不登校の本当の理由が言えないのは、「学校に行っていないだけで迷惑をかけてるから、これ以上は……」。子どもは子どもなりに、親を気遣っているんです

 3人の子どもの不登校を経験し、不登校の子どもやその親の支援、講演活動などを続ける村上好(よし)さんの連載「不登校の『出口』戦略」。今回のテーマは「そのとき子どもの頭の中で起こっていること」です。

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 この連載の2回目では、学校に行きたくないと言われたときに親にできることについてお話ししました。思春期ゆえの扱いにくさや、子どもの表現力の未熟さが、不登校をより複雑にしている可能性があるんですよね。

 私は学校にも勤務していますので、毎日、中高生といろいろな話をします。私が勤務しているのは男子校で、中学1年生は、制服もまだブカブカで着慣れていない感じがとても初々しい、この間までランドセルを背負っていた生徒たちです。一方で高校生になると、びっくりするくらいに大人っぽくなって、この時期の子どもたちの成長には驚かされる毎日です。

 思春期は、体が急激に成長していく時期。そのため、心と体のバランスがうまく取れずに悩みを抱えていることも多いのです。体は成長しても脳は未発達で発展途上であるということは前回も書きましたが、多くの子はそのことに気づく機会がありません。親である私たちも、目の前のわが子の態度や言動を目の当たりにすると、ついつい言わなくてもいいことまで言ってしまうことがあるのではないでしょうか?

 私も、今でこそこうやってみなさんにアドバイスなんかしていますが、子どもたちが不登校だった当時は怒りの沸点が低く、ちょっとした言動で頭ごなしに叱りつけることもしょっちゅうでした。私自身が感情に乗っ取られていて、怒りに任せてそれを子どもにぶつけていた日々でした。

 いま、私が親御さん向けに行っているグループレッスンに、「自己肯定感を育てる親講座」というものがあります。そのワークの一つに、親に否定語と指示語で言い募られるシーンを子どもになったつもりで聞く、というものがあります。参加者には「子どもになったつもりで聞いてくださいね」とあらかじめ予告してから始めます。

 私が迫真の(?)演技で日常生活に起こりそうなシーンを再現します。使うのは否定語と指示語ばかり。しかめっ面の怖い顔でヒステリックに叫びます。

「いつまで寝てるの!さっさと起きなさいよ!」
「ねえ、そんなことしてたらまた遅刻するよ、ぐずぐずしてないで早くしなさい!」
「何回おんなじことを言ったらできるようになるの!いい加減にして!」

講座は通常、オンラインで行います。こんな風に互いの顔を見ながら進めていきます

 演じた後に感想を聞くと、みなさんこうおっしゃるのです。

「やる気がなくなった」
「こんな親にどうせ何を言っても無駄」
「自分はダメな子なんだなと感じる」

 そして、こうも言います。

「いつもの私です!先生、どうして私がこう言ってるって分かったんですか?」
「今朝、ちょうど同じ言葉を言っちゃいました」

 このワークを通して気づきを得た親御さんたちは、子どもにかける言葉を考え、少しずつ変えていきます。そのことで、親子関係も変わってきます。

 大人は自分の感情に任せて、または不安から心配が先走って、ついついダメ出しをしたり先回りして指示したりしますが、子どもには子どもの意思があり、考えがあります。ゆっくり成長している脳の発達をしっかりと理解して、少しでも「以前との本人と比べてできるようになったこと」に目を向け、言葉にしていただきたいと思います。

 さて、そんな中高生ですが、子どもたちと話をしていると、最初は緊張してあまり話さない子たちも、双方向にやりとりをしていくと少しずつ緊張がほぐれ、話をしてくれるようになります。ポツリポツリと本音も話してくれます。

 例えば、両親の離婚で心が萎んでしまって、そこから学校に行く気力がなくなってしまったこと、家庭内の不和で心労が重なり眠れなくなってしまったこと、親の病気が心配で心が押し潰されそうになり、落ち着かなくなってしまったこと……。うつむき加減に不安そうな表情を浮かべながら、少しずつ言葉を選んで、自分でふたをしていた気持ちを伝えてくれるのです。

「頭が痛い」「お腹が痛い」という訴えが、こういうことに起因していることも、少なからずあります。「このことはお母さんに話したことあるの?」と聞くと、「自分のせいでますますお母さんに心配をかけてしまうから言わない」「学校に行っていないだけで迷惑かけているから、これ以上は迷惑をかけたくない」と言って本当の理由を話していない状況にある子も、ときどきいます。

こうして布団をかぶっている間も、子どもなりにいろいろ考えているんです photo iStock.com/liebre

 子どもは子どもなりに親のことを気遣い、特にお母さんには心配をかけたくないと思っているようで、自分だけでなんとか解決しようと抱えこんでいるんですね。母親としては、「どうしてうちの子は何も言わないのかしら」「なぜあの子は黙っているだけなのかしら」と思うかもしれませんが、子どもたちはちゃ〜んと考えているのです。

 言葉や態度でうまく伝えられるほど表現力が育っていないので、「だんまり」や「そっけない態度」で取り繕っていることもあるのだと思います。しかし、どの子も、間違いなくお母さんのことが大好きなんだなということはひしひしと伝わってきます。ここは、お父さんではないところがポイントです(笑)。

 子どもが不登校になったとき、最初は強い態度で接してしまうお父さんは多いと思います。でも、それがうまくいかないと、今度はどう接していいか分からず、腫れ物を触るように我が子を扱ってしまうケースも少なくありません。そうなってしまうと家の中のパワーバランスが崩れて、結果的に負担がお母さんにいってしまうことになります。

 これはこれで、また大変。そうならないためにも、お父さんは、例えばお子さんが男の子なら、男同士でアウトドア体験をして、家にいたらお母さんに止められそうな、ちょっとだけワイルドなことをしてみてはどうでしょう。一緒に何かを体験することで心がほぐれ、子どもの言葉が出やすくなります。試してみてください。

 女の子の場合は、お母さんとの関係性が崩れていなければ、二人でお出かけしてスイーツを食べに行くなどすると、そこで幸福感を味わいながら、ふと心のうちを話してくれるようになることがあります。あくまでも、相手が話してくれるまでゆっくり待つことが大事です。

 お母さんとの関係性が悪化している場合は、お父さんがちょっと外に連れ出してあげて、同じようにカフェや買い物にいくというのも手かと思います。場所が変われば気持ちが変わりますし、美味しいものを食べれば心がほぐれます。さまざまなご家庭を見ていて、お父さんとお母さんの役割分担がうまくできると、お子さんは変化していきます。

 親としては、特に母親は、お腹の中にいる時からわが子のことを常に考え、心配し、世話をしてきているので、子どものことは全部わかっていると思いがちですし、そう思いたいという気持ちもあるかもしれません。ですが、子どもたちは成長の過程でたくさんの人に出会い、いろんな影響を受けて、だんだんとその子なりの意思や価値観が生まれていきます。このことは、将来自立した大人になるためにとても大事なことなのです。

 子どもの考えていることがわからなくなると不安になる気持ちもわかりますし、コントロールしたい気持ちもわかります。でも、自転車に乗れるようになったとき、途中まで添えていた手を最後には離したように、子育ても次第に手を離していく必要があります。手を離しても、転んでも自分で起き上がれるようになるまでが、後方から「大丈夫、あなたならできるからね」と信じて見守っていけばいいんです。

 子どもの考えていることがわからなくなってきたら、その日を「記念日」に設定し、日記に成長の証を残すくらいの気持ちで、ゆったりと構えてみるのもいいのではないかと思います。

 あなたもそういう年齢になったのね。あなたの意思があるものね。今までみたいにママになんでも話すことは、この先は少なくなるかもしれないけれど、自分一人や友達に話して解決できない時はいつでも聞くからね。応援してるよ。

 こう伝えてあげると、子どもは安心します。そして、親という存在をいざとなった時の切り札として、お守りのようにして生活していけるようになるのです。心の安定感があると自己肯定感も上がっていきますから、親子関係も変わっていきます。

 次回は6月4日配信。不登校の原因が「無気力・不安」って本当なの?をテーマにお話し致します。