「自分は独身で生活費も多くかからないし、60歳で退職してのんびり暮らしたい」   独身の人の中には、贅沢しなくてもいいので、老後はあまり働かず、できればゆっくり過ごしたいと考える人もいるのではないでしょうか。   本記事では、年収400万円の独身の人を例に挙げて、60歳以降完全にリタイアして生活するには、退職金と貯金がどれくらいあればいいのかをシミュレーションします。   あわせて、貯蓄や年金以外の、現役時代から早めに取り組んでおきたい老後資金確保の対策についても説明しますので、ぜひ参考にしてください。

60歳以降の単身世帯で必要な老後資金は?

総務省統計局が公表している2023年の家計調査年報をもとに、60歳以降の単身世帯で必要となる生活費を試算してみましょう。家計調査年報によると、単身世帯(平均年齢58.2歳)の消費支出は月平均16万7620円です。これを60歳から65歳までに必要な生活費と仮定します。
 
次に、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月平均14万5430円 です。これを65歳以降に必要な生活費と仮定します。加えて、男性より長い女性の平均寿命が87歳 であることから、今後平均寿命がさらに延びることも想定し、存命期間を90歳までと仮定します。
 
この前提に立てば、60歳から90歳までに必要な生活費は以下のとおりです。


・60歳から65歳までの5年間の生活費 16万7620円×12ヶ月×5年間=1005万7200円
・65歳から90歳までの25年間の生活費 14万5430円×12ヶ月×25年間=4362万9000円
・60歳から90歳までの30年間の生活費合計 1005万7200円+4362万9000円=5368万6200円

あまり贅沢をせず平均的な暮らしをしたとしても、生活費だけで5000万円を超える金額が必要です。これに税金や社会保険料の支払い 、介護費用などの備えもしたいと考えれば、6000万円程度の金額は必要となるでしょう。
 

90歳までの年金受給額は?

次に老後の収入源である年金受給額を計算してみましょう。20歳から60歳までの40年間会社員として働き、年収400万円で報酬月額約33万円、受給開始は65歳と想定すれば、年金受給額は以下の金額となります。


・老齢基礎年金 年81万6000円(令和6年度満額)
・厚生年金報酬比例部分 33万円×5.481÷1000×480ヶ月=約86万8000円
・年金額合計 81万6000円+86万8000円=168万4000円

これを65歳から90歳までの25年間受給すると考えれば、受給額の総計は168万4000円×25年=4210万円となり、必要な老後資金との差額は「6000万円−4210万円=1790万円」です。
 
つまり、60歳時点で住宅ローンなどの債務がなく、退職金が1000万円あったとしても、それ以外の貯蓄なども800万円程度は必要となります。
 

老後資金対策は年金以外のものも活用しよう

ここまでの試算より、単身者であっても年収400万円を前提とした年金だけでは、必要な老後資金をまかなうことは難しいと考えられます。
 
また、実際に何歳まで存命するかは誰にもわかりませんし、持ち家か賃貸かなど個人の資産状況次第で必要な老後資金は大きく変わるでしょう。さらに今後年金が目減りしたり、物価高が加速したりするといったリスク要素も無視できません。
 
一方で、60歳の退職時に退職金を含めて2000万円近い資金を確保できれば、平均的な生活水準で暮らしていくことは可能といえそうです。また、iDeCoなどの個人年金、新NISAを活用した資産形成など、国が用意している対策を利用することで、老後の不安を小さくできるでしょう。
 
とくにiDeCoやNISAの活用に関しては、時間を味方にした長期の運用で効果が大きくなるため、早期に取りかかることが重要です。他にも、60歳以降も働くことを検討したり、年金の繰下げ受給をしたりすることなども長生きリスクの回避につながります。このように複数の対策を組み合わせて、老後の備えを考えることが大切です。
 

まとめ

住宅ローンなどの債務がなく、退職金と貯蓄である程度まとまった備えができる単身者であれば、60歳以降働かず年金だけで老後に必要な生活費をまかなうのは不可能ではありません。
 
しかし、ローンのない住居の確保ができているかどうかなど個人の資産状況や、思い描く老後の生活レベル次第で必要な老後資金は大きく変わります。
 
まずは、老後にどのような生活を送りたいのかを考え、どれぐらいの備えや生活費が必要なのか把握した上で、早めに老後資金の対策を実践してみてはいかがでしょうか。
 

出典

総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)2023年(令和5年)家計の概要
 
執筆者:松尾知真
FP2級