写真はイメージです🄫gettyimages

 春のG1や重賞レースが全国の競馬場で開催されるなか、外れ馬券を当たったように見せかけ、現金を騙し取るケースが起きている。特に若年層に被害が広がっているという。

「まさか騙されるとは思ってなかったです……」

 関西地方に住む20代の男子大学生は昨年10月、とある地方競馬場で馬券詐欺にあったという。当日のレースが全て終わり、帰路に着こうと競馬場を出ると、50代と思われる男性に「当たり馬券を買わないか」と声をかけられたという。

「その日は10万円負けていて、今月の生活をどうしようと考えていたところでした。そのおじさんは『払戻期間中に競馬場を訪れることができない。10万円当選しているから、この馬券を6万円で買い取ってくれないか』と話を持ちかけてきました。レースの結果表とその馬券も見せてくれて、身なりも清潔だった。何より負けた分を少しでも取り返したくて。信じて買うことにしました」

■「的中していません」

 馬券は、インターネットか、競馬場の窓口での直接購入の二択がある。窓口で購入して馬券が的中した場合、競馬場が開いている時間に、場内にある機械で払い戻しをすることで、当選金を得ることができる。この時はすでに競馬場は閉まっていた。

 後日、50代の男性から買った馬券を払い戻しに競馬場に行ったところ、機械から聞こえてきたのは「この投票券は的中していません」という音声メッセージだった。馬券を何度機械に入れても同じアナウンスが流れるばかり。次第に後ろにいる人の嫌な目線を背中に感じ始めた。

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「意味がわからなかった。頭が真っ白になりました。スマホで調べたら全く的中していなかったんです。あの時見せられたレースの結果表は嘘だったと気づきました」

 警察に相談したが今でも犯人は捕まっていないという。

「おいしい話なんて、この世にはないんですよね。今回は肌身で勉強しました」

 実はこのようなケースが増えているという。

 当たり馬券を譲ると偽り、2万円を騙し取ったとして、大阪府曽根崎署は2009年9月、兵庫県在住の当時64歳の男性を詐欺容疑で逮捕した。一連の報道によれば、男性は同年5月の午後5時15分ごろ、大阪市北区の路上で、当時19歳の専門学校の男子生徒に「当たり馬券を換金したいので場外馬券場を教えて」と声をかけたという。男子生徒が案内したところ、馬券場は閉まっており、男性は「7万円ぐらい当たっている。すぐに金がいるので、馬券をあげるから金をくれ」と男子生徒に要求。馬券と、その馬券が当たっているように細工したスポーツ紙のレース結果欄のコピーを提示し、2万円をだまし取った。

 同区内では08年ごろから、同様の被害が4件あったという。

■払い戻しの際に気付く

「最近、駅・駐車場など場外で『偽造馬券を払い戻す時間がない』など、言葉巧みにもちかけられ、信用して購入し、払い戻しの際に偽造馬券と気付く被害が発生しています。ご注意ください」

 岐阜県にある笠松競馬場では、このように警鐘を鳴らすアナウンスが放送されている。

 笠松競馬場の担当者は「十数年前から同様のアナウンスを行っている」と話す。

 ある大手競馬新聞の記者は「若年層は特に気をつけるべきだ」と警鐘を鳴らす。

「コロナ禍では競馬のレースは全て無観客でしたが、制限が徐々に解除され、今ではコロナ前の状態に戻りました。ネットで馬券が購入できる手軽さから若年層にも競馬ファンが広がっています。ここ数年で競馬場にも訪れるようになっており、競馬をはじめたばかりの若年層が狙われているのではないでしょうか」

 ここ数年で若年層の顧客が急増している。10年から国民的アイドルグループのイベントを積極的に行ったり、テレビCMに有名な若手俳優を起用したりするなど、「おじさんだけの娯楽」というイメージを払拭してきた。また競馬場内には女性専用のリラックススペースを設置するなど、女性顧客の獲得にも努めている。

 重賞レースなどが頻繁に行われる中央競馬だけではなく、地方競馬も同様だ。大井競馬場(東京都品川区)でレースを開催している東京シティ競馬では、22年度の売上高が31年ぶりに最高値を更新し、1954億5720万円(前年度比約7パーセント増)となった。

■高額な情報商材

 前出の記者が続ける。

「競馬をはじめたばかりの若年層のなかには『楽をして稼ごう』とする人がいて、そうした人のトラブルが目立っています。彼らは、よく調べたり自分で考えたりしないで馬券を購入するのです。競馬業界ではいま、インターネット投票での的中画像を加工し、あたかも高額的中をしたように見せかけて、競馬に関する高額な情報商材を売る業者が問題視されています。当たり前ですが、一度冷静に立ち止まって、ちゃんと自分で考えて判断することが求められます。おいしい話はこの世に絶対ありません」

(AERA dot.編集部・板垣聡旨)