撮影/和仁貢介(写真映像部)

 読書離れが進むといわれる今どきの子どもたち。本を読んでほしいけれどなかなか定着しないというご家庭に、子どもが読書にハマるオンライン習い事「ヨンデミー」を立ち上げた笹沼颯太さんが、子どもを本好きにする方法をアドバイス。でも、そもそもなぜ読書は必要なのでしょうか。今一度、読書の大切さを確認してみましょう。

■AIの時代こそ、読書の経験が生かされます

――これからAIの発展によって、多くの仕事の形態が変わると言われます。子ども時代の読書は、将来にどのように関わっていくのでしょうか。

 今後、AIが発展することによって、どんなことが起こるか考えてみましょう。たとえば、翻訳などはAIがやってくれるようになりますよね。でも、ChatGPTなどの生成AIになると「指示がすべて」と言われます。そうなると、コミュニケーション、なにより「言葉をうまく使えること」が大切になってくるでしょう。

 最近は、絵や動画、音楽だって言葉から作ることができるようになってきていますね。言葉さえ使えれば、クリエイティブなものだって自在に作れてしまう。時代はどんなに進化しても、「言葉」の力は今も昔も変わらずに大きい。もっと言うなら、これからより重要になってくるでしょう。

 そして、その「言葉」の土台となるのが、子ども時代の読書体験だと思っています。

 大人になってからの仕事って、そのほとんどのベースがテキストですよね。どんな仕事でも、文字を読んだり書いたりすることができるか、ドキュメント仕事が得意かどうかでその先が変わってくると思います。

 文字を扱うことって、子どもから大人までずっと続くんです。

■動画VS読書。僕なら、圧倒的に読書と答えます

――読書によって、ほかにどんな力が育まれるのでしょう。

 元来「読み書きそろばん」と言われていました。読み書きって基本なわけですよね。ですから、そこから育つ力って計り知れないと思います。

 たとえば、自分からページをめくる積極性、文字を追う体力、文字から状況を頭に思い浮かべる想像力、読み続ける忍耐力…ちょっと考えるだけでも、読書のいいところとしてこれだけのものがあげられます。

 最近は、勉強なども「動画のほうが効率いい」といった声も耳にします。でも、動画と本では情報の濃さが圧倒的に違います。動画では情報が薄くなりやすく、あるものに「特化」した情報が多いですよね。本なら、目的だけでなく、知りたいことの「背景」なども詳しく知ることができます。知識の「使い方」を含めて知ることができるのです。本でないと学べないことの方が断然多いですし、そもそも動画と本とでは、歴史も比べ物になりません。

 さらに、動画は「わかったつもり」になりやすいのです。わかりやすく表現されていますが、すーっと流れてしまうのですぐに忘れてしまったり、実は理解できていなかったりすることが多いのです。その点、本なら一週間たっても覚えていることって多いものです。

 「深く考える力」は、本を読んでいる子どものほうが定着しやすいですね。

 ……とここまでいろいろお話ししましたが、動画が一概に悪いと言っているわけではないのです。ネットも「つき合い方」が大切です。だらだら見続ける状態と、自分が知りたいことがあって副教材的に見る動画とでは話が違います。ですから逆に言うと、読書によって読む力や語彙力といった土台が身につけば、ネットも上手に活用することができるはずです。

■読書は「やりたいことがやれる」力になります

――笹沼さんは、起業する際にあらゆる本を読んだそうですね。

 僕は、「読書」のいちばん大事な目的に「学びの手段」があると思っています。本が読める人と読めない人とでは、大人になってから全然違うのです。

 たとえば、僕自身も学生時代に起業をしました。学生時代は、塾や家庭教師のバイトの経験くらいで、「起業」するために、なにをどうしたらいいかなんてまったく見当もつきませんでした。会社で働いたこともありませんでしたし。

 でも、経営者の本って、世の中に本当にたくさんあるのです。マーケティングやデザイン、組織の本も……。基礎的なところはすべて本で網羅されています。それを実践につなげて、トライ&エラーを繰り返して「これは使える」「これは使えない」と行動すればいいわけです。

 僕はなにも経験はありませんでしたが、本が読めたおかげで「読書をもっと広めたい」という自分が「やりたいこと」を実現することができました。

 読書は学ぶ力、そして「やりたいこと」ができる力になると思っています。マーケターやプログラミング、英語……どんな仕事をしてみたいのか、本さえ読むことができれば知りたいことはそこに書いてあるのです。これって、すごいことだと思いませんか。

(取材・文/三宅智佳)