年金だけでは収入に不安があり、老後も働くことを検討している人は多いでしょう。しかし、給与収入が多いと年金がカットされることを知り、しっかり働かないほうが得なのだろうかと悩む人もいるのではないでしょうか。   そこで本記事では、60代以降も働く人が理解しておきたい在職老齢年金制度の仕組みを分かりやすく解説します。

給与収入に応じて老齢厚生年金が支給停止になる「在職老齢年金制度」とは

60代で老齢厚生年金を受給している人が、再就職などで厚生年金保険に加入して働く場合、収入額に応じて年金の一部または全部が支給停止されることがあります。これを、「在職老齢年金」といいます。
 
また、平成19年4月以降に70歳に達した人が厚生年金適用事業所に勤務する場合も、厚生年金保険の被保険者ではないものの、同制度が適用されます。
 

在職老齢年金制度で年金が支給停止になるのは収入がいくら以上のとき?

在職老齢年金で年金が支給停止になるのは、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額(加給年金額を除いた年金額)の合計が50万円を超えた場合です(令和6年度の支給停止調整額)。総報酬月額相当額とは、「当該月の標準報酬月額+当該月以前1年間の標準賞与額÷12」で求めた金額です。
 
例えば、老齢厚生年金の基本月額が10万円の人の場合、その月の標準報酬月額と、その月以前1年間のボーナスの12分の1の金額を合計して40万円以内であれば、年金を全額受給できます。40万円を超える月があれば、その月の年金額がカットされる仕組みです。
 

在職老齢年金制度で年金が支給停止になっても働き損にはならない

「働いて収入を増やそうとしたのに、年金が減らされてしまうのでは働き損になるのでは?」と感じる人は多いでしょう。しかし、年金が一時的に減らされたとしても、トータルで見れば決して働き損ではありません。大きな理由は、次の2つです。


・支給停止になる年金額はボーダーラインを超えた部分の半分だけである
・厚生年金の加入期間が延びることで受け取れる年金額が増える

以下で、それぞれについてもう少し詳しく説明します。
 

支給停止になる年金額はボーダーラインを超えた部分の半分だけ

給与収入額と年金額の合計が、在職老齢年金のボーダーラインである50万円を超えた場合、50万円を超えた金額がすべて支給停止になるのではありません。年金の支給停止額は、次の式で算出されます。
 
在職老齢年金の支給停止額=(老齢厚生年金の基本月額+総報酬月額相当額−50万円)÷2
 
分かりやすくいうと、老齢厚生年金の基本月額+総報酬月額相当額と50万円との差額のうち、2分の1だけが年金の支給額から差し引かれることとなります。例えば、老齢厚生年金が16万円の人が総報酬月額相当額34万円で働いている場合、両者の合計は50万円です。
 
総報酬月額相当額が40万円に増えた場合(老齢厚生年金16万円+総報酬月額相当額40万−50万円)÷2=3万円が年金から差し引かれ、3万円の増収となります。ボーダーライン以上働いても、収入が全く増えなくなるのであれば働き損ですが、ボーダーラインを超えても収入はきちんと増える制度設計がされているのです。
 

厚生年金の加入期間が延びることで年金額が増える

60代以降も継続して厚生年金に加入することで、年金額の計算の基礎となる被保険者期間が増え、受け取れる年金額が増加することは大きなメリットです。増えた被保険者期間は、毎年9月に1年分が集計され、10月分から年金額に反映されます。この仕組みを「在職時定時改定」といいます。
 
例えば、65歳まで月給20万円で働いていた人が、同じ条件で65歳から70歳まで厚生年金に加入した場合、年金額は毎年約1万3000円(年額)ずつ増加する計算です。長く勤めるほど、退職後に受け取れる年金額も多くなるため、老後の生活資金を底上げする効果が期待できるでしょう。
 

在職老齢年金制度の仕組みを知って老後の働き方を考えよう

在職老齢年金制度は、働いて収入を得た人から年金を取り上げる、損ばかりの制度だというイメージを持つ人は多いでしょう。しかし、増えた収入がすべて年金の支給停止で相殺されるのではなく、厚生年金に加入して働くことで年金額が増やせるというメリットもあります。
 
もちろん、働き方をおさえて年金はきっちり全額受給したいという考え方もあるでしょう。制度の仕組みを理解したうえで、自分に合った働き方を模索することが大切です。
 

出典

日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
日本年金機構 働きながら年金を受給する方へ
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー