阪神・岡田彰布監督

 阪神・岡田彰布監督が2022年のオフに結んだ2年契約の2年目となるシーズンが始まった。昨年は結果を残し、今年も下馬評は高いが「黄金時代構築を視野に入れているからこそ、勇退の選択をする」という声が聞こえてくる。

「(監督を)来年はやるわ」

 岡田監督は昨年9月、18年ぶりのリーグ優勝決定後に続投を宣言した。その後、日本シリーズでもオリックスを破り日本一の座へ登り詰めた。38年ぶりの快挙にファンはもちろん、球団関係者は多いに盛り上がった。

 そして今シーズン、ファンや関係者が望むのは「アレンパ(=連覇)」だが、指揮官が見据えるのは、さらにその先にあるものだという。

「阪神は長い歴史と伝統を誇るが勝てない期間も長かった。ライバル・巨人には優勝、日本一回数で大きな差を開けられており、岡田監督も悔しがっている。今こそ黄金時代を作るチャンスと考えているはず」(阪神OB)

 1935年創設の阪神はリーグ優勝10回、日本一2回。対する巨人は1934年創設でリーグ優勝47回、日本一22回と圧倒的な数字を誇る(優勝回数はともに1リーグ時代含む)。長いプロ野球の歴史の中で阪神と巨人は“ライバル関係”であると言われることもあるが、実際のところ「勝利」という部分で言えば、両チームの間には大きな差がある。

 2リーグ制以降に絞っても、巨人はV9という栄光の歴史があるのに対し、阪神は連覇すらない。

「連覇ができないのが巨人との大きな差になった。『(阪神は)球団、ファンのみんなが1回勝つだけで調子に乗ってしまうからなぁ』と岡田監督も苦笑いしていた。『勝ち癖をつけなあかんで』と常に言ってます」(阪神関係者)

「勝ち癖をつける」ためには選手の育成を考えるのは当然だが、岡田監督は“次の指揮官”を育てることも大事だと考えている。これから“黄金時代”が到来する予感を阪神は漂わせているが、強いチームを長きにわたって維持するということに関して、ライバルで親友でもある原辰徳氏(前巨人監督)を引き合いに出すこともあったという。

「『原は(巨人監督を)長くやり過ぎたから、次の監督が難しいなぁ』とこぼしていた。長期政権は諸刃の剣であり、次の人材が育たない危険性もある。巨人を対岸の火事とすることなく、次期監督を育てたいという思いがあるのだろう」(阪神担当記者)

 現首脳陣には二軍監督経験者の平田勝男ヘッドコーチと今岡真訪打撃コーチがいる(今岡コーチはロッテ時代に二軍監督を経験)。下の世代には早稲田大の後輩になる鳥谷敬氏や阪神の球団本部付スペシャルアシスタント(SA)を務める藤川球児氏などもおり、現役時代にチームの顔として活躍した“次期監督候補”が多いようにも感じる。

「日本一という結果も出て、自前の若手選手も伸びつつある今が大事。(岡田監督は)今後は『何らかの形でチームに関わりながら次期監督のアドバイザー的役割を果たしたい』と思っているのではないか」(阪神関係者)

「次期監督を平田ヘッドもしくは今岡コーチに任せ『阪神の野球』を作り上げる。その間に鳥谷氏や藤川氏を入閣させ監督としての帝王学を勉強させる。中長期的プランとしては理にかなっている」(阪神担当記者)

 鳥谷氏は「監督やコーチはやりたくない」と公言しているが、今春キャンプでも2年連続の臨時コーチを務めた。また藤川氏の理論的な野球解説は好評で監督待望論が強い。強い阪神を継続させるためにも、首脳陣についても未来を見据えた“育成”が必要なことを岡田監督も認識しているのは間違いない。

「岡田監督自身の問題もある。60代後半になり体力的にしんどそうなところを何度も見かける。安心して任せられる後継者を見つけ、交代したい気持ちもあるのではないか。大好きなゴルフを楽しみながらイチOBとして関わるのが理想だろう」(阪神関係者)

 岡田監督が阪神の指揮官復帰を決めたのは、阪急阪神ホールディングス代表取締役会長兼グループCEO・角和夫氏が直訴したからというのは有名。今年11月に67歳になる岡田監督は当初は就任に前向きではなかったというが、親会社総帥の頼みだけに引き受けた部分もあったという。

「阪神への最後の恩返し。日本一という結果が出た今のうちに地盤を固めないと、これまでの二の舞になりかねない。球団内部から可能な限りの改革をして次の世代に渡すことを考えているはず。我々も精一杯サポートしたい」(阪神OB)

 岡田監督の「阪神を強くしたい」という思いは強い。阪神二軍監督時代にはスカウト登録をして当時・早稲田大だった鳥谷氏の獲得に自ら動いたほどだった。

「オープン戦最下位(3勝14敗1分)はプラスに捉えるべき。岡田監督は日本一になって緩んだ気持ちを懸念していたので、気を引き締めた形でシーズンに入れる。昨年以上に挑戦者の気持ちを持って戦い、『阪神の野球』を見せて欲しい」(阪神OB)

 岡田監督にとって今季は指揮官としての集大成として大きな意味を持ちそうだ。名物「おーん」の口癖とともに考えているのは、阪神の未来であり常勝球団を作ること。2リーグ制以降としては初となる連覇を成し遂げ黄金期の足掛かりを作ることはできるのか。岡田監督の今季にかける思いは強い。