自民党の大混乱の中で存在感を高める小池百合子都知事

政治資金パーティーをめぐる裏金問題で、自民党は4月4日、党紀委員会を開き、安倍派と二階派の国会議員ら総勢39人について処分を決定した。処分の軽重について議論はあるが、自民党が混乱する中で、存在感を増しているのが東京都の小池百合子知事だ。

 4月28日投開票の衆院東京15区の補欠選挙で小池知事は、国政選挙のために設立した「ファーストの会」から、『五体不満足』の著作で有名な作家の乙武洋匡氏(47)を擁立することを公表した。ファーストの会は小池知事が特別顧問として率いる地域政党「都民ファーストの会」が母体だ。一時は、小池知事自身が出馬か、とも噂された東京15区。乙武氏以外にも小池知事の秘書や側近の名前があがっていた。

 小池知事は3月29日の記者会見で、

「乙武さんは自身の経験などを生かしてバリアフリーなどの環境づくりやさまざまな活動、発信をしてこられた。安心して暮らせる国づくり、社会づくりにぴったりだ」

「東京大改革に続き日本大改革が必要。その担い手として頑張っていただきたい」

 と持ち上げた。以前、乙武氏の女性スキャンダルが報じられたことについて指摘されると、

「本人に、二度とそういう過ちを犯さないと確認した」

 と擁護した。

 都民ファーストの幹部はこう話す。

「15区では小池知事自身か、乙武氏か、それとも別の人か、誰が出るのか私たち幹部も直前までわからなかったが、一気に乙武氏に決まったのはびっくり。小池知事は(支援を期待する)自民党や公明党側に『乙武さんにしますから』の事前相談もしなかったそうで、独特のカンで決めたようです」

 東京15区の補欠選挙は、公職選挙法違反事件で有罪が確定した元自民党の柿沢未途氏の辞職によるもの。同じ15区では、元自民党議員の秋元司氏もIR汚職事件で有罪判決を受け、上告中だ。現職議員が2人続けて逮捕されている選挙区だけに、自民党は今回の補欠選挙に候補者を擁立しないと決定。小池氏が擁立した乙武氏を推薦する方針を示している。

 昨年12月の江東区長選では、元東京都幹部の大久保朋果氏が小池知事の後押しで初当選。今年1月の八王子市長選では自民党が推薦候補の劣勢をはね返そうと小池知事に支援を依頼。選挙戦終盤で小池知事が応援に入り、当選に導いた。小池知事の選挙の強さは健在だ。

東京15区では小池知事に“借り”をつくる形になる岸田首相

 そこで浮上しているのが、処分を受けた自民議員が党を飛び出し、選挙に強い小池知事にすがって、ファーストの会入りするのではないかという見方だ。

■岸田自民では選挙で勝ち目がない

「岸田文雄内閣の支持率はジリ貧で、まったく浮上の兆しがない。いずれ解散総選挙になるが、岸田首相のままでは勝ち目がない議員はかなりいます。とりわけ裏金問題もあって、よけいにきつい選挙になる。それに岸田派も裏金事件で会計責任者が略式命令を受けているのに、岸田首相は処分なし。岸田首相への反発が強い安倍派や二階派の議員で裏金問題がある議員なら、このままでは勝ち目がないので自民党を抜けて小池知事と一緒に走っても不思議じゃない」(二階派の国会議員)

 現在、ファーストの会の国会議員はゼロで、乙武氏が当選しても1人だけ。国政政党の要件は、「現職の国会議員が5人以上」、もしくは「直近の衆議院選挙か前回、前々回の参議院選挙のいずれかで2%以上の票を獲得していること」なので、ファーストの会にとっても自民を抜けた議員の参加は歓迎だ。

「乙武氏が当選したら、5人以上の国会議員を集めて国政政党を目指すことになる。他の党からとなれば、小池知事の古巣で政策も近い自民党からこぼれてくる議員をという思いはある」(前出の都民ファースト幹部)

 小池知事の任期は今年7月まで。東京15区に出馬しないため、都知事選で3期目を狙うのは確定的とみられる。

 自民党は小池知事に大きな“借り”をつくる結果となるので、前々回の都知事選のように対立候補を立てるのは難しい情勢。小池知事は圧倒的有利に選挙戦を展開できる。

「7月の都知事選で圧勝となれば、自民党から小池知事の元へという動きは加速するんじゃないか。裏金議員でも、離党して小池氏の勢いを借りれば、イメージを払拭できるのではないかという計算もあるようだ。小池知事の最終目標は、総理の座でしょうから、まさに東京15区の補選が新たな『小池劇場』の起点になるのではないか」

 と、前出の都民ファースト幹部は顔をほころばせる。

2017年10月、希望の党の総決起大会であいさつする小池氏

■自民も野党も嫌な有権者の受け皿に?

 小池知事は、2016年7月に都知事選で自民党の推薦候補などを破って初当選したあと、勢いに乗って翌年9月に「希望の党」をたちあげ、国政に打って出た過去もある。

 自民党で政務調査役を務めた政治評論家の田村重信氏は、

「岸田首相は、東京15区で野党に対峙するには小池知事に頼るしかない。しかし、小池知事の国政進出は非常に怖いところだ。一歩間違えば諸刃の剣。いずれは国政でトップをとりたい小池知事が東京15区の補選を機に、岸田首相にとって代わろうとするかもしれない」

 と話し、こう続ける。

「岸田首相は思い切って処分をしたつもりだろうが、本当は裏金にかかわった議員全員を処分すべきで、世論は厳しい処分だとは見ていない。森喜朗元首相などにも切り込まないと信頼回復は無理だった。だから、小池知事に頼る事態になっている。解散総選挙になれば、自民党は嫌になった、しかし野党にも入れたくないという有権者がかなりいる。小池知事が政治の第一歩を踏み出した日本新党は、自民党を倒して政権交代を果たした。小池知事の得意技の一つがサプライズですし、その流れが再来しかねません」

(AERA dot.編集部・今西憲之)