負けてもチームの雰囲気は明るい

 救世主は、筒香嘉智(32)になるのか――。

 開幕3カードを終えて、新星・阿部ジャイアンツは「負け越し」が2つ。4勝5敗とスタートダッシュに失敗してしまった。しかし、昨季に比べ、チームの雰囲気は明らかに良い。試合前の練習中でも中堅、若手は声を張り上げており、前日ノーヒットに終わった中軸バッターたちも暗い表情は見せていなかった。

「昨季は黒星スタート。第2戦から3連勝してその後は5連敗で、3勝6敗でした。今年は9戦中、7試合でQS(クオリティスタート=先発投手が6回以上を投げ、自責点3点以下)を付けています。負けても、ダメージが浅いのでしょう」(ベテラン記者)

 首位DeNAとの3連戦で3タテを阻止した4月7日。その一戦には阿部巨人「課題」が集約されていた。

 試合前、阿部慎之助監督(45)がグラウンドにつながる通路途中で、待ち構えていた記者団と目が合った。

「調査はしていただいているみたいだから。選手としては実績十分だし、人間性も素晴らしい」

 阿部監督は表情一つ変えずに、低い声色でそれだけ答えた。「筒香獲得へ」の一報はすでに出ており、その質問が出るのを察していたのだろう。

「“獲る”と断言はしていませんが、“調査している”と言っています。プロ野球界はトレードを含めて、交渉過程が明るみに出るのを嫌う傾向にあり、それでご破算になったケースもあります。筒香獲得に向けて動いていることを認めたのは、この時点で話がほぼ固まったのでしょう」(前出・同)

 筒香がメジャーリーグに挑戦したのは、19年オフのこと。DeNA時代は14年から6年連続20本塁打以上、本塁打王と打点王の2冠に輝くなど(16年)、「ハマの主軸」としてチームに貢献してきた。巨人との接点はほとんどないと思われていたが、

「13年オフ、巨人が筒香の交換トレードに動いたと聞いています。交換要員は大田泰示(33)で、まだ覚醒していない若手の逸材同士、環境を変えてやる意味合いもあったのでしょう。少なくとも、巨人は若手時代から実直にバットを振っていた筒香を評価していたのは本当です」(NPB関係者)

巨人が筒香獲得を考えた理由

 巨人が筒香獲得に動く背景には、開幕3日前に新外国人選手のオドーア(30)がファーム再調整を拒否し、退団したことが影響している。

 オドーアとの契約がキャンプ中盤になってしまったため、チーム合流もオープン戦中盤まで遅れた。今から新しい外国人選手を見つけるとなれば、就労ビザを取得するまでの日数も計算に入れなければならない。来日後、二軍調整などの期間を設けなければならないため、チーム合流は早くても「5月の交流戦後」になる。ならば、就労ビザ取得の必要がない日本人選手ということで、筒香が急浮上したという。

 筒香と代理人契約を結ぶ大手エージェント「ワッサーマン・グループ」のスタッフも来日し、古巣・DeNAだけではなく、巨人など複数のNPB球団と接触していた。

「NPBの各球団と会っていたのは、筒香が腰痛でいったんジャイアンツを離れ、キャンプに再合流するかどうかという頃でした。筒香は3月10日以降のオープン戦には出場していますが、今回のスプリングキャンプがラストチャンスだと自覚していて、キャンプ終了前に『ギブアップ』を代理人事務所へ伝えたのでしょう」(前出・同)

 見方を変えれば、巨人は筒香獲得に好感触を得ていたから、オドーアの慰留に固執しなかったとも言える。また、時期を同じくして、巨人は日本ハムとの交換トレードで郡拓也(25)を獲得した。郡は登録ポジションであるキャッチャーはもちろんだが、内外野全てが守れる。巨人は現在もリーグ最多となる7人の外野手を一軍登録しており、内野を 守れる郡は偏った野手編成を解消させるキーマンでもあったようだ。

 さらに打撃陣の補強については、こんな情報も聞かれた。

「巨人が筒香獲得に動いたのは、自然な流れでした。3カードが終わった時点で巨人のホームランは4本。阪神は12球団最多の9本を記録しています。四球で繋ぐ阪神の岡田野球に対し、巨人は伝統的に一発の破壊力を加えた攻撃スタイルです。一発の少ない今の巨人打線は、対戦投手にとって脅威ではありません」(ライバル球団スコアラー)

 巨人打線は左バッターが多い。これは左のプルヒッターだったオドーアを獲得した理由にもつながるのだが、クリーンアップは4番・岡本和真(27)と5番・坂本勇人(35)を固定させており、この2人は右打ちだ。岡本、坂本の2人を中心に考えているので、「左打ちのスラッガー」という発想になったそうだ。

阿部采配で見えてきた「足を使う野球」

 奇しくも、阿部監督が「筒香を調査中」と明言した7日、左打ちの好打者・丸佳浩(35 )が初回の走塁中、右太股裏の違和感を訴え、途中交代してしまった。

「11日に神宮球場で行われるヤクルト戦からの再合流を目指すようですが、どうでしょうか。ベテラン選手ゆえ、回復具合を慎重に見極めると思います」(スポーツ紙記者)

 一発が少なくなった巨人打線は「足」に活路を見出そうとしている。7日の試合、3点目を奪った3回の攻撃だが、一死三塁となったところで、ベンチの阿部監督がサインを送った。三塁走者の門脇誠(23)がそれを確認し、打者・松原聖弥(29)がバント。しかし、門脇はDeNA投手の大貫晋一(30)が打球を拾う寸前に、三塁に戻ってしまった。俊足・松原のスピードで一塁セーフ。松原は首を傾げていたので「スクイズ失敗」、一塁セーフは結果オーライと思われた。その後、主砲・岡本に打席がまわり、1点が入ったが、試合後の阿部監督は、門脇の動きは松原を一塁セーフにさせるためのフェイクプレーだったことを明かしている。

「阿部監督の作戦はバントを多用しており、手堅いものが多いです。開幕カードの阪神3連戦では、要所で配球サインを出していました。ルーキーの西舘勇陽(22)が臆することなく、ストレート勝負を挑んだのは阿部監督のサインによるものです」(前出・ライバル球団スコアラー)

 ベンチからバッテリーサインまで出す指揮官というと、ヤクルト監督時代の野村克也氏が思い出される。原辰徳監督の時代にはなかったベンチワークでもある。

「現状では、ホームランの期待できるバッターが岡本だけ。ホームランによるビッグイニングが期待できなければ、足を絡めていくしかありません。手堅い攻撃をするのが、今の巨人です」(前出・同)

 筒香のNPB帰還に対し、「古巣でプレーして欲しかった」の声は少なくない。しかし、今のベイスターズには筒香にレギュラーを保障できるポジションも空いていない。かつてのチーム功労者にベンチスタートを強いるのも、好調なチーム状況を変えてしまう危険性もある。一方、左打ちの好打者・梶谷隆幸(35)に次いで丸も故障した阿部巨人が、これからのペナントレースを見据えて筒香獲得に本気になったのは当然かもしれない。

デイリー新潮編集部