対象者選びに頭を悩ませ…

 4月4日、自民党裏金問題を巡り、岸田文雄首相(66)は党紀委員会を開き、安倍派と二階派の議員ら39人の処分を決定した。安倍派元幹部に対して「離党勧告」という「除名」に次ぐ重い処分が下された背景とは……。【前後編の前編】

 ***

 3月30日、岸田首相は東京・有明で開催された電気自動車(EV)の“F1レース”、「フォーミュラE」の開会式に出席し、

「今日は皆さん、この未来の夢を十二分に楽しみましょう」

 こう高らかに、開会の言葉を述べたのである。だが、

「本当のところ、首相自身は未来の夢を楽しむような気分ではなかったのでは」

 とは政治部デスク。

「自民党の茂木敏充幹事長(68)が4月1日、派閥裏金事件に関係する議員の処分について党紀委員会の開催を同委員長に要請。派閥幹部及び不記載額500万円以上だった39人を対象とすることを決めたのですが、首相は処分対象者の範囲や処分の度合いに、相当頭を悩ませてきました」

思惑が透けて見える背景事情

 本来処分対象は、政治資金収支報告書に記載しなかったことが確認されている、82人の現職議員と選挙区支部長3人の計85人となる公算だった。しかし、

「処分の先手を打って引退を表明した二階俊博元幹事長(85)に関しては、その判断を重く見て“おとがめなし”とした。さらに残り約半数に当たる安倍派の中堅・若手らについても、単純ミスによる不記載まで処分を科す前例は作れないし、そもそも中堅・若手は派閥からのお達しで還流を受けていただけで悪質性はないと判断。不記載額500万円のラインを処分の下限としたのです」(同)

 もっとも自民党関係者は、

「最終的に処分の範囲を決めたのは首相ですが、今回は茂木幹事長が処分対象者を40名未満に抑える流れを主導したといわれています。茂木幹事長は自身が総裁選に出馬することを見越して、安倍派の中堅・若手に恩を売っておきたかったとの見方がもっぱらです」

 そんな思惑も透けて見える背景事情を明かす。一方、首相はあることについて決断をためらっていた。

「それは、塩谷立元文科相(74)、下村博文元文科相(69)、西村康稔前経産相(61)、世耕弘成前参院幹事長(61)ら安倍派幹部4名に関する処分についてです」(前出・デスク)

 幹部4名は安倍晋三元首相死去直後の2022年8月上旬、還流再開に関して協議している。結果、安倍氏が生前に決めた還流中止の方針が覆ったのだが、

「協議の中身に関して、各幹部は政治倫理審査会の場で釈明したものの、証言は食い違いました。政倫審は真相解明には程遠い結果で終わったのです」(同)

「再聴取は政治的なポーズ」

 批判の高まりを受けて首相自身が先月26日から2日間、幹部4名に再聴取を実施したが、

「政倫審の場で真相が解明できなかったわけですから、再聴取は政治的なポーズであるのは見え見えでした」

 政治ジャーナリストの青山和弘氏が言う。

「岸田首相は再聴取を実施した先々週半ばまでは4幹部について、上から3番目に重い処分である『党員資格の停止』か、4番目に重い『選挙における非公認』を検討していました」

 ところが、と続けて、

「国民の反発が想像以上に強く、党内からもより分かりやすい厳格な処分を求める声が相次いだ。しかも、コロナ禍の緊急事態宣言発令中に銀座のクラブを訪れた松本純元国家公安委員長ら『銀座3兄弟』は離党勧告を受けています。岸田首相は周辺に“安倍派幹部の責任を厳しく問わないと、処分全体が甘いと受け止められる”と漏らすようになり、少なくとも一部幹部には『離党勧告』を出すべきだとの考えに先々週末、官邸は一気に傾いたのです」

一時的には「除名」同様の憂き目に…

「離党勧告」は最も重い「除名」に次いで重い処分である。処分が下った場合、それを拒むことはできず、離党を受け入れざるを得ない。唯一の違いは「除名」の場合、原則的に復党が許されないことだ。

 先のデスクが言う。

「離党勧告を受けた『銀座3兄弟』のうち、田野瀬太道衆議院議員(49)は21年10月の総選挙に無所属で立候補し再選。当選後自民党から追加公認され、復党となりました。一方で、麻生派の松本氏は落選。麻生太郎副総裁(83)の気持ちを慮ったのか、茂木幹事長の決裁で一時は復党が認められたものの、地元の神奈川県連が猛反発し、白紙になった。結局、22年1月まで松本氏の復党は認められませんでした」

「離党勧告」をはじめ、「党員資格停止」や「非公認」の処分を受けた場合、選挙で勝てば追加公認を得られる。だが、負けてしまえばしばらくは無所属の立場に甘んじなくてはならない。つまりは「『非公認』以上の処分は、一時的には『除名』同様の憂き目に遭う」(同)のだ。

 後編では、離党勧告処分となった塩谷氏が取材に語った“他人事”すぎるコメントなどについて報じる。

「週刊新潮」2024年4月11日号 掲載