多くの中小企業が頭を悩ましている「人手不足」。
リクルートワークス研究所が2023年に発表したデータによると、従業員5000人以上の企業の求人倍率は0.41倍であるにも関わらず、従業員300人未満の企業は6.19倍にもなり、その差は5.78倍にも上ります。
求人倍率は求職者1人につき何件の求人があるかを示しており、中小企業の場合は1人につき約6件もの求人があることになります。
日本の約99.7%の企業が中小企業に該当する中で、この人手不足問題はどのように解決していくべきなのでしょうか。

中小企業の現状

東京商工会議所は2024年2月、中小企業の人手不足や賃金の現状を取りまとめる「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」を発表しました。
まず、本調査に回答した2,988社のなかで「人手が不足している」と回答した企業は65.6%であり、中小企業における人材確保の厳しい状況がうかがえます。
特に人手不足が顕著な業種としては、2024年問題(労働時間に上限設置)への対応が求められる建設業(78.9%)や運輸業(77.3%)、労働集約型の介護・看護業(76.9%)が指摘されました。
また、最も割合が低かった製造業でも、57.8%の企業が人手不足と回答するなど、あらゆる業種で人手が不足しているようです。

この厳しい状況のなかで、企業はどのような対応を取っていくべきなのでしょうか。
その方法として最も多く回答されたのが「採用活動の強化(非正規社員を含む)」で81.1%でした。
生産年齢人口が減少するなかで、省力化や多様な人材の活躍などの取組が求められているにもかかわらず、「事業のスリム化、ムダの排除、外注の活用」(39.1%)や、「女性・高齢者・外国人材など多様な人材の活躍推進」(37.3%)への回答は4割弱、「デジタル・機械・ロボットの活用」(26.6%)に至っては3割にも届きませんでした。

次に、賃上げに関する調査結果です。
2024年度に「賃上げを実施予定」と回答した企業は61.3%でした。
業種別で見ると、介護・看護職(66.7%)、製造業(64.2%)、建設業(63.4%)で賃上げを実施する企業が多いようです。
一方、小売業(48.7%)、宿泊・飲食業(54.1%)など、対消費者・B to Cを中心とする業種では他業種に比べ低い結果となりました。

また、「賃上げを実施予定」と回答した企業のうち、「業績の改善が見られないが賃上げを実施予定(防衛的な賃上げ)」と回答した企業は60.3%に上ります。
その理由として最も多かったのはやはり「人材の確保・採用(76.7%)」であり、「物価上昇への対応(61.0%)」を上回った結果です。
大手企業では賃上げ率5%以上の高水準での賃上げを実施するケースもあり、この賃上げの波は中小企業も避けては通れないのではないでしょうか。

中小企業の人材確保に向けて

人手不足を解消するために採用活動を強化する、と回答した企業が前述の調査では大半を占めていましたが、そもそもなぜ中小企業は人材の確保に苦労するのでしょうか。
もちろん、大手企業に比べて賃金水準や知名度の低さ、あるいは、採用のノウハウやリソースの乏しさが障壁になっている可能性はあります。

しかし、それに加えて「人的投資を行っていないことが人材不足の大きな要因である」と日本政策金融公庫総合研究所が2024年に行った調査では指摘されています。
日本政策金融公庫総合研究所の調査では、勤務先の人材育成を肯定的に評価する人は職務満足度が高く、現在の職種でキャリアを積んでいこうと考える人の割合が多くなっていました。
一方、勤務先の人材育成を否定的に評価する人は職務満足度が低く、転職の意向をもつ人の割合が多かったため、人的投資が人材の定着に関わることが示される結果となっています。
もし、企業が人材への投資に力を入れ、従業員がより多くの技術やスキルを身につけることができれば、企業内での地位や賃金が向上し、自身の成長の実感できるようになるでしょう。
これが職務満足度を上げることにつながり、離職を防ぐ効果があると予想されています。

当然ながら、人手を確保するためには採用に力を入れるだけでなく、離職の防止も重要になってきます。 離職率が高いといくら採用しても人手不足は解消せず、さらに離職率の高さは求職者に敬遠される理由ともなってしまうのです。

さいごに

絆ホールディングス(2024)が就活生・社会人1年目500名を対象に実施した調査では、58.4%の人が「給料」を重視して就職活動を行っている(いた)という結果が出ています。
そのため、従業員の賃金をあげることは確かに人材の確保に影響を及ぼすと考えられます。
しかし、賃金の上昇だけが人材確保のすべてではありません。

人材は使うと消耗する資源ではなく、投資することで企業に価値を生み出してくれる資本です。
人材の採用という入口の部分だけではなく、「どのようにして成長させるのか」という、それ以降の行き先まで考えられる企業に人手不足解消への道は開けるのではないでしょうか。

参考
リクルートワークス研究所(2023)「第40回 ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)」
東京商工会議所(2024)「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」
日本政策金融公庫総合研究所(2024)「中小企業におけるジョブ型雇用と人的投資─従業員からみた中小企業の人材育成─」
絆ホールディングス株式会社「就活生・内定者・社会人1年目の就活実態。人気業界1位 男性「メーカー」女性「医療・福祉」。初年度の希望年収「300万円〜350万円」。1年目にして、会社を辞めたい人約6割!」