数え切れないほどの名車、レア車を乗り継いできた無類のクルマ好きが長年探し続け、遂に手に入れた生まれ年のMercedes-Benz 300SL。世界中の著名人に愛されたジャーマン・クラシックの至宝は、歴史や性能もさることながら、その造形美で、あらゆる趣味の一級品を求めるオーナーの直感的な感覚を刺激した。

一目見ただけで衝撃を受け、直感的に購入した人生最後の一台。

辻本仁史氏|リアルマッコイズ最高執行責任者。幅広い趣味を持ち、徹底的に深掘りする好奇心に満ちた趣味人。クルマは新旧やメーカー、価値に関わらず、運転して楽しめることが絶対条件

メルセデス・ベンツの歴史上、初めてSLの名が市販車に与えられた300SL。そのヒストリーは、大戦後、メルセデスがレース活動を再開した’52年まで遡る。

300SLのルーツである、300SLプロトタイプと呼ばれるレースカーは、’52年のル・マン1、2フィニッシュをはじめ、数々のレースで大活躍を果たした。そして、米国ディーラーの強い要望に応え、’54年NYのオートショーで市販車の300SLがデビューを飾った。当初の300SLはガルウィングや燃料直噴システムなど、市販車世界初のディテールを採用したエポックメイキングな存在だったのだ。

美しいアールを描く、圧巻のリアビューが辻本氏のお気に入り

300SLと言えば、日本では石原裕次郎や力道山などが所有したことで知られるが、いずれも前期のクーペ(=ガルウィング)で、辻本氏が手に入れた300SLはクーペに代わってラインナップされたロードスター。氏はクーペを所有したこともあるが、性能的に現実味がなく、生まれ年の’60年ロードスターを探し続けていたのだと言う。様々なクルマを日常的に乗り回すフリークらしい審美眼である。ちなみにスティーブ・マックイーンも300SLロードスターを愛用したことが知られている。

そして、数年前に見つかったこの1台は、長年ガレージで保管され続けたワンオーナー車で、イギリスのショップにて完全にレストアされた生まれ年の極上車両。その素性の良さに迷わず購入を決めたのだと言う。数々の世界の名車を乗り継いできた氏が、そこまで300SLにこだわる理由とは?

「ヒストリーや性能も興味深いですが、何よりの魅力はひと目見た時に受けた衝撃です。造形美や品のあるオーラ、言葉で説明できない直感的な感覚をここまで味わったのは初めてでした」

理屈を超え直感に訴えかける圧倒的な存在感の300SLは、世界の名車の味を知る氏に「人生最後の1台」と言わしめた。

見る者の感覚に訴えかける造形美は、歴史や性能など理屈を抜かしても、このクルマの色気を物語るのに十分な説得力を持っている

造形美、オーラ、全てが究極。1960 Mercedes-Benz 300 SLのディテールを拝見!

折り畳み式ソフトトップルーフに加え、オプションの着脱式ハードトップルーフを装備。抑揚のあるボディラインで、フェンダー開口部上のリブや排熱用のエアベントなど、合理的なデザインが採用されている。ロードスターモデルは、1957年から1963年まで1858台生産された。

新車並みのクオリティでレストアされた300SL。ベージュのインテリアも純正の新品に換装されている。

シート横はチューブラーフレームが通るため、分厚いサイドシルはレースカー由来の証と言える。

排気量2996ccの直列6気筒 SOHCエンジンは、ボッシュ製の燃料直噴システムを世界で初めて市販車に採用し、最高速度260㎞/h(ファイナルギアレシオ3.25仕様)をマーク。レースカーをルーツに持つだけに、300SLはデヴュー当時、市販車として世界最速のスペックを誇っていた。

【DATA】
リアルマッコイズ
https://therealmccoys.jp/

(出典/「CLUTCH2024年5月号 Vol.95」)

著者:CLUTCH Magazine 編集部