エンジン編集部の長期リポート車だったメルセデス・ベンツ300TE(1992)の44号車は今どうしているのか? 1年ぶりに会いに行ってきた!! やっぱり永久自動車だ!
引退後は主治医のもとへ
待ち合わせの場所に見慣れたクルマが入ってきた。「ちょっと古いメルセデス・ベンツは永久自動車か?」を検証するために、2008年9月から『エンジン』で長期リポートをしていた1992年型メルセデス・ベンツ300TE(エンジン長期リポート第44号車)である。
「こんなに綺麗でしたっけ?」と茂呂カメラマンが驚いている。確かに32年前のクルマとは思えないというか、私が乗っていたときよりシャンとしている気がする。
44号車の最終リポートは、2023年1月29日に開催された「引退記念走行会イベント」報告である(2023年4月号)。そのときの走行距離は32万4180km。あれからちょうど1年。元44号車のいまを知りたくて、いまもメインテナンスを手掛けている「アロハモータース」の代表、小野里 茂さんに乗ってきてもらったのだ。
実は元44号車は『エンジン』での役目を終えると、主治医だったアロハモータースに引き取られた。
「うちに来たのは2023年2月末です。私が仕事やプライベートで使うほか、当社に車検やトラブルで愛車を預けた方の代車としても使っていただきました。あらためて乗って思ったのは、乗り心地が素晴らしいことです。30万kmを超えてるのに、シートのへたりもありません。やはり、いいクルマだなと感心しました」と、小野里さんは笑顔で話す。
しかし、アロハモータースへ引き取られてから3カ月後、トラブルが発生したそうだ。
「妻が乗っているときに、なんか白い煙を出しているクルマがいるなあと思ったら自分のクルマだったという事件があったんです。原因はトランスミッションの不具合。結局、身動きが出来なくなりました。当社の工場でトランスミッションを降ろし、オーバーホールを行いました」
編集部の元を離れていった理由もトランスミッションの不調だったので、とうとう悲鳴をあげたのだろう。
「それ以外は大きなトラブルはありません。124型メルセデス・ベンツのオーナーに代車としてお渡しすると、“おお! 44号車に乗れるんですね!”と喜ばれることもありました。また“30万kmを超えてもこんなにシャキッとしているんですね、僕もこれを目指します!”という方もいらっしゃいました」
自分が乗っているときより綺麗になったような気がすると言うと、
「実は代車としてお貸ししたときにフロント・バンパーをぶつけた方がいまして、バンパー周りを交換しました。すると自分でもびっくりするぐらい印象がよくなって(笑)」と、小野里さんがその理由を教えてくれた。エンジン・マウント、トランスミッション・マウントなども交換したというから、さらにシャキッとした印象を与えているのだろう。
いまは新オーナーのもとで
さて、そんな元44号車であるが、2023年12月にアロハモータースから新しいオーナーの元へ巣立っていったのだという。
「お父様の代からずっとウチでクルマをお世話させていただいている方です。その方のBMW3シリーズ・ワゴン(E90)を車検でお預かりし、代車として元44号車を1カ月ほどお貸ししたんです。ところが、BMW3シリーズ・ワゴンの車検整備が金額的にも時間的にもかなり厳しい状況となり、代車として使っていた元44号車をそのまま購入していただくことになりました」
新オーナーは佐々木 剛さん。カメラマンの方だという。新オーナーに電話で第一印象を聞いた。
「浅井慎平さんのアシスタントとして社会人デビューをしたのですが、当時師匠である浅井慎平さんが124型のワゴンに乗っていたんです。まずは懐かしかったですね(笑)」
佐々木さんは124型メルセデス・ベンツ・ステーションワゴンのデザインが好きなのだそうだ。
「カッコイイですよ。高級感もありますしね」
実用車として仕事でもプライベートでもガンガン使っているそうだ。
「仕事でクライアントを乗せると、こんなクラシックカーに乗っているんだと面白がられることが多いです。プライベートでは家族でキャンプに行くんですけど、荷物はたくさん積めるし、小回りはきくし、おまけに乗り心地がいいから最高です。家族や仕事関係の人たちにこんなに評判がいいとは、僕も驚いています」
33万km弱という走行距離に不安がないとは言えないが、乗り続けたいと思っているそうだ。
乗り継がれていくのはいいクルマの証である。元44号車はやっぱり「永久自動車」なのだ。
文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=茂呂幸正
(ENGINE2024年5月号)