わずか2カ月余りの間に30台近くの展示車が盗難被害に遭う“災難”に見舞われた中古車販売大手「ビッグモーター」。伊藤忠から200億円の支援を受け、新会社へと生まれ変わる直前で起きた「大規模窃盗事件」に接し、同社内では新たな“騒動”が勃発しているという。

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 最初の事件は1月28日。群馬県にある館林店で8台が盗まれると、3月には埼玉県・春日部店で3台が盗難。そして4月に入り、被害は一気に拡大する。

「4月2日に坂戸店(埼玉県)で一度に10台が盗まれ、さらに数日後には山梨と長野県内の店舗で計8台が盗難に遭うなど被害は加速。狙われたのはいずれも屋外に展示されていた国産車ばかりで、犯行時刻は閉店後の午前0〜5時頃に集中していた。すでに店舗側は被害届を提出済みで、各県警は“大規模な窃盗グループによる犯行”の可能性も視野に捜査を進めています」(全国紙社会部記者)

 発覚の経緯は、各店舗の警備システムが作動したことで、警備員らが駆け付けた時には展示車は消えた後だったという。4県で29台もの車が相次いで盗まれる異常事態を受け、動揺の広がる社内の様子を同社関係者がこう明かす。

「被害に遭った各店は、売り上げで上位に顔を出す『大型店舗』という共通点があります。大きな店舗だと展示車の在庫も常時200台を超え、その分、セキュリティーも厳重。だからこそ“外部の窃盗団”の可能性があると聞いた社員の多くが、『本当にそんなことが可能なのか?』と首をかしげました」

「ミステリーだ」の声

 同社関係者によると、各店舗は防犯カメラや赤外線センサーなどを設置しているほか、営業が終了すると積載車や複数の車を使って“バリケード”を構築し、出入り口を塞いでいるという。

「車を搬入できる出入り口は店舗正面ともう一つ、脇や裏側など計2カ所しかないところが多い。過去にはバリケードとして縦列駐車させた車と車の隙間をコジ開けられ、展示車が盗まれたケースはありますが、さすがに8台や10台が一度に被害に遭うなど聞いたことがない。ヒト目の多い大通りに面している店舗も多く、被害店の一つである松本店などは徒歩で10分もかからない距離に松本警察署がある。社内でも『ミステリーだ』との声が上がっています」(同)

 そのため根拠はないながら、真面目な顔で「内部犯行説」を唱える社員も現れ始めているとか。

「周囲に不審がられずに車を持ち出すには、敷地内から“関係者”が運転して出て行くのが最善のやり方。従業員みずからが持ち出さなくても、店舗内に手引きする協力者がいれば、外部の人間による大量窃盗も容易になる点は否定できない。従業員なら防犯カメラの死角も分かっているし、また営業マンであればディーラー人脈も豊富で、売り飛ばせるルートを知っている可能性もゼロではない。そもそも展示車には保険が掛けられているため、何台盗まれようと会社に損害は出ない仕組みで、仮に内部の人間が関与していたとしても罪悪感はないでしょう」(同)

 ただし、社内で「内部犯行説」がリアリティを持つのには別の理由があり、それが一部の社員の置かれている状況という。

「生活が苦しい…」

「4月下旬にも伊藤忠の出資による新会社が設立される予定ですが、社員が皆、期待に胸を膨らませているかといえば、そんなことはない。特にこれまで年収1000万や2000万円を稼いできたトップクラスの営業マンらは、さすがに今後は売れば売るだけ収入に跳ね返る“大盤振る舞いの歩合給”が保証されるとは考えておらず、不安を隠さない者もいます」(同)

 ビッグモーターの社員の給与は基本給とマージン(歩合)で成り立ち、マージンの占める割合が大きいのが特徴だった。しかし社員の大量離職を防ぐため導入された「マージン補填」も昨年いっぱいで打ち切られ、子供や住宅ローンを抱えた営業マンのなかには「生活が苦しい」とコボす者も出てきているという。

「新会社に移行しても状況が改善する保証はなく、営業職のモチベーションとなっていた、かつてのような“旨味”が維持されるかも分からない。新たな船出を前に悶々とした思いを抱えている社員も少なくないのが現実です。実際、兼重体制の刷新によって『逆に先行きが見通せなくなった』として、3月に入ってから会社を辞めた営業マンもいます。まァ、辞める直前に有休を全部消化して、優雅に海外旅行へと出かけていましたが……」(同)

 ビッグモーターに社内から「内部犯行説」が出ている点などについて、事実確認と見解を求めたが、

「捜査中のため、回答を差し控えさせていただきます」

 との答えにとどまった。懸命の捜査が続く。

デイリー新潮編集部