斎藤知事は「告発文書」を全否定している

「齋藤元彦兵庫県知事の違法行為について」という「告発文書」が、兵庫県を揺るがしている。

 県は3月27日、西播磨県民局長だったW氏(60)を同日付で解任したと発表した。そもそもW氏は31日付で退職予定だったが、退職を認めず、懲戒処分を検討する、という説明だった。
 解任の理由は、W氏が業務時間中に冒頭のタイトルの文書を作成し、斎藤元彦知事や県幹部を誹謗中傷し、流布した、というもの。文書は3月中旬から、一部の報道機関や県議、県警などに送付されていた。県もそれを把握して調査したところ、W氏の存在が浮上。本人に聞くと書いたことを認めたという。

 AERA dot.もこの文書を、W氏から直接ではないが入手した。文書は「令和6年3月12日」の日付で、7つの項目について、斎藤知事や県がからむ違法行為やパワハラなどがあると「告発」している。AERA dot.の取材にもW氏は、自らが書いた文書だと認めた。

 県の幹部職員の告発だけに、県職員の間では、
「あの『紙爆弾』を持ってないか」
 と大騒ぎになったという。

 斎藤知事は27日の定例会見でこの文書について問われ、

「事実無根の内容が多々含まれている。信用失墜、名誉毀損など法的な課題がすごくある。業務時間中に嘘八百含めて文書を流す行為は公務員としては失格」

 などと全否定。

「被害届や告訴なども含めて、法的手続きを進めているところ」

 といきなり「法的手続き」に触れ、警察の捜査や裁判も辞さないと強気に出た。

 しかし、これに対してW氏は4月1日、知事会見などに反論する新しい文書を報道機関に配布した。文書では、

〈私への事情聴取も内部告発の内容の調査も十分なされていない時点で、知事の記者会見で告発文書を「誹謗中傷」、「事実無根」と一方的に決めつけ〉
〈「嘘八百含めて」は意味不明ですが、「すべて事実無根」と聞き取れます。本当でしょうか〉

 などと知事の会見内容を批判。また、

〈本来なら公益通報制度を活用すればよかったのですが、自浄作用が期待できない今の兵庫県では当局内部にある機関は信用出来ません〉

 とも記載している。

 すると、4月2日の定例会見で、斎藤知事は、「(W氏は)事実無根とは認めていないが?」と問われて、

「弁護士の意見なども聞きながら、文章の内容などについて、しっかり調査を進めていきたい」

 と明らかにトーンダウンした答弁に終始した。

 では、W氏の「告発」内容に信ぴょう性はあるのか。

阪神・オリックスの優勝パレードのための寄付金の集め方の疑惑も「告発」された

 「告発文書」の中に、「優勝パレード」に関する項目がある。

 昨年のプロ野球で阪神タイガースとオリックスバファローズという関西の球団がともにリーグ優勝。11月23日には大阪と兵庫で優勝パレードが開催された。
 その資金は大阪府、兵庫県ともに公費を投じないとして、クラウドファンディングと企業協賛で5億円を目標に集められた。しかし、クラウドファンディングでは1億円程度しか集まらず、残りは協賛企業の協賛金で実現にこぎつけた。

 「告発文書」には、こう記されている。

〈信用金庫への県補助金を増額し、それを募金としてキックバックさせることで補った。幹事社はA信用金庫。その他、Bバスなどからも便宜供与の見返りとして寄附集めをした。パレードを担当した課長はこの一連の不正行為と大阪府との難しい調整で持たず、現在病気療養中〉(一部編集部で改変)

 AERA dot.はパレードの〈協賛企業一覧〉という資料を入手した。そこでは、A信用金庫、Bバスとも「シルバー」のランクでスポンサーに名を連ねている。

 ある県幹部は、「告発文書」を読んだと言い、こう話す。

「パレードの協賛企業は大阪府と兵庫県、それぞれが分担して集めた。大阪府の動きが早く、経済規模の違いもあって、兵庫県より先行してスポンサーを集めていた。斎藤知事から『大阪に負けるな』という趣旨の話があって、職員は必死で声をかけた。告発にあるキックバックの有無まではわからないが、兵庫県側は地元の金融機関、交通など、県と結びつきが強い協賛企業が多く名前を連ねたのは事実。パレードの担当職員が病気療養しているのも事実だ」

 「告発文書」の中には、「政治資金パーティ関係」と書かれた項目もある。

〈齋藤知事の政治資金パーティ実施に際して、県下の商工会議所、商工会に対して経営指導員の定数削減(県からの補助金カット)を仄(ほの)めかせて圧力をかけ、パー券を大量購入させた〉

 前出の県幹部は、「信ぴょう性はあると思う」と言う。

「商工会議所関係に、パーティーに出席せよという指示が出たのは本当。裏になにかないと、そんな指示は出ません。私は直接、『パーティーに出ないと補助金でいろいろあって』と聞きました」

 また、斎藤知事の「パワーハラスメント」については、ある県職員が、「有名な話です」と認める。

「エレベーターで行先の階のボタンを押し間違えて知事から10分ほど怒鳴られた、訪問先でエレベーターがすぐ来ず待たされて職員にブチ切れたとか、知事のパワハラのエピソードにはこと欠きません」

 兵庫県にこの証言について確認をすると、
「告発文書の内容については、斎藤知事が記者会見で述べたことがすべて」
というばかりだった。

 W氏は4日、県の公益通報制度を利用して、正式な内部通報をしたことを明らかにした。これからは弁護士など外部有識者も交えた「公益通報委員会」による調査が始まることにもなる。

 先の県幹部は、こう漏らす。

「具体性があり、信用性が高いと、告発が一つでも認められれば、斎藤知事は危ないのではないか。パレードの告発は『病気療養している担当職員が話せば大変なことになるのでは』と県庁で話題になっている」

 告発文書の内容について真偽を追及している丸尾牧県議は、こう話す。

「告発文書自体がネットでも流れており、斎藤知事も記者会見で触れている以上、説明責任がある。阪神とオリックスのパレードについて、どんな補助金が考えられるのかと県に聞いたが、返事をしてこない。斎藤知事が言うように『噓八百』なら、すぐに回答できるはず。今後は県議会で追及したい」

 W氏にメールで取材を申し込むと、
〈慎重に対応したい〉
 との回答だった。

(AERA dot.編集部 今西憲之)