原則65歳から受給開始となる年金の受け取りを遅らせる繰下げ受給。繰り下げることでもらえる年金額が増加しますが、受給開始前に夫が亡くなってしまった場合、支払った保険料は「無駄」になってしまうのでしょうか。   繰下げ受給待機中に夫が亡くなった場合、どのような扱いがなされるかについて解説します。

未支給年金を受け取ることができる

年金の繰下げ待機期間中だった場合、65歳から亡くなるまでに受け取るはずだった年金を未支給年金として一括で受け取ることができます。ただし、65歳時点の年金額で算定され、繰下げ受給による増加分は加味されません。
 
また、受け取るには遺族からの請求が必要なことと、請求した時点から5年以上前の年金は時効により受け取ることができない点に注意してください。
 

遺族年金という制度がある

年金を受け取る予定の人が亡くなった場合に、のこされた家族が一定の要件を満たしていれば「遺族年金」を受けられる制度があります。
 
夫が社会保険料を滞納せずに支払っていたのであれば、支払った保険料が無駄にならない可能性が高いです。遺族年金について、解説していきます。
 

遺族年金とは

遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、亡くなった人の年金保険の加入状況やのこされた家族の状況に応じて、いずれかまたは両方が支給されます。
 

遺族基礎年金について

遺族基礎年金は、亡くなった人が国民年金保険の加入者である場合に支払われます。
 
日本に住んでいる20歳以上60歳未満の全ての人は国民年金保険に加入することになっているため、死亡日の前日において免除期間を含む保険料納付済み期間が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。2026年3月末までは、65歳未満なら死亡日が含まれる月の前々日までの直近1年間に保険料の未納がなければ、受給要件を満たします。
 
ただし、遺族基礎年金を受給できるのは、一定の要件に当てはまる遺族に限られます。また老齢基礎年金の受給額は固定となります。
 

遺族基礎年金を受給できる対象者

遺族基礎年金を受給できるのは、子のある配偶者か、子に限られます。
 
ここでいう子とは、18歳になった年度の3月31日までにある人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人を指します。
 

遺族基礎年金を受け取るには

遺族基礎年金を受け取るには、年金請求書および必要な添付書類を用意し、住所地の市区町村役場の窓口に提出します。ただし、死亡日が国民年金第3号被保険者期間中だった場合は、年金事務所または街角の年金相談センターに提出する必要があります。
 

遺族厚生年金について

遺族厚生年金は、亡くなった人が厚生年金保険の被保険者だった場合に遺族が受け取ることができる年金です。亡くなった人が会社員や公務員だった場合は、厚生年金保険に加入しています。
 
受給する遺族厚生年金の額は、死亡した人の厚生年金の報酬比例部分の4分の3になります。
 

遺族厚生年金を受給できる対象者

遺族厚生年金を受給できるのは、遺族基礎年金と同様の場合に加え、子のない配偶者や父母、孫や祖父母も受け取ることができます。
 
受給要件の範囲が広いため、遺族基礎年金は受け取れなくても遺族厚生年金はもらえるという場合がありますので、遺族基礎年金とは別に受給要件を満たしているか確認する必要があります。
 

遺族厚生年金を受け取るには

遺族基礎年金と同様、受給するためには年金請求書や必要な添付書類などを提出する必要があります。
 

まとめ

夫が年金の受給前に亡くなった場合でも、保険料を適切に払っているのであれば未支給分や遺族年金をもらえるため、支払った保険料の全額が無駄になるわけではありません。
 
ただし、70歳から年金を受け取り予定だった繰下げ受給分は遺族年金には反映されないため、繰下げ受給分は残念ながら無駄になってしまいます。
 

出典

日本年金機構 遺族年金
日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
 
執筆者:沢渡こーじ
公認会計士