大谷翔平選手(右)と水原一平氏

 ドジャース・大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏が、球団から解雇された。米メディアによると、水原氏はスポーツ賭博で借金がかさみ、大谷選手の銀行口座から少なくとも総額約450万ドル(約6億8000万円)もの資金をブックメーカーに送金した疑いをもたれている。大谷選手の代理人は「大規模な窃盗被害にあった」と主張していると報じられているが、水原氏が負う可能性のある刑事罰や損害賠償はどれほどのものなのか。ドジャースの本拠地があるカリフォルニア州の法律事務所に勤める木村ジョシュア弁護士に取材した。

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 木村弁護士が勤務しているのは、ロサンゼルス・オレンジカウンティエリアのKimura London & White 法律事務所。事務所近くには水原氏の父が働く居酒屋があり、自身はドジャースファンということで、水原氏をめぐる報道に大きな関心を寄せているという。

 木村弁護士によると、カリフォルニア州において、水原氏が関与したとされるスポーツ賭博は「100〜1000ドルの罰金もしくは郡刑務所での6カ月以内の収監」が課せられる軽犯罪にあたる。とはいえ、軽犯罪ゆえに「赤信号を渡るのは違法だけれどもまず捕まらないように、スポーツ賭博で刑事罰に問われる可能性は低い」と木村弁護士は言う。

水原一平氏

■「違法だとは知らなかった」の真実味

 アメリカでは、スポーツ賭博は50の州のうち38州で合法で、違法としている州は少数派だ。カリフォルニアはリベラルで進歩的な州として知られており、ブラックジャックなど他のギャンブルは認められている。なぜかスポーツ賭博は違法となっているが、そんなカリフォルニア州でさえも、「法律上は違法」なスポーツ賭博を気軽に楽しむムードがあるという。

「今、アメリカでは、『マーチ・マッドネス(3月の熱狂)』と呼ばれる、全米大学体育協会主催のバスケットボールトーナメントが開かれています。日本の甲子園のように国民が一体となって盛り上がるのですが、みんな当たり前のように、家族や友達同士でお金をかけて観戦しています。誰かが傷つくわけでも、健康に害があるわけでもないので、スポーツ賭博が悪いことという認識を持っている人はあまりいないですね」

 そういう意味では、水原氏が「このギャンブルが違法だと知らなかった」とコメントしていることについて、木村弁護士は「知らなかったはずがないとは言いきれない」と受け止めている。

 一方で水原氏には、「大谷選手から資金を盗んだのでは?」という疑惑もある。米スポーツ専門チャンネル・ESPNは、大谷選手の口座から少なくとも約450万ドル(約6億8000万円)の資金がブックメーカーに流出していたことについて、「ギャンブルで多額の借金を抱えた水原氏が、大谷選手に借金の返済を依頼した」と報じているが、大谷選手の代理人は「翔平が大規模な窃盗の被害に遭っていることが判明した」という声明を出している。

エンゼルス時代の大谷選手と水原一平氏

■大谷が訴えたら賠償額は「30億円」?

 木村弁護士によると、もし水原氏が、大谷選手の知らないうちに、あるいは同意を得ずに送金していた場合、横領や窃盗の罪に問われることも考えられるという。

「検察は一般的に、被害者が当局に協力的な事件を起訴します。大谷選手の弁護士は『この問題を当局に引き渡す』と話している。これは大谷選手側が当局に協力することを意味しているので、水原氏が起訴されて刑事罰を受ける可能性はあるでしょう。横領罪の場合、カリフォルニア州法では最長で3年の収監が命じられますが、初犯ということもあり、そこまで重い罰にはならないと思います」

 しかし、詐欺や横領など刑事上の罪だけでなく、民事上でも損害賠償を求められる可能性がある。

 もし大谷選手が水原氏を訴えた場合、その請求金額は、盗まれた金額の弁済、盗まれた合計金額の3倍の賠償金、数千万円単位の弁護士費用など、総額30億円ほどに膨れ上がることも考えられる。だが、ギャンブルに資金をつぎこんだ水原氏に支払い能力があるとは思えず、「大谷選手側が提訴に踏み切る可能性は低いだろう」と木村弁護士はみている。

 今回の水原氏の報道を受け、アメリカ国内では、大谷選手にまで疑惑の目を向ける人がいるという。

「SNSでは、『大谷は一平がしたことを知っていたのに隠していたのでは?』といったコメントも目にします。大谷選手は、仕事上のパートナーであり大親友を失っただけでなく、自分自身のイメージにも傷がついてしまった。本当にかわいそうだと思います」(木村弁護士)

 大谷選手がこの逆境をどう乗り越えるのか、世界が注目している。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)