エンゼルスのマイク・トラウト(USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大谷翔平が昨シーズンのオフにドジャースに移籍したことで、日本のメディア、そしてファンの注目は新天地での動向に向いている。

 だが、いまだに大谷が所属した“余韻”もある古巣エンゼルスの戦いぶりや、かつての盟友とも呼べるマイク・トラウト外野手のパフォーマンスも同時に気になるところ。投打の“二刀流”大谷が抜けたことで、エンゼルスの開幕前の下馬評はかなり低かったが、シーズン開始から約1カ月たった今、どんな状態なのだろうか。(以下、文中の成績はすべて現地4月22日終了時点)

 まず、チームの順位はアスレチックスと並びア・リーグ西地区の3位タイ(9勝14敗)。同地区で昨季ワールドシリーズを制覇したレンジャーズが12勝11敗で首位を走っているものの、ゲーム差は3.0と現状ではトップを視界にとらえている状況ではある。

 先述の通り、シーズン前は投打に厳しい戦いが予想されていたが、なんとか踏ん張れているのはトラウトの活躍もあるだろう。大谷が去り、チームは完全な再建期に入っていることから「トラウトをトレードで出して有望株を獲るべき」という考えが米国はもちろん、日本でも議論となったが、今季もエンゼルスの一員としてシーズンを迎えた。

 トラウトはここまで打率こそ.236と高くないものの、ア・リーグトップの8本塁打を放っている。ソロアーチが多く11打点というのは気になるが、盗塁も同8位タイの5個をマーク。2020年以降は最多の盗塁数が2個だったように、ここ数年は出塁しても走ることはなかったが、指揮官がロン・ワシントン新監督に代わり、持ち味だったスピードを発揮できているようだ。18日のレイズ戦では2018年7月以来となる複数盗塁を記録している。

 トラウト以外の野手では2022年シーズンにブレイクを果たしたテーラー・ウォード外野手が打率.277(94打数26安打)、6本塁打、21打点と好調をキープし、有望株のローガン・オホッピー捕手、ルイス・レンヒーフォ内野手、新加入のミゲル・サノ内野手などもまずまずの成績を残している。

 だが、痛いのはやはりエンゼルスに大型契約で入団以降、全くいいところのないアンソニー・レンドン三塁手の離脱だ。今季は開幕から絶不調だったものの、15日のレイズ戦で3安打をマークするなど調子は上げてきていた。トラウト同様に既にエンゼルス移籍以降最多となる3つの盗塁を記録して「今季こそ」という雰囲気もあったが、20日のレッズ戦の走塁中に左太ももの裏を負傷。4年連続の故障者リスト(IL)入りとなっている。

 一方投手は、加入1年目の昨年は苦戦したタイラー・アンダーソン、若手のリード・デトマーズの両左腕が奮起しているが、先発陣のチーム防御率(4.18)はリーグ15チーム中11位。リリーフ陣も防御率4.70で同11位とともに安定感を欠いている。ブルペン陣では昨オフに3年総額3300万ドル(約51億1000万円)で獲得したロバート・スティーブンソンが肘を故障して今季の全休が決定。先発、リリーフともに若手で伸びしろのある投手も少なく、今季も打線が点を取っても守り切れないという状況が続きそうな予感が漂う。

 メジャーリーグ公式サイトの『MLB.com』が発表する最新の戦力値ランキングでもメジャー30チーム中25位と低く、2014年以来となるプレーオフ進出は厳しいと見るのが妥当だろう。

 そういった意味でも、将来を見据えてここまで好調を維持している32歳のトラウトを「トレードの価値があるうちに……」という声が早くも出てきているが、そう簡単にはいきそうにない。というのも、トラウト自身は勝てない状況にフラストレーションはたまっているようだが、「出て行く気はない」と幾度となくエンゼルスでプレーを続ける意思を示している。

 18日に米スポーツ専門局『ESPN』のウェブサイトは、「なぜトラウトはエンゼルスで勝ちたいのか?」というタイトルの記事を掲載。トラウトがメジャーデビュー以降、エンゼルスにとどまっている理由について考察している。

 新たに今季から指揮官に就任したロン・ワシントン氏は「彼(トラウト)は毎日チームの先頭に立って動いている。クラブハウスでは楽しんでおり、チームメイトとも話しているよ。これまで私たちが続けてきたことに満足しているようだ」とスプリングトレーニング中に語っており、まだ結果は出ていないが新監督を迎えたチームに可能性を感じていることも理由の一つだろう。

 また、同僚で現在チームのクローザーを務めるカルロス・エステベスは「(トラウトは)2009年のドラフトでエンゼルスが指名してくれたことを忘れていない」と球団への恩を感じていることも明かしている。若い頃は名門ヤンキースのフランチャイズプレイヤーとして幾度となくチームの世界一に貢献したデレク・ジーター遊撃手に憧れていたというトラウトについて、「責任感のようなものを感じているはず」と今季から三塁コーチに就任したエリック・ヤング・シニア氏が述べているように、エンゼルスで勝つことに大きな意味を見出しているのは間違いなさそうだ。

 トラウトは2019年のシーズン前、エンゼルスと当時としては史上最高額となる12年総額4億3200万ドル(約668億5000万円)の契約を結んだ。時が経ち、今季が6シーズン目。ちょうど折り返しに来るまでにチームには紆余曲折があった。だがトラウト自身、「(移籍は)頭をよぎったことすらない」「世間の考え方は自分には何の影響もない」と発言していることからも、残りの契約期間中に何とかエンゼルスを世界一に導きたいという考えが中心にあるように感じる。