岸田首相や二階氏には処分なし

 岸田文雄首相の命運を握る4月28日投開票の衆院3補選が近づいている。とはいえ、自民党は長崎3区、島根1区、そして東京15区のうち、独自候補を擁立するのは島根1区のみ。それだけにその勝敗に注目が集まるが、他方、永田町では支持率の上昇が長らく見込めない岸田政権がいつ倒れるのかが既定路線となり、さまざまな水面下での動きが始まっている。

 まずは、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題からおさらいしておこう。安倍派と二階派の39人の議員らの処分内容が4日、発表された。

 安倍派の座長を務めた塩谷立元文科相と参院側の代表・世耕弘成前参院幹事長に「離党の勧告」が、下村博文元文科相と西村康稔前経産相にはその次に重い「1年間の党員資格の停止」が、安倍派解散決定時まで事務総長を務めていた高木毅・前国対委員長には「半年間の党員資格の停止」が、それぞれ下った。

 一方で、自民党のトップであり、自ら率いる派閥の会計責任者が立件された岸田首相、同じく自ら率いる派閥の会計責任者が立件され、派閥を率いた二階俊博元幹事長はおとがめなしとなった。

島根1区の情勢は

「当初取り沙汰されていた処分よりはかなり重くなった印象で、世論の厳しさを反映したと見られています。が、岸田首相や二階氏に何の処分も下されないというのでは、国民の納得を得るのは難しいでしょう。加えて、安倍元首相が廃止の方針を打ち出したキックバックについて、安倍氏の死去後、存続を決めた会議に出席していた安倍派内の4人(塩谷、下村、西村、世耕の各氏)の間で処分に差があるというのも分かりにくいように感じますね」

 と、政治部デスク。岸田首相としては不祥事に厳然たる対処をしたことで世の中の評価を得たかったのだろうが、なかなか目論見通りに行かないようだ。首相は4月10日に国賓待遇で訪米し、バイデン大統領と会談する。「外交の岸田」をアピールしたいところだろうが、これもまたアピールポイントとしては物足りないものとなりそうだ。

「4月28日投開票の島根1区の結果が岸田政権の命運を握っているのは間違いありません。細田博之前衆院議長の死去に伴う“弔い選挙”だけに与党側有利のはずなのですが、候補の評判が芳しくなく、一時は野党側候補に結構なリードを許していました」(同)

事務総長との秘密会談

 もっとも、島根での選挙に与党側が勝利しても、その後に岸田政権の内閣支持率が急上昇すると見ている関係者はほとんどいないのだという。

「連立を組む公明党でさえ、“次期総選挙は岸田氏以外で”という認識でいるほどです。したがって、岸田首相が狙ってきた9月の総裁選での再選どころか、首相が総裁選に出馬できない可能性も大いにあります」(同)

 状況を客観的に見れば、すでに政権は末期。「聞く力」があれば、身を引くタイミングを真剣に考えるべき時期ともいえる。が、ここ最近の岸田首相の政局への対応ぶりから、「聞く力」を標榜しながらも党内では聞く耳を持たず、独善的に振る舞うタイプだとの評価が固まりつつあるとされる。

「その点から、岸田首相がどこかのタイミングで解散に打って出るのではないかとの見方があります。実は3月末、自民党で選挙のカギを握る元宿仁事務総長が“なかなか外しづらいない案件をキャンセルした”ことがありました。表立ってのキャンセル理由が見当たらないことから、岸田首相から解散をテーマに会談を要望されたのではないかとの指摘もあるようです」(同)

ポスト岸田は

 負けることがわかっている解散総選挙だけに誰もが羽がい締めして止めそうな気もするが、首相が決意を固めていれば翻意させるのは難しいのかも知れない。

「岸田首相の解散戦略の一方で、ポスト岸田への動きも活発化しています。主流派である麻生太郎自民党副総裁と茂木敏充幹事長と非主流派の菅義偉前首相が主導権争いを繰り広げています。それぞれが候補を絞り切れず、ギリギリまで検討を続けることになりそうです。現時点で国民的な支持がほとんどと言って集まっていない候補であってもリーダーに担がれる可能性もあり、ある意味で、誰もが首相の座にたどり着ける千載一遇のチャンスが訪れているとも言えるでしょう」(同)

 永田町内のこうした観測や見立てに、政策論はまったく聞こえてこない。

 新しいトップもまた古いトップと同じようなもの、といった無情というか情けない状況も十分予想される。国民不在の裏金疑惑が忘れられた後、また新たな国民不在の政局が始まりそうだ。

デイリー新潮編集部