働き方改革法案により、2024年4月からドライバーの時間外労働時間が制限されるようになります。その結果、国内における輸送能力が物理的に不足し、物流業界のみならず小売業界全体にまで大きな影響を与えるとされているのが「物流の2024年問題」です。何の対策も講じず物流が崩壊するような事態になれば、社会生活全般に悪影響を及ぼす可能性もあると言われるこの大きな課題に、我々はどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。

Scharfsinn86/istock
Scharfsinn86/istock

『物流の2024年問題』の具体的な影響とは

 はじめに、輸送リソースが低下することによって生じる影響について考えてみましょう。

 輸送の絶対量が減少することで、運送会社や物流会社の売上と利益が減少します。それに伴いドライバーの収入も減少し、人手不足が更に加速する可能性があります。当然、運賃は値上げされ高コストになるため、一部で輸送そのものが行われなくなる可能性が高まるでしょう。

 とくにBtoBの輸送が制約を受け、その影響が主に幹線輸送(周辺エリアの大量の荷物を集めた拠点から、他のエリアの集積拠点まで大型トラックなどで輸送すること)の人員不足として表れると見ています。

 

 特に対応が迫られているEコマース業界に、この影響を例えて考えてみましょう。

 幹線輸送が減少して商品入荷が遅れると在庫がアップできず、それが商品ページに反映されます。また、これまで当たり前のように当日・翌日配送となっていたものが、配送まで2〜3日や1週間以上を要することになり、販売機会の損失が発生。これは、ビジネスモデルにも大きな変化が生じる可能性があります。

 さらに、物流拠点からユーザーに商品を届ける宅配コストも、2022年秋頃から値上げが始まっています。これまで送料無料だった商品が有料、もしくは商品価格に転嫁されるようになると、ネットでの購入に割高感を感じるようにもなるでしょう。

 結果、モノにもよりますが「明日、自宅に無料で届けてくれるなら」とネットで購入していたものでも、有料でかつ1週間以上時間が掛かるのであれば、週末に自分で買いに行こうと考える人は今後増加するのではないでしょうか。

 

 

 もちろん、EC大手各社は販売機会の損失を防ぐために物流拠点の選定について早くから検討を開始しており、弊社にもこれまで多くのご相談が寄せられています。ここで注目すべきは、大手企業のように情報を持って対応しようとする企業と、まだその段階に至っていない企業との『物流の二極化が進んでいる』という点です。

ECでも、すべての商材でスピードが求められるわけではない

 日本国内の物流サービスはAmazonや楽天市場、Yahoo!ショッピングなどのモール型に牽引されています。例えば、Amazonの「お急ぎ便」・楽天市場の「あす楽」・Yahoo!ショッピングの「あすつく」など、365日毎日出荷できるかどうかがサービスの中心で、いずれも翌日に商品が到着する『翌着率』が重視されています。

 業界トレンドについて記載された記事を見ると、コンビニ受取や職場受取など『自分が商品を受け取りたい時に受け取れる』ことが重要だという内容をよく目にするようになりました。

 しかし、実際に商品を購入する際には多くの方がシンプルに早く届く方を選んでしまうのが現実ではないでしょうか。これが消費者のデフォルトの心理であり、特にモール型では大部分で『すぐに届く』ことが一般的な選択肢になっていると言って良いでしょう。

 ただし、EC業界全ての商材においてスピードが求められる訳ではありません。高価格帯の商材やギフト商材などは、むしろスピードより丁寧さや個別対応といった別の課題に取り組む必要があるはずです。

 このように物流の2極化が進む中、限られたリソースの中でスピードを重視するか否かの『サービスの2極化』も今後さらに進むことが予測されます。

 どちらに舵を切るにせよ、今回の2024年問題は物流のみならず、小売事業者にとっても今後の戦略を見つめ直す絶好の機会とも捉えることができます。パートナー企業との連携や自社のポリシーの再構築を通じて、差別化されたビジネスとして生まれ変わるチャンスが広がっていると捉え、柔軟に対応する必要があるでしょう。

著者:望月 智之