自民党の稲田朋美幹事長代理(撮影/上田耕司)

 自民党をゆるがせている「裏金問題」の発端は、安倍派の政治資金パーティーの収入の一部が議員側にキックバックされていたことだった。その安倍派に所属する稲田朋美幹事長代理は安倍晋三元首相の“秘蔵っ子”と呼ばれ、安倍政権では防衛相などの要職を歴任した。そんな稲田氏は自らも裏金問題を抱え、野党から「政倫審」への出席を求められた立場でもある。自身の裏金疑惑や安倍派の体質、また岸田内閣の支持率下落について何を思うのか。緊急インタビューした。

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 稲田氏は、野党から衆院の政治倫理審査会(政倫審)への出席を求められた51人の衆院議員のうちの1人だ。安倍派の政治資金パーティーのキックバックを2021年に2万円、22年に80万円受けていたが、政治資金収支報告書に記載していなかった。それ以外にも、本来なら派閥に支払われるべきパーティーチケットの売上代金が、いわゆる“中抜き”の状態で、「預かり金口座」に114万円残っていたことも判明した。

 まず、なぜ政倫審へ出席しなかったのかを単刀直入に聞いた。

「私は党から事前に出席について問われた時には、『情勢を見て必要があれば出ます』とだけ答えました。政倫審にたくさんの人が出席することと、問題の本質に迫ることは別問題だと思います。組織的な会計手法やそのプロセス、意思決定について証言できる人は限られています。私は政倫審に限ることなく、あらゆる場で説明をしてきていますし、今後も説明していきます。逃げるつもりは全くありません」

清和政策研究会(安倍派)の事務所

■事務所に“裏金”があった理由

 稲田氏は政倫審を自身の“潔白”を証明するための場所にする気はなかったと述べるが、では、肝心の「裏金」についてはどう考えているのか。キックバックとして受け取っていた2万円(21年)、80万円(22年)についてはこう答えた。

「安倍派の会計担当者から『21年に2万円の還付があった』と言われ、当時の秘書に確認したところ、2万円は“派閥の封筒”に入ったままの状態で、議員会館の事務所の箱に入れたままでした。80万円については、別の当時の秘書が安倍派から現金で80万円を渡され、『預かり金口座』に入金していました。それは今回を受けて、私が調査してわかりました。ただ、全ての責任は私にあります」

 裏金問題で騒がれるまで気づかなかったのはなぜか。

「私はかつて政調会長や防衛大臣を務めたので、安倍派のパーティー券販売ノルマは450万円と高額でした。ノルマを達成できないことが常態化していたので、安倍派のパーティーで自分にお金が返ってくるという意識など皆無でした。むしろ、どうやってノルマを達成するか四苦八苦していましたが、コロナ禍でノルマが半分の230万円に下がったことにより、結果的にノルマを超えた部分があったということです」

 稲田氏によると、18年から22年までの5年間ノルマ未達のため合計235万円を持ち出していたという。

「私が自己資金を(事務所に)貸し付けて、それを年間通して使い、そこから政治資金にあたる分だけを戻すシステムにしていました。ノルマに足りないチケット分は最終的には自腹で、私の財布から出していたことになっていたと思います」

2005年に初当選したときの稲田氏と安倍元首相

■安倍元首相との会話

 この5年間で計算すると、派閥からキックバックがあった82万円と預かり金口座に残っていた114万円を足すと計196万円。これに対し、ノルマに達せず稲田氏が自腹で出した分が235万円。全体の収支では、39万円のマイナスだったという。なお、稲田氏はすでに196万円を派閥に返金している。

「これは5年間だけで、それ以前の年の分もありますからね。過去までさかのぼればもっとマイナスです。だから、私の本心としては、派閥のパーティーは本当はやめてほしかったです」

 安倍晋三元首相は22年4月、政治資金パーティーの現金での還流をやめるよう進言したとされる。稲田氏によれば、それ以前にも、安倍氏はキックバックをやめようとしていたことがあったという。

「05年に共同通信が清和研(当時は森派)の政治資金パーティーで、割り当てを超えるパーティー券を販売した若手議員に資金の一部が還元され、派閥の政治資金収支報告書にも記載がないことから裏金化しているという疑惑を報じたんです。それがいろいろな地方紙にも配信されました。安倍元総理はこの年、幹事長代理として、党本部にコンプライアンス室を設置させています」

 そして安倍氏が亡くなる1カ月ほど前の22年初夏。安倍氏は稲田氏にこう話したという。

「安倍元総理は、『個人のパーティーができなくて、派閥のパーティーを使って政治資金を集めている議員たちがいる。返金を期待している議員たちもいて、それはかわいそうなんだが、もうノルマ超えの返金はやめる』とおっしゃっていました。現金でのキックバックとか、不記載という言葉は出ませんでしたが、安倍元総理は『もうやめる』と断言していました」

清和会の政治資金パーティー

■誰がキックバックを再開させたのか

 それにもかかわらず、なぜ安倍派内でキックバックは続いてきたのか。その点は衆院の「政倫審」でも質疑されたが、真相は解き明かされていない。

「安倍元総理が亡くなられる前は、清和研の会長が最終的に何でも決めていました。安倍元総理が『還流をやめる』と決め、そして安倍元総理が亡くなられた後に、一体誰がどのような理由で(還流を)再開させることを決めたのか。いろいろな意思決定のプロセスがあったはずです。安倍元総理が亡くなられた後、誰がそうした重要な意思決定をしたのかはこの問題の本質と思います」

 さらに稲田氏は今回の検察の捜査についても警鐘を鳴らしている。

「今回、すべて検察のストーリーで党も動き、その結果安倍派議員はおしなべて犯罪集団の一員になりました。検察に言われるがままと言っても過言ではありません。議員たちの事情はさまざまであるのに、それらを無視して、政治資金の寄付を受けたとの確認書を書かされたのです。特に議員の預かり金口座にあった分は派閥の会計責任者の知らない未精算金であり、知らないお金の『不記載罪』は成立しないはずです。しかし個々の議員の会計処理の法的な意味を吟味せず、全て検察のストーリーで進んだことは、今後に禍根を残したと思います。検察にすれば自民党はくみしやすしと思ったでしょう」

 この裏金問題が引き金となり、岸田政権の支持率は急落している。2月中旬以降に発表された内閣支持率は毎日新聞14%、時事通信社16.9%、朝日新聞21%、共同通信20.1%と、軒並み岸田政権発足以来の最低記録を更新した。稲田氏はそんな岸田首相に何を思うのか。

稲田朋美氏(撮影/上田耕司)

■支持率低迷の岸田首相に思うこと

「岸田首相は先頭に立って岸田派を解散し、マスコミにもフルオープンする形で、自ら『政倫審』にも出席しました。メディアでは『孤立している』『指導力不足』などと批判されますが、私は自分の意志で行動するリーダーとして高く評価しています。“根回しがうまい“ことがリーダーの資質、というのは昭和の時代の話です。一緒に食事をしたこともありますが、その席でも、岸田首相は人柄がよく、政治家のイヤな面がない。安倍元総理のほうが“政治的”だったかもしれませんね(笑)。次期総裁選で立候補するか? それは考えていません。ただ衆議院議員である以上総理を目指すことは当然だと思います。今は派閥に関係なく、思想信条や政治家としての姿勢が一致する人たちと仲間づくりをしていきたいと思っています。私は安倍元総理がいらっしゃらなかったら100%政治家にはなっていません。その意味で安倍元総理が亡くなられた今、いつやめてもいい覚悟で、言うべきことは言い、正しいと思うことは恐れずに行動していきます」

 自身の裏金問題、安倍派の解散と暗い話題が多いなか、稲田氏が前向きに取り組んでいることがある。地元・福井で北陸新幹線の開業と合わせて開催される「ふくい桜マラソン」(3月31日)への参加だ。稲田氏にとって、2度目のフルマラソン参加となる。

「昨年の北海道マラソンが初マラソンで、記録が5時間1分。なので、5時間を切るのが目標です。練習は朝、日の出とともに走っています。走ることで健康になるし、あまり疲れなくなりましたね。ランニングのために時間を無駄にしたくないから、お酒も飲まなくなりました。朝の日差しを浴びて走るのって精神的にもすごくいいんです。仕事でイヤなことがあっても前向きになれるし、いいアイデアが湧いてくることもあります」

 苦しい局面こそ、強い精神力が試される――それは政治家もランナーも同じかもしれない。

(AERA dot.編集部・上田耕司)