我々が見過ごしてしまっていた点を突いた、重要な指摘と言っていいだろう。イギリスの有力経済紙・フィナンシャル・タイムズ(電子版)は3月30日、「大谷翔平、野球界のスーパースターにのしかかる重圧(Shohei Ohtani, the baseball superstar under pressure)」との記事を配信した。

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 3月21日、MLBのドジャースは突然、通訳の水原一平氏を解雇したと発表した。水原氏は大谷翔平の専属通訳として、エンゼルス時代から献身的なサポートで知られていたのはご存知の通りだ。

 解雇だけでも衝撃的だったが、大谷の代理人を務めるバーク・ブレットラー法律事務所が「大谷は巨額の窃盗被害者である」と主張したことで一層、騒ぎは大きくなった。

 水原氏は解雇直前にアメリカのスポーツ専門チャンネル「ESPN」の取材に応じ、違法賭博の関与と、大谷の口座から少なくとも450万ドル(約6億8000万円)を違法ブックメーカーに送金したと釈明した。だが後に発言を全面撤回しており、真相はいまだに明らかになっていない。担当記者が言う。

「フィナンシャル・タイムズ紙はまず、大谷選手は野球にしか興味がなく、金銭トラブルなどは皆無と伝えました。原文は『大谷は野球の技術を完璧にすることに全てを捧げており、金銭的な問題に関しても、“うんざりするほどクリーンだ”というのが周囲の評判で、これは重要だろう』となっています。その上で、大谷選手はポルシェや日本航空など、世界中の名門企業と広告契約を結んでおり、野球以外にも巨額の収益を得ていることを伝えました」

記事の核心

 何しろイギリスの経済紙だから、国内の読者は野球など全く興味がない。記事は大谷がドジャースと10年7億ドル(約1015億円)の巨額契約を結び、野球界を代表する“顔”であることを要領よく伝えた後、いよいよ核心部分に入る。

《どのようにして金が盗まれ、どのようにして大谷の銀行口座の管理権は水原氏に譲られたのだろうか?》

《もし大谷が友人に嘘をつかれていたと実際に気づいたのなら、水原氏と職業上における他の関係についても調査を開始しているのだろうか?》

《大谷がドジャースと契約交渉を行っている間、水原氏はメインのパイプ役だったのだろうか?》

《もしそうなら、7億ドルの大半が後払いになるという契約で、水原氏が条件を提示したことはなかったのだろうか? あの後払いの契約は大谷のアイディアだったのだろうか?》

 ご指摘、ごもっとも。大谷がドジャース側との意思疎通を全面的に水原氏へ委ねていたとしたら、彼はやりたい放題、どんな契約でも勝手に結べたという疑惑が浮上する。

「嘘をつく」可能性

「大谷選手が出席した記者会見でも、アメリカで生活するため、公私にわたってかなりの部分を水原さんに頼っていたことが明らかになりました。そうすると、契約の細部まで大谷選手がチェックしていたとは考えにくいものがあります。ドジャース側と大まかな点で合意に達すると、後は契約書の作成や細部のチェックなどは、代理人と水原さんに一任していたのではないでしょうか。さらに水原さんはギャンブル依存症であることが明らかになり、多くの専門医が“嘘をつく”ことはギャンブル依存症患者の典型的な症例だと解説しました」

 ギャンブルで生じた借金を少しでも減らすためには、どんな嘘でも付く。いや、借金返済よりギャンブルを続けるため、掛け金がほしくて嘘を付くことだってあるだろう。

「大谷選手のいない交渉の場で、水原さんはドジャースや代理人に、『これが大谷の意向です』と、どんな嘘でもつけた可能性があります。契約書が作成されても、嘘の日本語訳を大谷選手に渡すことだってできるでしょう。そんな人物がFA(フリー・エージェント)の交渉で、大谷選手の全面的な委任を受け、重要なやり取りを積み重ねていたかもしれないわけで、フィナンシャル・タイムズ紙の懸念は当然だと言えます」(同・記者)

デイリー新潮編集部