されたこの不祥事に関する調査報告書には、SSI社の治験コーディネーターは担当医師の合意のもとでデータ改ざんに手を染めた疑いがある旨が記されている。

 むろん、最終的にデータ改ざんを行ったSSI社の治験コーディネーターにも責任はあろうが、小林製薬の瑕疵(かし)が全く不問にされている現状はおかしいと言わざるを得ない。

「厚顔無恥な被害者面」

 また、データ改ざんだけでなく、治験方法そのものにも大きな問題があった。

「被験者に治験を実施した病院の職員が含まれていたことも、医療倫理的にはアウトでした。利害関係者から客観的なデータが取れるわけがないからです」(同)

 最終的に小林製薬はSSI社から金銭的補償を受け取ったようだが、

「とにかく、小林製薬は強気の姿勢を崩さずに終始一貫、厚顔無恥な被害者面を続けたそうです。両社の交渉は幹部同士で行われましたが、SSI社の側から“どうして無茶な治験をやろうと思ったのか”などと質問されても、“ウチは医薬品の開発に関しては何も分かりませんから”と言い訳ばかりだったと。しまいには“だから御社みたいなプロに任せたんだ”と、開き直る始末だったと聞きました」(同)

 調査報告書の作成に携わったとある人物は、調査を機に小林製薬のいいかげんさを知り、「もう二度と同社の商品は買いません」とあきれ返ったという。

消費者の健康を軽視

 医薬情報研究所エス・アイ・シーの堀美智子氏も、

「小林製薬は商品が売れればよいという姿勢が強すぎて消費者の健康を軽視しているように見えます。処方薬は取り扱っていませんが、そんな会社が市販薬やサプリを販売しているのは問題だと思います」

 消費者の健康を軽視している具体例としては、

「例えば、尿路感染症などの排尿トラブルを改善するとされている、ボーコレンという製品があるのですが、この成分は抗生物質がない時代に使用されていた古い漢方薬です。しかし、小林製薬は13年前から売り出し、すごい効果があるようにCMで謳っている。結果として、最初から抗生物質の入った処方薬を使ったらすぐ治る可能性が高い場合でも、病院へ行かずにボーコレンを使い続け、膀胱炎などの症状が悪化してしまう人が出てくるわけです」(同)

 聞けば聞くほど、紅麹サプリの健康被害が引き起こされる下地が整えられていたとしか思えない。小林製薬のずさんな企業体質が明るみに出つつある今、消費者から三くだり半を突きつけられる日も近いのではあるまいか。

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「週刊新潮」2024年4月18日号 掲載