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 首都圏では中学受験率が18%と過去最高になりましたが、「公立王国」愛知を中心とする東海地方でも、中学受験率は上昇しています。2025年度には愛知に初めて、公立中高一貫校が4校設置され、受験事情も変わりそうです。

■東海3県の受験率は堅実に上昇

 2024年、東海3県(愛知、岐阜、三重)では小学6年生の数が前年より1700人ほど減少した一方で、中学受験者数は72人の微増。その結果、受験率は上昇した。日能研東海(名古屋市)企画情報部長の藤原康弘さんは、その理由をこう話す。

「愛知県のなかでも名古屋市では、中学受験が特別なことではなくなってきました。コロナ禍で公立校に比べ私立校が素早い対応をしたことに加え、大学入試改革で思考力や記述力を問うようになり、保護者が『公立より私立のほうが取り組みが進んでいる』と感じているようです」

 もともと愛知は公立志向が強く、関東や関西と比較して、高校受験で公立高校に進学する生徒が多い地域だ。しかし、上記の事情に加え愛知県では、私立高校を対象とした国の就学支援金(年収目安が910万円未満の世帯に年間39万6000円の授業料を支給)にプラスして、独自の授業料軽減補助金を支給。年収目安が720万円未満の世帯には入学金20万円を支給するほか、国の就学支援金と合算して上限43万5600円を支給するなど、手厚い支援を行っている。このことから「どうせなら中高一貫教育を」と、私立中学受験への注目が高まっている。

■他地区からの腕試し受験も

 県別にみてみよう。愛知県では、小6人口が約1000人減少したが、受験者数はほぼ前年並み。今年のトピックは、愛西市にある清林館高校が、25年度の創立100周年を記念して中学を開校。70人の定員に対し、志願者は164人。中学受験市場を牽引した。今まで私立中学がなかった地域だけに、今後、受験層が掘り起こされる可能性がある。

 一方で女子校は、6校すべての学校で志願者が減少した。

「女子校の人気が落ちたというわけでなく、24年度は小6の女子の人口がたまたま大きく減少したためだと思われます。難関校においても、若干入りやすい入試になりましたね」

 東海(名古屋市)は36人減の1,035人、滝(江南市)は38人減の1,891人など、難関校は微減にとどまり、ほぼ例年並みに推移した。最近では、他地区から腕試しで受験する受験生も見られるという。南山女子部(名古屋市)は713人から700人へと減少するも、女子校の中では減少率が一番低かった。

 愛知県内の私立校でここ数年志願者数を伸ばしているのが名古屋(名古屋市)だ。24年度も1498人と前年より23人増加した。

「名古屋は全国高校サッカー選手権の県大会で優勝、全国大会でも準々決勝まで勝ち進みました。勉強もできてスポーツも強いことが好感を呼んで、今後も人気につながりそうです」

  愛知工業大学名電(名古屋市)も1049人から1230人と増加している。2日間行われる入試では両日とも受けると優遇されることから、2回受ける受験生も増えてきているという。

「愛知県はトヨタ自動車をはじめ製造業が多く、理系に進んでほしいと思う保護者も多いです。同校も理系大学の付属校ということで、人気が上昇。もともと少人数で面倒見が良いという評判で、それが口コミで広がり、志願者の増加につながりました」

■岐阜や三重も微増

 愛知と同様に岐阜、三重も小6人口が減少したものの、受験者数は増えた。

「岐阜と三重は、愛知の動向の影響を受けます。愛知より少し前に入試日程が組まれているので、愛知の受験生が岐阜、三重のトップ校を受験し、合格を取って自信をつけつつ、いざというときの進学先として確保しています」

 岐阜のトップ校、鶯谷(岐阜市)の志願者は470人から553人と大幅に増加した。1903年に創立された、岐阜県最古の私学だ。名古屋市内に受験会場を設けており、愛知からの受験生も増えている。

「名古屋駅から鶯谷の最寄りの岐阜駅まで20分程度と、名古屋からも十分通える距離です。これからも伸びる可能性が高い」

 同様に三重のトップ校、高田(津市)も546人から593人に増加。愛知からの受験生も増えている。

■愛知に初めて、公立中高一貫校が誕生する

 25年度は愛知県に初めて、公立中高一貫校が開校する。明和高校(名古屋市)、半田高校(半田市)、刈谷高校(刈谷市)、津島高校(津島市)の4校に、それぞれ併設型で中学校が設置される。さらに26年度にはあらたに7校の開校が予定されている。

 この動きを、愛知の私立校はどう受けとめているのか。

「期待半分、不安半分といったところでしょうか。今まで受験を考えなかった層が参入してくるとみられ、中学受験層の掘り起こしにつながるとの見方もあります。私学との学費の差は大きく、保護者の注目も高まっているため、受験生を奪われるのではないかと心配している学校も多いです」

 25年の入試日程も発表されている。1月11日に1次の適性検査、翌週の18日に2次の面接が行われる。

「岐阜や三重、愛知の一部の中学の入試と日程が重なるので、その日を避けて日程を組み直してくる私学も多いと思われます。入試日程が変わると難易度が変わる可能性もあるので、学校選びは十分考慮したほうがいいでしょう」

(文/柿崎明子)