岸田文雄首相の「車座」が話題だ。まずは言葉の意味を「デジタル大辞泉」(小学館)で調べてみよう。そこには「多くの人々が輪のように内側を向いて並んで座ること」と説明されている。果たして岸田首相は、この定義をご存知なのだろうか──?

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 岸田首相と「車座」の言葉が注目を集めるようになったのは3月17日。この日、自民党は都内で党大会を開催した。岸田首相は党総裁として演説を行い、派閥の裏金事件について謝罪。そして岸田首相や党幹部が全国を回り、地元の党員や支援者などと「政治刷新車座対話」を実施すると発表した。担当記者が言う。

「さっそく岸田首相は4月6日、熊本市で開かれた車座対話に出席しました。首相が最初に参加した車座対話だったため、新聞やテレビ局といった大手メディアだけでなく、自民党も対話の内容を報じました。党の公式サイトに8日、『「変わる決意」全国各地で共有する 政治刷新車座対話が本格始動』との記事が配信されたのです」

 自民党が作った記事だとはいえ、出席者からは厳しい意見が相次いだことが記されている。政治資金規正法の厳罰化や、党の綱紀粛正などが要望され、岸田首相は「政治刷新を進める」と答えたという。

「さらに岸田首相は4月21日、島根県安来市で開かれた『車座対話』にも出席しました。衆院の3補欠選挙は激しい選挙戦となっており、28日に投開票が行われます。特に島根1区は自民党新人の錦織功政氏と、立憲民主党の元職である亀井亜紀子氏による一騎打ちとなっています。自民党としては絶対に落とすわけにはいきません。そこで岸田首相は自ら錦織氏を応援するため自ら島根県に入り、『車座対話』にも参加したというわけです」(同・記者)

岸田首相の車座は間違い?

 その「車座対話」の反響だが、やはり熊本市より安来市のほうが話題を集めたようだ。特にXでは、その傾向が強い。島根1区の補選が大きな要因だろう。

「安来市の車座対話でも『党員として恥ずかしい気持ちでいっぱいだ』といった厳しい意見が相次ぎ、この様子を多くのメディアが伝えました。ところが、『車座対話』のニュースが話題になればなるほど、『岸田首相は車座と言っているが、出席者の座り方が間違っているのではないか?』という声も増えているのです。辞書では車座を『多くの人が輪のように並んで座る』と説明していますが、岸田さんは出席者が作った輪の中に1人で座っているからです」(同・記者)

 熊本市で開かれた「車座対話」について自民党が記事を配信したことは先に触れたが、公式サイトには写真も掲載されている。見てみると、確かに15人を超える参加者が輪になって椅子に着席し、その真ん中に岸田首相が座っていたことが分かる。

 安来市での「車座対話」は東京新聞、産経新聞、スポニチアネックスなどが記事を配信しており、写真を見ると熊本市と同じように輪の中に岸田首相が座っている。

 これを安倍晋三元首相の車座と比較してみよう。2013年1月、当時、首相だった安倍氏は宮城県亘理町の仮設住宅を訪問し、集会所で住民と車座になって懇談した。

岸田首相の「鶴の一声」

 時事通信が代表撮影を担当し、キャプションに「車座」の単語を使って今も写真を配信している。この写真を見てみると、安倍氏は住民と一緒に輪を作って座ったことが分かる。そのため安倍氏の両端には2人の住民が座っている。

 なぜ、岸田首相は辞書の定義とは異なる場所に座ったのだろうか。Xで検索してみると、2つ疑問の声が見つかった。

 一つは《岸田が座の真ん中に座る(今回は畳の上の椅子)必要があるの? 辞書を見る限り、車座の列に並んでいれば良いようです》というもの。もう一つは少し下品だが《岸田の後ろの人は最悪だな奴のケツばかり見てないといけないのか》というものだった。

 実は自民党関係者の間でも、この妙な車座が話題になったという。関係者は「最初の案では、車座の真ん中に位置するのは司会役だったそうです」と明かす。

「あくまでも岸田首相は『車座』の意味通り、参加者と一緒に輪になっているはずでした。ところが実際は岸田さんが真ん中に座った。どうやら『自分が真ん中にいないと絵にならない』というご本人の意向でああなったようです。確かに目立つでしょうが、岸田さんの背中側にいる人は表情が全く見えません。あれじゃあ車座対話の意味をなさないという声が出ていました」

背中側は激怒

 そもそも岸田首相が島根県に入ることすら、地元では反対意見が強かった。地元紙の山陰中央新報は8日、「岸田首相に来てほしくない 『政治とカネ』で逆風、告示後島根入り調整も『逆効果』 衆院島根1区補選」との記事を配信した。

 記事では多くの自民党関係者が、岸田首相の島根入りを「来てほしくない」と拒否。大半が匿名なのは当然だが、何と2人が実名で取材に応じている。これはかなり珍しい。

 自民党の選対副委員長を務める衆議院議員の牧原秀樹氏は島根県を訪れた際、山陰中央日報の取材に応じて「本当に首相が入るのがいいかどうか、よく見極めないといけない」との考えを示したという。

 さらに島根1区の選対本部で事務本部長を務める嘉本祐一氏も同紙の取材に「首相が来ることは選挙にマイナスではないかとの意見は聞いている」と率直に語っている。

「そんな逆風の中、岸田首相は島根県に入り、安来市の『車座対話』でヒンシュクを買ってしまったというわけです。開催の準備に追われた自民党関係者だけでなく、出席者からも不満の声が出ました。首相の背中側に座らされた人は、『自分の顔も見ないで話をするような総理総裁が引っ張る自民党は支持しない』と怒っていたそうです。『車座対話』のおかげで、さらに票が減ったというのが実感です」(同・関係者)

デイリー新潮編集部