今大会で最もプロから注目されるサウスポー

 3月18日に開幕する第96回選抜高校野球。同月8日には組み合わせ抽選会が行われ、初戦の対戦カードが決まった。今大会から反発力が弱い新基準の金属バット(飛ばないバット)が導入されることも大きな注目を集めている。果たして、どこが勝ち上がるのか。4つのブロックに分けて、ベスト4に進出するチームを徹底予想した。【西尾典文/野球ライター】

<Aブロック>
八戸学院光星(青森)−関東第一(東京)
田辺(和歌山)−星稜(石川)
近江(滋賀)−熊本国府(熊本)
豊川(愛知)−阿南光(徳島)

 まず、Aブロックは、関東一、星稜、熊本国府、豊川と、昨年秋の地区大会優勝校が4校入った。昨年11月の明治神宮大会で優勝した星稜を推す声が多いが、他にも力があるチームが多く、激戦が予想される。

 ただ、その中から一つ選ぶのであれば、八戸学院光星を推したい。なぜなら、エースの洗平比呂(新3年)を中心とした投手陣が強力であるからだ。

 洗平は1年夏、2年夏の甲子園を経験しており、今大会で最もプロから注目されているサウスポー。昨年秋の公式戦では夏の疲れを考慮して3試合の登板のみだったが、17回を投げて1失点、20奪三振と圧巻の投球を見せた。岡本琉奨と森田智晴(いずれも新3年)と力のあるサウスポーが控えており、投手陣の層の厚さは今大会で屈指だ。

 八戸学院光星に対抗するチームは、星稜と、昨秋の東京大会を制した関東一が挙げられる。星稜は、左の佐宗翼(新3年)、右の道本想(新2年)と左右の好投手を擁し、安定した戦いが目立つ。

 一方、関東一は、昨秋の明治神宮大会、3試合で21得点をたたき出した強力打線が持ち味だ。チームの総合力は、八戸学院光星に引けをとらない。大会序盤から熱戦が期待できそうだ。

頭一つ抜ける「健大高崎」

<Bブロック>
敦賀気比(福井)−明豊(大分)
学法石川(福島)−健大高崎(群馬)
創志学園(岡山)−別海(北海道)
山梨学院(山梨)−京都外大西(京都)

 Bブロックは、健大高崎が頭一つ抜けている。エースの佐藤龍月(新2年)は中学時代から評判のサウスポー。昨年秋の公式戦は、6試合に登板して防御率0.82という素晴らしい成績を残している。

 身長173cmで上背はそれほどあるわけではない。宮城大弥(オリックス)の下級生の頃とイメージが重なり、ストレートと変化球のいずれもレベルが高い。

 右腕の石垣元気(新2年)は、3月9日に行われた日大三との練習試合で最速150キロをマークし、調子を上げてきている。さらに、高校ナンバーワン捕手の呼び声高い箱山遥人や、入学時から評判の田中陽翔や高山裕次郎、森山竜之輔(いずれも新3年)ら力のある打者が揃っている。選抜は2012年のベスト4が最高成績。それを上回る可能性も十分にあるだろう。

 一方、健大高崎の対抗馬には創志学園を推したい。2022年8月に東海大相模を春夏4度の甲子園優勝に導いた門馬敬治氏が監督に就任した。昨秋の中国大会では、4試合で3失点と手堅い戦いぶりで準優勝を果たした。

 左の山口瑛太、右の中野光琉(いずれも新3年)と左右の力のある投手を揃え、守備陣の堅実さも目立つ。また打線は破壊力こそないものの、走塁の意識が高く、確実に得点できるのが持ち味だ。新基準の金属バットになると、こういう手堅いチームが強さを発揮する可能性が高い。

広陵を牽引する「安定感ナンバーワンのエース」

<Cブロック>
耐久(和歌山)−中央学院(千葉)
宇治山田商(三重)−東海大福岡(福岡)
広陵(広島)−高知(高知)
京都国際(京都)−青森山田(青森)

 続いてCブロック。筆頭は、やはり広陵になるだろう。エースの高尾響、捕手の只石貫太(いずれも新3年)と旧チームからのバッテリーが残っていることが何よりも大きい。高尾は172cmと投手としては小柄だが、145キロを超えるストレートと多彩な変化球を操り、その安定感は今大会でナンバーワンだ。

 只石は、安定したキャッチング、スローイングなど全てが高いレベルで、4番を務める打撃が光る。また、昨秋は高尾に続く存在として、大型右腕の堀田昂佑(新2年)が成長してきた。昨年の選抜は山梨学院、夏の甲子園は慶応といずれも優勝校と接戦を演じながら、惜しくも敗れている。それだけに、3度目の正直という思いも強いはずだ。

 広陵の対抗馬には、昨秋の東北大会王者の青森山田を推したい。関浩一郎、桜田朔(いずれも新3年)といずれも140キロ以上のスピードを誇る大型右腕を揃え、失点が少なく計算できるのが大きな強みだ。昨秋の明治神宮大会は初戦で敗れるも、優勝した星稜を相手に2対3と接戦を演じた。

 秋季大会のチーム打率は2割台ながら、4番の原田純希(新3年)ら、力のある打者は少なくない。初戦の京都国際はエースの中崎琉生(新3年)が好投手で簡単な相手ではないが、これを突破すれば、一気に勢いに乗ることも十分に考えられる。

優勝経験校が5チームも揃う「最激戦区」

<Dブロック>
神村学園(鹿児島)−作新学院(栃木)
大阪桐蔭(大阪)−北海(北海道)
愛工大名電(愛知)−報徳学園(兵庫)
日本航空石川(石川)−常総学院(茨城)

 Dゾーンは、常総学院をはじめ、作新学院や大阪桐蔭、愛工大名電、報徳学園と選抜優勝経験のある学校が5チーム揃う“最激戦区”となった。また、神村学園は昨年夏の甲子園でベスト4に進出した時のメンバーが多く残り、北海と日本航空石川も力のあるチームである。

 どのチームにも上位進出の可能性があるが、一つを選ぶとなれば、やはり大阪桐蔭になりそうだ。明治神宮大会では初戦で関東一に5対9で敗れたものの、史上初となる秋の近畿大会3連覇を達成した。

 投手陣は、平嶋桂知、南陽人(いずれも新3年)の経験豊富な2人に加えて、下級生ながら150キロ近いスピードを誇る森陽樹、中野大虎(いずれも新2年)が控える。昨秋は打撃と守備に課題が残った一方で、3月7日に行われた関西学院との練習試合では、21安打、19得点をたたき出すなど、新基準のバットの影響を感じさせない打撃を見せている。

 さらに、大阪桐蔭を後押ししそうなのが、昨年の悔しい経験だ。在版スポーツ紙の記者はこう語る。

「昨年のチームは、下級生の頃から絶対的な存在だった前田悠伍(ソフトバンク1位)がいながら選抜ではあと一歩のところで逆転負けし、夏は大阪大会決勝で敗れて甲子園に出場できませんでした。西谷(浩一)監督は相当、悔しかったと思いますし、続けて負けられないという思いが強く、この冬は相当、鍛えてきたようです。これまでも『大阪桐蔭の時代は終わるのか?』と言われる度に、甲子園で優勝して跳ねのけてきていますので、十分に期待できるのではないでしょうか」

 大阪桐蔭の対抗馬は、愛工大名電と報徳学園が有力だ。愛工大名電は、昨夏の甲子園に出場したメンバーが多く残り、打力は今大会でも屈指だ。一方、報徳学園はプロ注目の今朝丸裕喜に加えて、間木歩(いずれも新3年)ら、力のある投手が揃っている。昨年の準優勝を経験したことも大きい。大会5日目の第3試合で両校が激突する。初戦屈指の好カードといえそうだ。

 以上のように、ベスト4に進出するチームは、八戸学院光星、健大高崎、広陵、大阪桐蔭と予想してみた。だが、冬の間に大きく力をつけているチームもあるはずで、冒頭で触れた“飛ばないバット”が導入されるため、今大会は、例年以上に展開が読みにくい。昨年の選抜では前評判が低かった山梨学院が優勝しており、今年も意外なチームが勝ち上がる可能性も十分に考えられそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部