シーズンの出だしでつまずいた松井監督

 4月を終えて借金10と苦しい船出となったのが西武だ。
 開幕から3カード連続勝ち越しで6勝3敗と好スタートを切ったかに見えたが、その後は7連敗を喫するなど2勝15敗と大きく負け越し、4月終了時は首位と11ゲーム差の最下位。4月下旬にソフトバンクに3試合連続サヨナラ負けを喫するなど、試合展開もダメージが残る戦いが目立つ。

 低迷の一番の要因は貧打に尽きる。4月終了時点でリーグワーストの67得点。主砲として期待された4番のアギラーはまだまだエンジン全開といかず、コルデロは打撃不振に加えて外野の守備難がネックとなりファームに降格した。中村剛也、栗山巧の両ベテランにいつまでも頼れない。若手に台頭してきてほしいが、外野の3枠はレギュラーが1つも固まらない状況だ。就任2年目の松井稼頭央監督も頭を悩ませているだろう。

 だが、スポーツ紙デスクは指揮官としての手腕に疑問符をつける。

「起用法や采配で首をかしげる場面が多い。先発投手の能力が高いチームですが、守備能力が低い選手が足を引っ張り、戦術面で小技や機動力を絡めて得点する引き出しが少ない。気になるのは松井監督の育成能力です。19年から2軍監督を3年間務めましたが、現在1軍の舞台で活躍している野手が全然いない。1軍のヘッドコーチを経て監督に就任以降も、やりたい野球の方向性が見えてきません。チームの核になる選手をどう育てるかは大きなポイントになりますが、昨年1軍で起用していたドラフト1位コンビの蛭間拓哉、渡部健一は開幕からファーム暮らしが続いている。先行きが明るいとは言えません」

 主力選手がFAで他球団に流出してきた西武だが、低迷期は短かった。08年から9年連続でリーグ優勝から遠ざかった時期でも、2位に4度食い込み、借金生活でシーズンを終えたのは2度のみ。強さを維持する源は育成能力の高さだった。
 今もチームを引っ張る中村剛也、栗山巧だけでなく、中島宏之(中日)、秋山翔吾(広島)、浅村栄斗(楽天)、森友哉(オリックス)、山川穂高(ソフトバンク)と、生え抜きの選手たちがチームの主軸を担ってきた。現役時代に日米通算2705安打をマークし、歴代ナンバー1遊撃手の呼び声が高い松井監督はその筆頭格と言える。

派手なパフォーマンスをしながら、チーム力を上げてきた新庄監督

 だが、監督就任1年目の昨季は65勝77敗1分で5位、今季もスタートダッシュで大きくつまずいた。現役時代から取材するテレビ関係者は、こう指摘する。

「優しすぎるかなと感じますね。監督はシビアな面を持ち合わせていなければいけないが、松井監督は怒りを前面に出すことが少ない。怒ればいいというわけではないけど、ピリッとした雰囲気は必要です。今の西武は優しい選手が多く、雰囲気が少し緩い。試合も粘り強さがなく、西武特有のしぶとさが消えている。暗黒時代に突入しなければ良いのですが……」

■チーム内の競争が激しい日ハム

 西武と対照的に、チーム改革が順調に進んでいると言えるのが日本ハムだ。新庄剛志監督が22年に就任して2年連続最下位に沈んだが、今年は4月終了時点で貯金5の2位。昨季25本塁打とブレークした万波中正、打率3割7分を超えるハイアベレージで正捕手をつかもうとしている田宮裕涼と、若手が次々に台頭している。
 北海道のメディア関係者は、新庄監督を絶賛する。

「新庄監督が就任した3年前は主力選手がごっそり抜け、松井稼頭央監督が就任した時の西武と比べものにならないほど戦力的に弱かった。でも2年間若手を我慢強く使い続け、今年はAクラスを十分に狙える。3年でここまでチームを成長させた手腕は凄いですよ」

 新庄監督は派手なパフォーマンスや言動が注目されるが、野球に向き合う姿勢は非常に厳しい。走塁や守備でのボーンヘッドにベンチで怒りを露わにし、苦言を呈することも。就任会見で「全員に平等にチャンスを与える」と明言した通り、就任1年目の22年は支配下の日本人選手全員が1軍で試合に出場した。新監督が就任すると若返りを進める傾向があるが、新庄監督の場合は違う。年齢関係なく実力主義を徹底する。その結果、伸び悩んでいた中堅の松本剛がプロ11年目で自身初の首位打者を獲得。栗山英樹前監督の時に主力として活躍した中島卓也は近年出場機会を減らしていたが、今年は開幕1軍スタートで代打、代走を中心に重要な役割を任されている。一方で若手のホープとして起用されてきた清宮幸太郎、野村佑希でも、調子を落とせば容赦なく出場機会が減る。選手を色眼鏡で見ないから、チーム内の競争が激しくモチベーションが高い。

 他球団の首脳陣は、「選手層が厚くなり、攻守で野球の精度が上がってきている。敵ながらいいチームだなと思いますよ」と評価する。今年は優勝争いにシーズン終盤まで食い込めるか。パ・リーグの台風の目になることは間違いないだろう。

開幕ダッシュに成功した立浪監督

■中日の未来は暗くない

 同じく2年連続最下位からの巻き返しを狙う中日も、開幕ダッシュに成功して一時は貯金6で首位に浮上。立浪和義監督は新庄監督と同じタイミングで就任し、今年が3年目のシーズンとなる。低迷期から抜け出せないため風当たりは強いが、チームを変革しようという強い意志は感じられる。岡林勇希、高橋宏斗、松山晋也と生え抜きの若手が次々に頭角を現し、現役ドラフトでDeNAから獲得した細川成也も長距離砲としての素質を開花させた。今季は巨人から移籍した中田翔が4番に入ったことで、打線に太い幹ができた。田中幹也、村松開人の二遊間も攻守で成長の跡を見せており、立浪監督も手ごたえをつかんでいるだろう。

 名古屋のテレビ関係者は、「ベンチワークで批判の声が多いですが、育成の手腕に長けた監督だと思います。投打で1年に1、2人と若手が一本立ちしていますしね。チームの未来は決して暗くない。監督3年目ということで、過去2年の反省を生かしている部分があると思います」と評価する。春先の勢いがなくなり失速しているが、ここで踏みとどまれるか。

 新庄監督、立浪監督は共にチーム改革を託されて就任した。育成と勝利を両立するのは容易ではない。両球団は共に2年連続最下位に沈んだが、今年は上位戦線に食い込もうとしている。
 新監督のチーム再建には3年が必要といわれる。松井監督は下位から浮上する戦いを見せれば来季続投の可能性が十分にあるが、今季も2年連続で下位に低迷した場合はどうだろうか。

 西武を取材する記者は、「難しい判断になると思います。でも、まだシーズンが始まって1カ月ですからね。打線が機能して得点力が上がれば、投手力は良いので白星を積み上げられる。選手達は意地があるでしょう。松井監督は選手の人望が厚く、スタメンから外れた選手に声を掛け、助言を送るなど視野が広い。良いリーダーになる資質は持っていると思うので巻き返してほしいですね」と期待を込める。

 新庄監督、立浪監督、松井監督は現役時代に球史に残るスーパースターとして活躍した。指導者としてもキャリアを輝かせられるか。三者三様の戦いはこれからも続く。

(今川秀悟)