UCLAの大学院生でデモに参加しているサミュエル・アーメッド

 米国の大学で、イスラエルによるガザ地区への攻撃に抗議するデモが広がっている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校、通称UCLA では、学生たちがテントを張って抗議活動を続ける中、反対する勢力が彼らのテント陣営を襲撃する事件が5日1日に起きた。デモに参加する学生たちの声を現地ジャーナリストが取材した。

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「僕たちがテントの中でここ6日ほど夜明かししている理由は、極めてシンプルだ。大学にイスラエル援助の投資をやめてほしいから」。

 そう語るのは、UCLAの大学院生、サミュエル・アーメッドだ。

 パレスチナの白と黒のスカーフを頭に巻き、黒いマスクをしたアーメッド。彼の真後ろには、ベニヤ板で作った複数の柵が城壁のように並んでおり、色とりどりのテントを囲むような形で立てかけられている。

「僕たちのUCLA側への要求は、ガザの3万7千の人々を爆撃して殺戮したイスラエル軍を援助している企業に、大学の資金を投資しないでくれということだ」と彼は言う。

「自分が学費を払って通っている大学が、人を殺すシステムに投資して利益を得ているのは、人道的に考えて、おかしいと思うから」。

 大学が人を殺すシステムに投資して利益を得ているーーーとは、具体的に何を指すのだろうか?

 UCLAに限らず、米国の多くの大学は、大企業や団体、富裕層の卒業生から巨額の寄付金を得ることで、大学の運営資金を調達しているのが特徴だ。理系の研究リサーチなどにもこの寄付金が使われるが、大学は、巨額の寄付金の一部を企業やヘッジファンドなどに投資し、リターンを得て運用するのが普通だ。

 ちなみに、ロサンゼルスやバークレー、アーバインなど10校を含む「UC」と呼ばれる「カリフォルニア大学システム」全体の投資ポートフォリオの総額は26兆円に達する。これは日本政府の2024年度の総予算の23%に当たる大きな金額だ。

「UCLAは細かい投資額を公表していないけど、投資先の中にブラックロックやエクソン・モービルなどがあることは、すでに判明している」とアーメッド。

UCLAのガザ支援学生たちがキャンパス内に設置したテント

 コロンビア大学からUCLAまで、全米でガザ支援デモに参加している大学生たちが真っ先に口にするのがこの「ブラックロック」という、世界最大のアセット・マネジメント企業の名前だ。

 同社は、イスラエルに武器を提供している米国の大手武器製造企業に投資する金融商品も扱っている。

 アーメッドに「あなたたちの要求に対しUCLAからどんな反応があったか?」と聞くと「今のところ、何もない。要求を通すまで、僕たちはここから動かないで主張し続ける」と言う。

 アーメッドは、1980年代にUCLAの学生たちが南アフリカのアパルトヘイト政策に反対して「南ア政府とビジネスをしている企業への投資をやめろ」と大学に訴えてデモ活動をした例を挙げた。当時の大学側は、結果的にデモ学生たちの要求を飲んで投資先を変更したのだ。

「今は僕たちが抑圧されている番だけど、80年代の学生と同じように、歴史によって、僕たちが正しいことをしたと証明される時がくると思うから」と語る。

 UCLAのキャンパスの中に設置されたガザ支援学生たちのテントの数は、4月30日の段階でおよそ100近くに達していた。

「デモに参加している学生の総数はわからないけど、2日だけ泊まっていく学生もいれば、毎日いてここから授業やバイトに通う学生もいる。テントで寝泊まりする教授もいるし、食料などの差し入れも豊富にある。基本、出たり入ったりは自由だから、全部合わせれば、参加者は数千人はいると思う」。

 4月29日の夜中には、ガザ支援のテント設置に反対する何者かが、白いネズミがたくさん入ったバックパックをアーメッドたちのテントがある横の道に置き去りにし、夜中に白ネズミが一斉に地面を這い回る様子が、ビデオ撮影され、SNSで拡散されていた。

「ネズミを使った嫌がらせだけでなく、夜中になると外からやってきて闇に紛れて暴力をふるうグループが複数存在するんだ。大音響で音楽を鳴らし、ビデオを流したりするいやがらせもひっきりなし。だから夜眠るのはかなり難しい」とアーメッド。

 だが、彼は「抵抗運動をする時点で、自分たちを守れるのは、自分たちだけだと覚悟している」と語り、外からやってくるグループがふるう暴力の制圧に関しては、大学には特に期待していないと語る。

「UCLA側にはイスラエル援助の投資をやめてくれることだけを要求している」。 

キャンパス内に設置されたイスラエル支援グループの巨大スクリーン

 アーメッドたちの活動を「反ユダヤ主義だ」と非難し、デモ参加学生たちを「テロリスト」や「ハマス支持者」と呼ぶグループが多数存在するが、それに対してどう思うか聞いてみた。

「僕たちは反ユダヤ主義ではない。その証拠に、ユダヤ系の学生も大勢このデモに参加して同じテントで寝泊まりしている。僕たちはイスラエルという国のガザに対する軍事行為に反対し、ガザの人々を殺すのをやめてほしいと要求しているだけ」。

 アーメッドたちのテント陣営の反対側にある芝生スペースの上には、イスラエルを支持するグループが設置した「ハマス、人質を解放しろ」と印刷されたバナーと、巨大なスクリーン画面がある。

 その画面では昨年の10月7日にイスラエルで起きたハマスによる民間人襲撃の映像シーンが繰り返し流されている。

 ユダヤ教のシンボルである星型のペンダントをした男子学生たちがその画面の周辺に集まり「パレスチナ支援の学生に占拠されたこのキャンパスは、もはや自分たちにとって、安全ではない」とLAの地元のテレビ局のインタビューにこたえていた。

 さらにユダヤ系の学生たちは「図書館や校舎に入るのにデモ隊に入り口を塞がれて、遠回りをしなければ入れない。なぜ高い学費を払っている自分たちが、試験の直前にこんな思いをしなければならないのか?」と語った。

 UCLAのキャンパス内で、デモ隊のテントが集結している芝生のエリアを挟んで、片側にパウエル図書館、そしてもう片側にロイスホールと呼ばれる講堂と教室が合体した建物がそれぞれある。

 そのどちらの建物の周囲も、大学側が設置した鉄柵でぐるりと囲まれており、一般の学生の歩ける道が限られていて、まるで迷路のような構造になっている。

「図書館への迂回道はこちら」というプラカードを見つけて進むと、図書館に入れる入り口が見つかったが、UCLAの学生証を提示した場合のみ中に入れる。通常、公立大学の場合、誰でも自由に校内に入れるのだが、すでに規制され、大学側に雇われたセキュリティ会社のスタッフが立っていた。

 さらにテント陣営に通じる入り口には複数のチェックポイントが設置されており、ガザ支援の学生たちが、さまざまな色のリストバンドを仲間に配り、そのリストバンドの色によって、その入り口から入れる学生を選別しているようだった。

 イスラエル支援グループがそのチェックポイントを突破しようとすると、毛布を持ち、マスクをした複数の学生たちが彼らを取り囲み、部外者を中に入れさせないシステムができていた。

ガザ支援の学生たちを支援するヨギタ・ゴヤル教授(右)

 講堂の前で「UCLAの教員とスタッフは学生と共に立ち上がる」と書かれた青色の横断幕を掲げて立っていたのは、英文学とアフリカン・アメリカンスタディーズを教えるヨギタ・ゴヤル教授だ。20年間UCLAキャンパスで「人種」と「帝国」の関係について研究してきた彼女はこう語った。

「パレスチナ支援のために行動する学生たちを誇りに思う。ガザで女性や子供たちを含む民間人が爆撃され、吹き飛ばされて殺される中で、これまで米国の大学経営陣はその虐殺を一切阻止してこなかった」と語る。

 東京で高校時代を過ごしたことがあると語るゴヤル教授は「私は日本語を覚えました」と日本語で筆者に語り、かすり地のシャツを着てテント陣営の真ん前で立っていた。

 一触即発の緊張感がみなぎるこのキャンパスで、小柄な彼女が、もし乱闘に巻き込まれたらという不安はないのだろうか?

「自分の身の安全よりも、大事なことがこの世にはあるから」。そう静かに言った。

 教授がデモに積極的に参加することで、大学経営陣からにらまれる可能性はないのか、と聞くと「自分のことは一切心配していない」と断言した。「大きなリスクを取っているのはむしろ学生たち。キャンパス内で警察に逮捕されるというひどい事例が他大学で次々起きる中でも、うちの学生たちはあえて立ち上がった。その勇気に私はどれだけ触発されてきたか」。

 UCLAでのインタビューを終えて、キャンパスを後にし、翌日、5月1日の朝起きると、LAタイムズの一面には「UCLAのキャンパスで暴力が発生」という記事が載っていた。慌ててニュース映像を探すと、テント陣営の学生たちに向かって、発火した花火を投げつけ、熊用のスプレーを浴びせるグループの映像が映っていた。

 筆者が数時間前まで取材していた場所を囲っていたあのベニヤ板と鉄柵を何十人もの人間が剥がそうとし、内側にいる学生たちは、そのベニヤ板を盾に身構えていた。

 流血した学生たちをテントの内側で救護する学生たちの姿もあった。

 映像の中に、アーメッドとゴヤル教授の姿を探したが、今のところ、見つかっていない。

 大学側に雇われたセキュリティのうちのひとりが昼間こう語っていたのを思い出す。

「自分は会社から派遣されてここにいるけど、夜がひどいんだ。夜が。あらゆる暴徒がやってくるから」。

 流血する学生たちやテントの上で花火の閃光が散っていた。

 そして、その十数時間後、多数の警察がUCLAのキャンパスに突入し、テントを壊し、百人以上の学生を逮捕した。

(ジャーナリスト・長野美穂=米ロサンゼルス)

※AERAオンライン限定記事