塩谷氏は「事実上の引退」

 4月4日、自民党裏金問題を巡り、岸田文雄首相(66)は党紀委員会を開き、安倍派と二階派の議員ら39人の処分を決定した。安倍派元幹部に対して「離党勧告」という重い処分が下された背景とは……。【前後編の後編】

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 4月4日、自民党は安倍派と二階派の議員ら39人の処分を決定し、安倍派幹部の塩谷立元文部科学大臣(74)と世耕弘成前参議院幹事長(61)は離党勧告に、下村博文元文部科学大臣(69)と西村康稔前経済産業大臣(61)は1年間の党員資格停止となった。

「前回総選挙で静岡8区の塩谷氏は、小選挙区で敗北。辛くも比例復活を遂げた立場です。自民党の公認が得られないと落選は必至で、事実上、引退しか道は残されていません。また、東京11区の下村氏は前回選挙で対立候補に約3万5000票差をつけて勝利していますが、党の公認が得られず、公明党・創価学会の支援も受けられないとなれば、逆風下での選挙は相当厳しくなると予想されます」(政治部デスク)

 また世耕氏については、

「裏金問題が起こる以前は、総理総裁を目指して、衆院鞍替えをもくろんでいた。引退間近の二階元幹事長の選挙区からの出馬を視野に入れていたのです。しかし、今回の処分を受けて、衆院への転出は不可能に。参院の次の改選は来年夏。それまでは、無所属の参院議員であることを強いられます」(同)

 一方で、

「兵庫9区の西村氏は今のところ、選挙区に有力な対立候補が見当たらない。年内にも想定される総選挙で勝利し、復党できる見込みです」(同)

 つまりは、西村氏以外の3名、すなわち塩谷氏を筆頭に下村氏や世耕氏も“死刑宣告”と同等の苦しい状況に追いやられる形だ。これを裏返すなら、わざわざ「離党勧告」に及ばずとも、当初思い描いた「非公認」でも当事者らには同様の痛手となったわけである。保身にきゅうきゅうとする首相にとっては、あえて重い罰を科すパフォーマンスが必要だったのだろう。

「還流をどうするかは、安倍さんが亡くなった後に決めたわけでしょう」

 首相による再聴取等について4幹部の一人、塩谷氏に電話で話を聞いたが、

「還流をどうするかは、安倍さんが亡くなった後に決めたわけでしょう」

 と他人事のよう。下村氏も、

「聴取に関することは一切、コメントできません」

 と述べるのみだったが、このタイミングでの処分となったことについて、政治ジャーナリストの青山和弘氏は、

「岸田首相は8日から訪米しており、4月28日の補選を見据えると、裏金問題に一区切りをつける必要があった」

 と解説する。もっとも、4幹部に対する厳しい処分で幕引きが図れるかといえばそうではない。

「先々週、日テレが“キックバック再開判断に森元首相関与”と報じました。この報道は、森喜朗氏と敵対関係にある下村氏が発信源だといわれたのですが、当の下村氏は各社に“事実ではない”と打ち消している。とはいえ今後は、森氏の証人喚問を求める声が高まることが予想されます」

 自民党関係者はそう明かす。さらに続けて、

「無論、森氏も手をこまねいてはいない。自ら頻繁に岸田首相や麻生副総裁に連絡を入れて、まかり間違っても証人喚問などには呼ばれないように働きかけている。加えて、後輩にあたる早大雄弁会OBの議員らにも与野党問わず電話をしているともいわれています」

島根が首相の天王山

 齢86にして、なんとしても生き残ろうという執念には畏敬の念すらおぼえよう。だが、保身を一番に考えているのは岸田首相も同様で、

「東京と長崎の補選で自民は独自の候補者を擁立できず、不戦敗が決まっています。しかも残る一つ、島根の補選も現状では情勢が厳しい。首相は6月の国会会期末での解散を思い描いてきましたが、島根で大敗すれば、9月の総裁選前での退陣を余儀なくされます。首相は今、世論をなんとか上向きにせねばと躍起です」(前出・デスク)

 島根が首相の天王山だというのである。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏も次のように指摘する。

「首相が厳しい処分に踏み切ったのは、世論の反発を抑えて島根の補選に勝利し、6月に解散総選挙に踏み切りたいとの思惑があったとみて間違いない」

 前編では、厳しい処分を下した岸田首相の思惑について報じている。

「週刊新潮」2024年4月11日号 掲載