白鵬を日本相撲界に導いた恩人

 春場所で尊富士(たけるふじ・24)が110年ぶりに新入幕優勝を果たした。角界が明るい話題で沸く一方、宮城野部屋の処遇についてはいまだ先が見えず、心を痛めているファンも多い。そんな中、モンゴル出身者で初めて関取となった元小結旭鷲山(きょくしゅうざん)ことダヴァー・バトバヤル氏(51)が日本相撲協会への怒りをぶちまけた。

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 モンゴル出身者で初めての関取となった、元小結旭鷲山。2006年の引退後は日本の相撲界には残らず母国に帰り、建設や貿易などを手掛ける実業家へと転身した。

 また、08年からはモンゴルの国会議員を1期4年間務め、大統領補佐官も経験。現在は企業経営に勤しむ傍ら、モンゴル相撲協会の会長を務めている。

「旭鷲山は大相撲における現在のモンゴル力士隆盛の礎を築いた第一人者です。入幕以降、各相撲部屋との間を取り持ち、大勢のモンゴル人を入門させました」(大相撲担当記者)

 元横綱白鵬こと宮城野親方(39)との関係はつとに知られている。

「15歳で来日した宮城野親方はその頃、まだ体が出来上がっておらず、どこの相撲部屋からも声がかかりませんでした。そこで、旭鷲山が元幕内竹葉山こと先代の宮城野親方(66)に口を利き、なんとか入門にこぎ着けさせたのです」(同)

 いわば、宮城野親方にとって旭鷲山は、日本の相撲界に足を踏み入れるきっかけを作ってくれた恩人である。今でも宮城野親方が旭鷲山を“兄貴”と呼んではばからないのはそのためだ。

「白鵬をいじめ過ぎ」

 今の宮城野親方を取り巻く状況について旭鷲山に聞くと、

「僕がもっとも問題だと思っているのは、日本相撲協会が白鵬をいじめ過ぎだということです」

 現在、宮城野親方は弟子だった元幕内北青鵬(22)の暴力を止められず、監督責任や日本相撲協会への報告義務を怠った咎(とが)で角界から追放されそうな勢いだ。

 2月に公表された処分は、委員からヒラの年寄へと2階級降格させられる極めて重い内容だった。さらに、この4月から宮城野部屋は所属する伊勢ケ浜一門の預かりとなってしまう。

「これまでも角界では若い衆がドツかれたとか、暴力が隠蔽(いんぺい)されたとか、そんなことは数え切れないほど繰り返されてきました。でも、それだけで部屋を取り上げられるまで追い込まれた親方はいないでしょう。このたびの白鵬に対する仕打ちは厳しすぎます」(同)

“僕の責任ですから。一生懸命頑張ります、兄貴”

 北青鵬の暴力は公表されている内容よりもひどかったといわれており、宮城野親方に弁解の余地はない。だが、日本相撲協会がかつての貴乃花(51)や現在の宮城野親方などの気に入らない敵を排除してきた一方、お仲間には甘い対応を繰り返しているのも事実だ。

 昨年、陸奥(みちのく)部屋でも暴力隠蔽問題が発覚したが、協会ナンバー2の事業部長だった元大関霧島こと陸奥親方(64)の処分はたんなる報酬減額にとどまった。

 今回の大阪場所が始まって2、3日目に、旭鷲山はモンゴルから宮城野親方に電話をかけている。

「モンゴルのメディアでも、宮城野部屋が消滅しそうな状況について“日本人が白鵬をいじめすぎだ”と問題になっています。そんな中で僕のところにある記者が取材に来た。“だったら直接、聞いてみるよ”と、白鵬本人に電話しました」(同)

 すると、宮城野親方は1〜2分の短い時間でこのように語ったという。

「本人は落ち込んだ声でしたが“僕の責任ですから。一生懸命頑張ります、兄貴”と言いました。日本相撲協会や他の親方衆への文句は一切なかった。“男だな”って思いましたよ」(同)

 今後、旭鷲山は宮城野親方の処遇次第では、日本の文部科学省に厳重な抗議を行う予定だそうだ。

 さて、旭鷲山の魂の叫びは日本相撲協会に届くのか。それとも、相変わらずの恣意的な処遇やえこひいきが続いていくのか――。3月28日発売の「週刊新潮」では、旭鷲山が戒めたという、宮城野親方のモンゴルでの“狼藉”などについて詳しく報じる。

「週刊新潮」2024年4月4日号 掲載