輪島市でペットの巡回診療が始まった。訪れた犬を診察する獣医師(右)=2024年1月28日、石川県輪島市

 元日に起きた能登半島地震でも、ペットとともに被災した人が多数にのぼった。

 発災時には「同行避難」ができたとしても、避難所で様々な問題に直面して自宅に戻ったり、車中で過ごしたりする人も後を絶たない。熊本地震(2016年)の際に問題になった、一緒に避難所で生活する「同伴避難」の困難さは今回もあらわになった。19年の台風19号の際には犬2匹、ウサギ2匹を飼っていた男性が、自宅でペットとともに多摩川氾濫の犠牲になったこともあった。ペットの飼い主として、これから起きる大規模災害にどう備えればいいのか、いま一度考えてみたい。

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「ペットと同行避難をすることは、動物愛護の観点のみならず、飼い主である被災者の心のケアの観点からも重要である」

 環境省が18年3月にまとめた「人とペットの災害対策ガイドライン」に出てくる一節だ。

 東日本大震災(11年)で一部のペットが自宅に取り残され、つながれたまま亡くなったり、放浪して行方がわからなくなったりする悲劇に見舞われた。こうした事態を受けて環境省は、大規模災害の際には「飼い主とペットが同行避難することが合理的である」とする基本的な考え方に立ち、各種ガイドラインをまとめてきた。

ペットの巡回診療を訪れた猫=2024年1月28日、石川県輪島市

■「同行避難」に備える

 いまや同行避難は、ペットの飼い主を中心に、広く浸透している。だが、いざという時、実際に同行避難するためには、やはり日頃の準備が欠かせない。

 まず、自宅の近くでペットとの同行避難が可能な避難所はどこなのか、地元自治体の防災計画や動物愛護管理推進計画などを確認しておく必要がある。

 そのうえで、実際にペットを連れて、その避難所まで行ってみよう。犬ならリードにつないで一緒に歩いて行けるかもしれないが、猫やウサギ、鳥など、キャリーケースに入れなければ運べない動物では、そこまで持ち運べるかどうか、体力が試される。特に複数のペットを飼育していれば、連れて行くことが物理的に可能かどうかは、深刻な問題になる可能性がある。

 また、留守がちな家庭では、近所の人にペットの存在を周知しておくのも一つの手だ。発災時にどこまで頼れるかは未知数だが、家屋が倒壊したり、火災が発生したりした場合、屋内にペットがいることを近所の人たちが知っているかどうかは、少なからずその後の対応に影響するはずだ。「逃げ出すのを見た」などの目撃証言を得られるだけでも、飼い主として何をすべきか変わってくる。

ペットのための防災用品もリュックなどにまとめておきたい

 次に、ペットのための備蓄を考えよう。おやつを含むフードや水、トイレ用品については、それぞれ7日分程度は備えておく。リードや食器、タオル、ワクチン接種状況などがわかる書類、おもちゃなどもひとまとめにしておけば、慌てなくて済む。人間用の防災セットを準備している家庭は多いから、それらと同じ場所に保管しておくのがいいだろう。最近では、ペット用の折りたたみ可能なサークルやテントが販売されていたりもする。持っていると、避難先での選択肢は確実に増える。

 普段のしつけやケアも重要だ。避難所には動物が嫌いな人、動物アレルギーの人がいることを想定しなければいけない。犬や猫などはまず、ケージやキャリーケースに慣らしておくべきだ。キャリーに入れられなければ、そもそも同行避難もままならない。

 また犬であれば、無駄吠えやかみ癖などをなおしておきたいところ。避難所でトラブルのもとになる。同様に、犬猫ともに不妊・去勢手術は済ませておいたほうがいい。避難所に、不妊手術をしていない発情期のメスがいれば、去勢手術をしていないオスの興奮はおさえられない。

 定期的なワクチン接種を欠かさず、感染症予防を徹底しておくのも飼い主として当然だ。さらに、日頃からブラッシングや爪切りなどを欠かさず、衛生的にしておくことも最低限のマナーと言える。

 これらに加えて猫の場合、大きな地震が起きた直後の行動について踏まえておきたい。まず、恐怖や不安から、どこかにじっと隠れてしまうことがある。捜し出すのに時間がかからないよう、猫がよくいる部屋のクローゼットの扉などを普段から開けておくのがいい。いざという時、そこに隠れるよう誘導できる。

 パニックになって、開いていた窓や壊れたドアから脱走してしまう――という事態も比較的よく起きる。そうした場合に備えて、マイクロチップはぜひ装着を。これは犬にも言える。大規模災害時には、身の上にどんなことが起きてもおかしくはない。マイクロチップを装着しておけば、万が一はぐれても、再会できる可能性が格段に高まる。

 なお、まず自分の身の安全を確保するのは大前提だ。自身が無事でなければ、ペットを守ることはできない。

■「同伴避難」はできるか

 ともに避難できたとして、次に問題になるのが避難所での生活だ。ペットとともに避難生活を送れるかどうかで、事態は大きく変わってくる。

 同行避難が可能な避難所を事前に確認する際、あわせてその避難所でともに避難生活を送れるかどうかも調べておくといい。被災後1、2日は一緒にいられたとしても、避難が長期化するケースでは、「同伴避難」が難しくなることは少なくない。

 まず、もし避難所でともに生活できるのであれば、ペットの飼い主同士で「飼い主の会」を設立するよう動いてほしい。環境省もガイドラインでそう推奨している。互いに協力し、場合によっては自分たちでルールを作りながら、適切な飼育管理をしていくためだ。環境省によれば、避難所での苦情やトラブルを減らす効果があるという。

 同じ避難所にいられたとしても、ペットは別部屋のケージやサークルに入れられたり、犬種によっては屋外につながれたりするケースもある。こうした事態に備え、前述の通り日頃からケージなどに慣れさせ、無駄吠えやかみ癖をなおしておき、さらには別の犬や猫と穏やかに過ごせるよう社会化しておくことが大切になる。

 一方で、避難所での同伴避難が困難なケースも、残念ながら少なくない。自治体によってその濃淡はあるが、覚悟はしておくべきだろう。

 もし車で避難しているのであれば、まずはペットを車内に残し、飼い主は避難所に入るという選択肢が現実的になる。ただ夏場であれば熱中症の危険があり、すすめられない。冬場、寒さに弱い動物を車中に置くのもリスクが高い。また、ペットだけを車中に残すことに不安を感じるのも、飼い主として当然の感情だろう。

 こうしたなか、自宅に戻るという選択をする人も一定数いる。だがこれも、余震が続いていたり、ライフラインが復旧していなかったりする場合、リスクが高い。安全を確認のうえ、冷静な行動が求められる。

 最も有効なのは、日頃から遠隔地の家族や親戚、友人らと相談しておき、万が一の場合にペットを預かってくれる先を確保しておくことだ。それも離れた複数の地域に。日本に住む限り、大規模災害はどこで起きてもおかしくはない。お互いにとってメリットになる。

 また今回の能登半島地震では、ペットの「一時預かり」を受け入れるボランティア活動も始まっている。一時的にでも、ペットと離れて暮らすのはつらい。だが、飼い主にとってもペットにとっても、合理的な判断を下さざるを得ない局面は、残念ながらある。

 ただ一般論として、大規模災害時に限らず、「一時預かり」でトラブルが起きることもある。預けたペットを返してもらえなかったり、預けた先で脱走したり、病気やケガをしたり、飼育にかかる費用を巡って見解の相違があったり……。こうした事態に備え、預ける際の「契約内容」、やわらかく言えば「約束事」はよく確認、合意しておくことが大切だ。相手が動物愛護団体の場合には、その活動内容も把握しておこう。

 善意に頼るなかで、そうした確認に心苦しさを感じるのは、当然だ。でも、かけがえのないペットのために、絶対に必要なことと割り切ってほしい。預かる側にとってもトラブル予防になるはずで、過度に遠慮することはない。

■ペットの心にも配慮を

 最後に、ペットの心のケアも考えてあげよう。大規模災害に見舞われた時、人の言葉が通じない動物たちにとっては、いったい何が起きているのか事態が把握できず、不安が大きく募る。過去に大地震が起きた際、その余震に驚いた猫がマンションの窓から飛び降りてしまった悲劇なども、少なからず報告されている。

 飼い主の不安は、ペットに確実に伝わる。なるべく落ち着いた行動を心がけ、ペットを安心させてあげてほしい。いつも以上にスキンシップをとることで、ペットの心を落ち着かせることができる。ペットのぬくもりや存在を近くに感じれば、飼い主の心も和らぐ。

 被災した状況で、そこまで配慮することが難しいことは確かだ。それどころではない――というのも当然だと思う。でも、そうあろうと努めることが、飼い主にとってもペットにとっても、「次の一歩」につながるはずだ。

(朝日新聞記者・太田匡彦)