首位にはいるけれど…

 4月を終えた時点で15勝9敗3分けで首位。2位巨人とのゲーム差は「2.5」。5月は5日までで1勝2敗1分け。それでも首位は譲らず。開幕から2カード連続での負け越しなどスタートは酷かったが、阪神タイガースが混戦状況から一歩抜け出したように見える。ただ、昨季と異なるのは、圧倒的な強さが感じられないことだ。

「チーム打率は2割3分2厘で、リーグ4位。四球はリーグトップの109、『四球もヒットと同じ』とする岡田彰布監督(66)のスタイルは去年と変わっていませんが、三振数230はリーグワースト。どうも打線に繋がりがありません。特に4番・大山悠輔(29)のバットが振るわないのが気になります(成績は5日時点)」(在阪メディア関係者)

 圧倒的な強さを感じない理由は4番の不振――どのチームでも起こりうる事態だが、こと大山に関しては「トラの主砲」としての正確な評価と、来季の去就が気になる。

 4月30日の広島戦。この試合でも先制点を許してしまった。しかし、四球や犠打、進塁打を絡め、1点ずつを積み重ねていき、終わってみれば、スコアは7対1。今季27試合目で早くも10度目の逆転勝利だった。「勝因は?」と聞かれれば、「岡田采配」となってしまうだろう。もっとも、その「1点ずつ」の起点となったのは、大山だった。

 この日の大山は4打席ノーヒットだったが、2四球を選んでいる。5番のノイジー(29)、7番・坂本誠志郎(30)のシングルヒットや併殺プレーの間に、大山は生還していた。

「大山はオープン戦終盤から、ペナントレース序盤にかけては大不振でした。キャンプ中に痛めた背中の状態が良くなかったためです。徐々に回復しているようですが、『痛みと上手にお付き合いができるようになった』とのチーム内の声も聞かれます」(前出・同)

 体調が万全でないのは仕方がない。しかし大山が起点となって、大量得点のビッグイニングを作れないから、チームに勢いがついている印象も薄くなるのだろう。

 大山は打率2割4分3厘、本塁打3、打点13。ちなみに、4番打者の成績を他球団と比べてみると巨人の岡本和真(27)は打率2割8分2厘、本塁打5、打点16。DeNA・牧秀悟(26)は2割9分2厘、本塁打4、打点18。ヤクルト・村上宗隆(24)は打率2割7分6厘、本塁打8、打点14。中日・中田翔(35)は打率2割7分5厘、本塁打3、打点14。広島の堂林翔太(32)も「繋ぐ4番」と言われながらも打率2割4分4厘、本塁打ゼロ、打点5を稼いでいる(いずれも5日現在)。

 大山の成績は決して悪いというわけではないのだが、

「得点力が低くても、セでは1位、12球団ではソフトバンクに次ぐ2位の防御率を誇る投手力でなんとか勝っているのが今の阪神です。ただ、主砲の豪快なホームランやタイムリーで大量得点など、一発で球場の雰囲気も変わる豪快な試合を期待するファンは多い」(前出・同)

大山はFA行使するのか

 ここにきて、大山の「今後」を心配する声も出始めた。去る4月20日、大山は国内FA 権を取得した。同日の中日戦の始まる前、記者団の要請に応じて、

「感謝の気持ちというか、ここまでくるのに色々とありましたけど、一人では難しかったと思います。やっぱり、家族であったり、日々の練習であったり、生活。そういうところをサポートしてくださる裏方さんの存在、あとは担当スカウトの平塚(克洋=58)さんにすごくお世話になりました。金本(知憲=56)監督、矢野(耀大=55)監督、そして岡田監督に使っていただいたおかげで、こういう権利を取得することができたっていうのももちろんあるので、たくさんの方にまずは感謝したいと思いますね」

 と、感慨深げな表情を見せていた。

「昨年12月の契約更改でも、24年シーズン中のFA権取得を見越して、球団は複数年を提示しています。23年シーズン中から複数年の下交渉もされていましたが、大山が固辞して単年契約になりました」(ベテラン記者)

 複数年を辞退した理由は「連覇に集中するため」とし、「後輩の選手に、頑張れば年俸上がるんだぞということも見せていく必要がある」とも語っている。プロ野球選手として、まさにあるべき姿である。

 しかし、契約更改で「一年一年が勝負」と複数年契約を辞退し、取得後、他球団の評価を聞き、移籍した選手はこれまでにもたくさんいる。「大山もそのケースか?」と勘ぐられていた。その一方で推定年俸1億3000万円から2倍以上の2億8000万円の大幅アップを勝ち取ったことで、

「38年ぶりの日本一になった昨季に複数年契約を結ぶより、主砲として、連覇を成し遂げた後に複数年の話をしたほうが昇給幅も大きく、優位な交渉が出来る」

 と、大山の“思惑”を予想する見方もあった。

 チーム関係者などの話を総合すると、大山は“日本一のチーム”で4番を務めていることに誇りを感じているという。FAの行使は考えにくいが、今の成績を他球団の主砲と比べた場合、打率、打点、本塁打の全てにおいて見劣りする。「得点圏打率」も、巨人・岡本が3割4分8厘、中日・中田が2割9分9厘なのに対し、大山は2割5分(5日現在)。得点好機のチャンスに強いかどうかは、ファンに主砲として認められるのに欠かせない要素だ。

「5日の巨人戦での大山は、チームが勝っても悔しい思いをしていたと思います。近本光司(29)、佐藤輝明(25)の適時打で3点を挙げ、なおも走者を置いて大山に打席がまわってきました。結果は凡打。でも先頭バッターで打席に入った8回には二塁打を放っています」(ライバル球団スコアラー)

FA資格は有しても…

 対戦チームの阪神対策には「3番に入る森下翔太を歩かせ、大山で勝負をする」パターンもあるそうだ。もっとも、大山はリーグ2位の「四球17」を選んでいる。「四球はヒットと同じ」と解釈する岡田監督にとっては必要最低限の仕事はしていることになる。でも、ファンにとっては「ちょっと物足りない数字」というのが、シビアな評価のようだ。その「数字」に関して、こんな意見もある。

「昨季の大山の本塁打数は19で、リーグ9位。でも犠牲フライ8、四球99はリーグ最多です。本塁打も19本は少ないという評価より、本拠地が広い甲子園球場でなければ、もっと出ていたではないかという声が多く聞かれました」(前出・在阪メディア関係者)

 甲子園球場は両翼95メートル、中堅118メートルと公表されている。ホームランの出にくい広域球場というと、真っ先に思い浮かぶのが中日の本拠地・バンテリンドーム。両翼110メートル、中堅122メートルもある。しかし、左右中間では116メートル。甲子園球場は118メートルだ。左右中間のフェンスがバンテリンドームよりも2メートルも後方に位置する球場で、ペナントレースの約半分もプレーをするわけだから、他球団の4番よりもホームランが少なくなるのも当然だろう。得点圏打率を挙げていくのは大山個人の努力でなんとかなりそうだが、「ホームラン数の倍増」は厳しそうだ。大山は「伝統球団の主砲」であることに誇りを感じているようだが、7年間のプロ野球生活で獲得したバットマン・タイトルは23年の四球99に支えられた「最高出塁率」だけだ。

「昨季はチームが優勝、日本一を勝ち取ったので大幅昇給となりました。連覇に失敗したら、本塁打、打点での貢献が少ない分、残留交渉を有利に進められないでしょう。大山の去就はチームの勝敗次第とも言えます」(前出・同)
 阪神OBでもある中西清起氏は自身のYouTubeチャンネルで、「大山がFA権を行使するとしたら、本塁打などの個人記録を意識したとき」と語っていた。移籍するにしても、圧倒的な数字=成績がないと不利になる。大山の場合、4番を打っているのだからやはり本塁打は意識せざるを得ないだろう。

 果たして、大山はどんな決断をするのか。

デイリー新潮編集部