不動産投資は、多くの人々にとって魅力的な資産形成の手段ですが、その成功は投資家の属性や市場のタイミング、さらには経済全般の状況によって大きく左右されます。この複雑な領域において、最近のファイナンスの学術研究(*1)が、特定の投資家グループがなぜ不動産投資で成功しやすい、あるいは失敗しやすいのか、興味深い洞察を提供しています。

 アメリカで収集されたデータに基づくこの研究は、ファイナンス分野で非常に高い評価を受けている世界トップ3に入る学術雑誌に掲載されました。この研究では、不動産投資のリターンがファミリー層、シングル女性、シングル男性でどのように異なるかを分析しています。ここで注目すべきは、経済学の最新の統計手法を用いて、偶然の景気の良さや投資家個人の知識レベルといった外的要因を排除し、純粋に属性が投資の成果にどのような影響を与えるかを明らかにしようとした点です。結果は、下記の図表に示されています。

 最新の値ではファミリー層は、不動産購入後のリターンが平均的に最も低いグループであるという結果でした。この理由として、ファミリー層が市場の状況よりも家族のライフイベントを優先し、不動産投資の最適なタイミングを逃しやすいことが挙げられます。例えば、子供が生まれる、学校の選択、転職などのタイミングで住宅購入が必要になるため、不動産市場がファミリー層にとって不利な時期でも取引を進めざるを得ない状況が生まれます。

 一方でシングル男性と女性の比較では、意外(!)な結果が出ていました。長期的なデータを見ると、シングル女性のほうが男性シングルより劣る傾向にあったのです。この現象の背景には、実は男女間の賃金格差が大きく影響しています。賃金格差から、頭金の額や投資原資に影響を及ぼし、結果として女性が不動産の購入や交渉において不利な立場に立たされやすいことが影響しているようです。さらに、女性は男性に比べて交渉を好まない傾向があるという点も、不動産購入の成果に差が出る一因とも考えられています。

 これらの洞察は、不動産購入を検討しているすべての人々、特にシングル層やファミリー層にとって重要な示唆を与えています。シングルの投資家は、不動産企業の比較や積極的な交渉が必須でしょう。ファミリー層は、不動産市場よりも家族のニーズを優先することが多いため、マイホームは資産だと思い詰めすぎず、平均的には損しやすいものと思い、だからこそ慎重に分析し、資金計画に余裕を持たせるということが重要かもしれません。無理して予算オーバーすることのツケが回らないように……。

 もちろん、最終的に、不動産購入は個人の状況、市場のタイミング、経済環境といった多くの要因に依存します。しかし、この複雑な決定を下す際には、自身の属性と市場状況を十分に考慮し、賢明な判断を下すことが重要です。

 私もこの研究結果を念頭に置きつつ、自分に言い聞かせたいところです(汗)。

*1 PAUL GOLDSMITH-PINKHAM and KELLY SHUE、“The Gender Gap in Housing Returns、”THE JOURNAL OF FINANCE•VOL. 78, NO. 2•APRIL 2023