小説『もう明日が待っている』とエッセイ『最後のテレビ論』を同時刊行した鈴木おさむさん。放送作家を引退した鈴木さんが明かす、物語として書き残したかったこととは。お薦めの本3冊も聞いた。AERA 2024年4月29日-5月6日合併号より。
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──『最後のテレビ論』は「週刊文春」で連載されていたエッセイをまとめた一冊です。こちらは軽妙なタッチではありますけど、テレビの裏側に関わってきた人たち、プロデューサー、放送作家、マネージャーたちのリアルな姿が、実名でまざまざと描かれています。
鈴木おさむ(以下、鈴木):「文藝春秋」に載せた「小説『20160118』」を書くとき、新谷さんに“記すことの正義”と言われたんです。誰かが記しておかないと残らない。そう言われて、すごくハッとしたんです。それを第三者が書くのではなく、中心にいた僕が記しておかないといけない。それであえてテレビの世界にあったクレイジーさを書き記しておこうと思ったんです。
テレビのエッセイをテレビ側の人が書くと、どうしても最後に踏むブレーキの方が強くなってしまう。それでは覚悟が足りないものになると思ったので、今回は全部実名にしようと決めました。(登場する人物には)事前に許可は取っていません。
■絶対ギブアップしない
──そうなんですか!
鈴木:もちろん怒った人もいましたよ。でも、それをやることがリアリティーだし、僕が書いた人にはすべてにおいて愛を持って書いているつもりです。だから、放送作家を辞める僕からの“テレビ界への遺言”っていうのはまさにその通り。
──今、テレビの力が落ちたとか、ネットに負けているとか、いろいろ言われてますが、この2冊には、今現場にいる人や、これからテレビの世界に可能性を見いだして仕事をしたいと考えている人のための道しるべ作りをしている意識も感じました。
鈴木:『最後のテレビ論』には日本テレビで、今のテレビ界ナンバーワンの作り手である高橋利之さんが出てきます。トシさんからは両方読んだと電話をもらいました。『最後のテレビ論』の最終章には泣いたと言ってくれたんですよね。僕はあそこで「テレビは白旗をあげた方がいい」って書いている。でも、トシさんは「おさむくん、俺は絶対ギブアップしないから」って言ったんです。その言葉を聞いて、僕はすごく素敵だなと感じたし、これを書いてよかったなと思いました。
──そんな忘れ難いテレビマン、そして鈴木さんの“戦友”として『もう明日が待っている』の最後のページに「スマスマ」のチーフプロデューサーで、今年2月に亡くなった黒木彰一さんへの献辞が添えられています。
■黒木さんの“遺言”
鈴木:「小説『20160118』」を長い物語にするにあたって、これは僕とSMAPの話でもあるけど、僕らと一緒に番組を面白くしようと作ってきたチームの話も強烈に描き残したいと思ったんです。SMAP5人の旅企画はスタッフの強い思いがあって、裏ではスタッフがものすごい努力を重ねて作っていたこととか。
かつ、東日本大震災への向き合い方もそう。SMAP、飯島(三智)さん、僕らがみんなで向き合ってきた物語をやっぱり書きたくなった。
実は、そういう話は黒木さんの入院と闘病が長引いていて、もしかしたらと不安に思い始めてから書いたことでした。彼はコントの中で中居(正広)さんが扮した“ダメ人間”として登場したり、メンバーにも愛され続けた人。みんなにいじられまくっていたけど、あの人がずっと頑張り続けたことで、マイケル・ジャクソンやマドンナ、レディー・ガガのゲスト出演が実現したり、いろんな奇跡を成し遂げることができたんです。
最後に黒木さんと面会した日、この本のゲラを本人に渡しました。その夜にLINEが来て「非常に面白く読ませていただきました。本当にありがとうございます」と書いてありました。もうその時点ではメールを打つのも大変だったはずなのに。葬儀の日にはお子さんから感謝の言葉をいただきました。それを聞いて、僕もこの物語に「。」が打てた気がしました。だから、ギリギリのタイミングでしたけど、最後の1行を本に付け加えさせてもらいました。
面会したとき、帰り際に黒木さんが一緒にいたスタッフにこう言ったんです。「もし(SMAPが)再結成するときは、絶対おさむさんに(放送作家を)頼めよ」って。それが多分、黒木さんの遺言。僕はもう放送作家を辞めると黒木さんも知ってたんですけど、その言葉は自分の中では背負っています。
(構成/ライター・松永良平)
■鈴木おさむさんお薦めの本3冊
医師である著者が命のあり方を描く
『スピノザの診察室』/夏川草介著/水鈴社
『ゲームの達人』/シドニー・シェルダン著、天馬龍行・中山和郎訳/アカデミー出版
『毎月新聞』/佐藤雅彦著/中公文庫
※AERA 2024年4月29日-5月6日合併号より抜粋