レイカーズの八村塁(ロイター/アフロ)

 NBAで5年目のシーズンを過ごしている八村塁が、名門チームの主力として活躍している。

 昨季途中にワシントン・ウィザーズからトレードでロサンゼルス・レイカーズに移籍した八村は、今季のレギュラーシーズンで68試合に出場し、1試合平均13.6得点、4.3リバウンド、1.2アシストを記録。スターターに固定されていたウィザーズ時代と同じようなスタッツを残し、プレーオフに突入している。

 1試合の出場時間は平均26.8分となっており、これはルーキーシーズンの30.1分と2年目の31.5分に比べると見劣りする数字。主要スタッツもウィザーズ時代からあまり変化がないように見える。しかし中身を見ると、ここ数カ月の充実ぶりが分かる。

 2021年のウィザーズ3年目以降からベンチスタートが多かった八村だったが、今年2月3日のニューヨック・ニックス戦で先発になってからは、全試合でスタメンに固定され、これを機にプレータイムも増加。終盤の大切な時間帯でもコートに立つことが当たり前になり、首脳陣から信頼を勝ち取っているように思える。

 得点源としての活躍も目覚ましく、2月14日のユタ・ジャズ戦では8本中6本の3Pシュートを決めるなどキャリアハイの36得点を挙げ、この日39得点したアンソニー・デイビスとともに、チーム史上、2003年のコービー・ブライアントとシャキール・オニール以来となる35得点以上したペアに。レイカーズのレジェンド2人が達成した偉業に並んだ。

 さらに八村は、3月27日のメンフィス・グリズリーズ戦で8本中7本の3Pシュートを沈め、FGも14本中11本を成功させ32得点を奪取。4月7日のミネソタ・ティンバーウルブズ戦でも30得点と大暴れし、有意義な後半戦を過ごしたと言える。

 特に進化を遂げているのは、そのシュート力だろう。元々ミドルレンジからのショットには定評があった八村だが、今季のFG成功率は53.7%、3Pシュート成功率も42.2%とかなりの高確率。上述の通りNBA入り2年間と主要スタッツのアベレージはあまり変化がないが、その中身の精度は向上している。

 ちなみに、八村が先発として固定される前と後のレイカーズは、前者が25勝25敗で後者が22勝10敗。レイカーズは45勝35敗でレギュラーシーズンを終え、ニューオーリンズ・ペリカンズとのプレーイントーナメントに勝利し7位でプレーオフ進出を果たしているが、もしシーズン当初から八村がスターターだったら……、と思わずにはいられないほど、チームに不可欠な存在となっている。

 八村は、レイカーズ入りしてから“キング”ことレブロン・ジェイムスとの“師弟”関係がメディアでも取り上げられているが、ジェイムスやデイビスといったスーパースターと日々を過ごすことで、バスケ選手として大きく成長していることは間違いない。そして、特に世界のバスケファンからも注目され、優勝が至上命令となっている名門レイカーズのメンバーとなっていることは、これからの八村のキャリアに大きな影響を与えることになるはずだ。

 では、今後の八村はNBAでどのレベルのプレーヤーにまで到達できるのだろうか?

 八村の未来像を想像するには、ベンチマークとなるプレーヤーと比較することが分かりやすい。八村は、もちろん豪快なダンクなどはあるものの、ジェイムスのように度肝を抜くスーパープレーで魅せるというよりも、ミドルレンジのシュートが得意で、堅実にプレーをこなすタイプだ。

 手が大きく、体格もバランスが良いだけでなく、体幹が強いためフィジカルでもかなりのアドバンテージがある。コート上でも常に落ち着いているのも魅力の一つだ。

 そこで浮かんでくるプレーヤーが、八村がドラフト指名前から比較されていたロサンゼルス・クリッパーズでプレーするカワイ・レナードだ。

 レナードと八村はポジションこそ異なるが、レナードも派手なプレーを連発するというより、ミドルレンジでのプレーや、アイソレーション、ポストプレーなどで着実に得点を重ねるタイプ。体格も八村の身長203センチ、ウイングスパン218センチに対して、レナードが身長201センチ、ウイングスパン221センチと、ともにウイングスパンの長さに恵まれている。

 一方、両者の違うところ、あるいはレナードにあって八村に欠けている部分があるとすれば、それはディフェンスだろう。シーズン途中から先発となっている八村だが、ディフェンスに対する課題があり、控えだった時はプレー時間が20分台であったり、勝負を左右する終盤にベンチを温めることがあった。

 ところが、レナードはディフェンス力がリーグ屈指で、最優秀守備賞は2度獲得し、NBAオール・ディフェンシブ・ファーストチームには3度入り、セカンドチームは4回受賞。2015年にはスティール王にも輝いた。つまり、八村がさらなる成長を遂げ、優勝請負人とも言われるレナードのレベルに達するには守備面の強化が必須ということだ。

 八村は、昨季、そして今季のプレーオフでデンバー・ナゲッツと当たり、場面によってはリーグMVPに2度輝いているニコラ・ヨキッチとのマッチアップを任されている。これは、チームも八村のポテンシャルを感じているからに他ならない。

 向かってくる相手が八村にコンタクトしてきても、むしろその相手の侵入を許さずに逆に弾き飛ばすほどの体幹の強さがあるのは天性だろう。ディフェンスの精度が高ければ、オフェンスのリズムも良くなるというもの。NBA入りしてからディフェンス面での成長を見せているが、守備力でレナードレベルに近づくことができれば、八村のキャリアはさらに輝かしいものになるだろう。(文/田村一人)