巨人・阿部慎之助監督

 巨人は今シーズン、まだまだ成長段階の若手が多く貧打に苦しんでいるがセ・リーグで首位争い(首位・阪神から2ゲーム差の3位)を演じている。粘ってしぶとく勝ち星を拾う戦い方には、かつて強打者を集め他球団を圧倒していた時の面影はない。阿部慎之助監督が新たに就任したチームは過渡期を迎えており、これからシーズンが中盤から後半戦に向かっていく中で、どんな野球を見せるのか注目が集まっている。(以下、文中の成績はすべて5月19日終了時点)

 今季のセ・リーグは5月28日から始まる交流戦が近づいているが、1位から6位までが5ゲーム差内にひしめく混戦が続いている。その中で評価が高まりつつあるのが阿部監督が就任1年目の巨人だ。

「キャンプ、オープン戦時から打てないことを想定して守備重視の戦い方にシフトしたようだ。得点力が上がっていかない状態で勝ちをもぎ取っていることは評価に値する」(巨人OB)

 巨人はここまでチーム打率.230(リーグ5位)、得点107(同5位)と打線の迫力不足は明白だ。一方でチーム防御率2.38(同3位)、失点109(同2位)、失策15(同2位)が表すように、「守り勝つ野球」が数字にも表れている。

「オープン戦から『今年はボールが飛ばない』と各球団から聞こえていた。その中で巨人は長打を捨て、少ない得点を守りぬく、いわゆるスモールボールを目指したのではないか」(在京球団スカウト)

 3月26日にはメジャー通算178本塁打の新外国人オドーアが開幕前に急遽退団するという出来事も起きた。本来なら打線の中軸を担うはずの選手がいなくなり、多少なりとも焦りもあるはずだが阿部監督は「残念っちゃ、残念」と語った一方で「若手には大きなチャンス。シーズン中も競いあってほしい」と前向きにもとらえている。その時点で今季の戦い方についてはある程度、覚悟もできていたのかもしれない。

「オドーアは期待されていたが今季の投高打低になっている状況で結果がどうなったかわからない。活躍できなかったことも想定していたから、退団しても慌てることがなかったのだろう」(在京球団編成担当者)

 また、シーズン中にメジャー帰りの筒香嘉智が巨人に入団することが濃厚との報道が出たが、結果的に古巣のDeNAに復帰。新戦力の補強については想定通り進んでいない部分があるが、現有戦力だけでの戦いで健闘している印象を受ける。

 そんな今シーズンの巨人で“やりくり上手な”部分が見えるのは1番打者の起用に見えるという。

「岡本和真のように長打を打てる選手もいるが、チームとしてはスモールベースボールに近い戦い方。1番打者を変えるのも状況に応じて、効率良く得点をあげるためだろう」(巨人担当記者)

 今季はここまで9人が1番打者として試合に出場している。ここ最近出場を増やしているベテラン丸佳浩を筆頭に、2年目の萩尾匡也と門脇誠、開幕戦でスタメンを勝ち取ったルーキーの佐々木俊輔、2022年のドラフト1位・浅野翔吾など若手が起用された試合も多い。その他にも、ベテランの長野久義、中堅のオコエ瑠偉、吉川尚輝、重信慎之介が1番打者として出場している。

 シーズン開幕当初にも「理想は固定したいんだけど、チームのやりたいことは日によって違いますし相手も違いますし、そこは日替わりでもいいかなと」と阿部監督は語っていたが、若手が多いメンバーを臨機応変に起用することが目立っている。

「昨年日本一の阪神も今年は攻撃面で苦労しており打順は流動的。本来なら主力をある程度固定して戦いたいところだが、現時点では最善の方法。阿部監督やコーチ陣は選手の調子を上手に見極めている」(巨人OB)

 今は苦しい中で投手陣を中心に何とか白星を増やしているが、5月10日には打線を強化すべく新外国人のエリエ・ヘルナンデス外野手を獲得。チームの救世主となることが期待されるが、新助っ人にはどんな役割が求められるのだろうか。

「ヘルナンデスは典型的な中距離打者でオドーアとはタイプが異なる。今後も補強は考えられるが、確実性を重視した戦い方を続けていることが感じ取れる」(在京球団編成担当)

 ヘルナンデスは昨季3Aでリーグ最多の165安打、36二塁打を放った好打者。1日でも早く戦力として活躍することが期待されるが、指揮官は「まずは下で調整させる。環境に慣れることをしてほしい」と一軍での起用を焦らないことを明言。若手を中心に今後も手堅く勝利を重ね、同時に育成していく方針のようだ。

「若手の萩尾、佐々木などは俊足好打で守備も上手。重信も同タイプで堅実な野球を行うことができる。打力は低いが捕手に小林誠司を起用するのも同様の理由だろう」(在京球団スカウト)

「監督1年目から『やりくり』ができている阿部監督には名監督の資質すら感じる。しばらくは苦しいかもしれないが、小手先の補強や選手起用に頼らず頑張ってほしい」(巨人OB)

 FA制度が導入されて以降、長年にわたり他球団の主力を獲るということでチーム強化を図っていた巨人。しかしチームは今、本当の意味で新たな道を歩み始めている。阿部監督にとって決して簡単な任務ではないが、出だしは悪くはないはずだ。勝利のみを求める周囲の雑音に惑わされず、未来に繋がるチーム作りをできるかに注目が集まる。