■要約



アイル<3854>は、中堅・中小企業の経営力アップを支援するトータルシステムソリューション企業である。ITによる「リアル」と「Web」の融合でDX※1を支援する「CROSS-OVERシナジー」戦略をベースとして、DXによる効率化支援にとどまらず、日々複雑化するバックヤード※2業務を変革する業界初※3の「BX※4」という新しい概念による価値創造支援の実現を目指している。



※1 デジタルトランスフォーメーションの略。「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念であり、従来のビジネスモデルやビジネス手段といったものをデジタル技術によって変革し、新たな価値を創造すること。

※2 企業やネットショップ、実店舗のバックサイドで、受発注処理、問い合わせ対応、入出庫作業、商品登録、在庫管理などを行っている人、チーム、場所のこと。

※3 同社調べ

※4 バックサイドトランスフォーメーションの略。同社独自の「CROSS-OVERシナジー」戦略によって、バックサイドから変革を起こすことで価値創造を実現するという概念。





1. 生産性向上が売上総利益率上昇につながる好循環スパイラルを形成

同社は、基幹業務管理システム「アラジンオフィス」シリーズを主力とするシステムソリューション事業、クラウド型でサービス提供する複数ECサイト一元管理ソフト「CROSS MALL」及び実店舗とECの顧客・ポイント一元管理ソフト「CROSS POINT」を主力とするWebソリューション事業を展開している。なお「CROSS MALL」の次世代サービスとして2022年12月にリリースしたバックヤードプラットフォーム「BACKYARD(TM)」は2023年11月より提供を開始した。同社は収益性向上に向けて、製販一体体制による生産性向上及びストック売上拡大を推進している。受注段階での営業と開発の連携強化によってカスタマイズ工数削減やトラブル未然防止に取り組み、総合的な品質・生産性向上によって売上総利益率上昇につなげるという好循環スパイラルを形成する戦略だ。その成果として売上高は拡大基調、売上総利益率は上昇基調となっている。



2. 2024年7月期第2四半期は増収増益、中間配当及び配当性向・DOE を上方修正

2024年7月期第2四半期の連結業績は、売上高が前年同期比12.9%増の8,571百万円、営業利益が34.9%増の2,238百万円、経常利益が34.5%増の2,249百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益が34.8%増の1,489百万円だった。期初予想を上回る大幅増収増益で過去最高となり、なお2024年7月期の中間配当を上方修正した。人手不足が顕著な中堅・中小企業におけるDX需要が高水準に推移したことに加え、製販一体体制やパートナー戦略の推進などでシステムソリューション事業の高成長が継続し、Webソリューション事業も順調だった。売上総利益率は2.1ポイント上昇して56.6%となった。ストック売上高の伸長に加え、製品品質の向上やオプションの充実によってプロジェクト回転率が向上したことなども寄与した。販管費は5.6%増加したが、販管費率は2.1ポイント低下して30.5%となった。人件費や広告宣伝費などが増加したが、テレワーク・在宅勤務体制によりオフィス家賃の増加が抑制されていることも寄与して、販管費の増加率は増収率を大幅に下回った。この結果、営業利益率は4.2ポイント上昇して26.1%となった。また、配当方針についても配当性向35%以上、DOE10%以上と目標を引き上げている。



3. 2024年7月期通期の営業・経常2ケタ増益予想を据え置き、さらに上振れの可能性

2024年7月期通期の連結業績予想は期初計画を据え置いて、売上高が2023年7月期比6.1%増の16,900百万円、営業利益が12.8%増の4,000百万円、経常利益が12.8%増の4,026百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が8.5%増の2,683百万円としている。2025年予定のWindows10サポート終了関連は特需ほどのインパクトはないが、業績DXの需要は高水準に推移と想定している。売上面ではシステムソリューション事業、Webソリューション事業とも成長を見込んでいる。利益面では積極的な人材投資や開発・販促投資を継続するため販管費が増加するが、生産性向上やストック売上総利益の拡大などで吸収する見込みだ。なお増益率は前期に比べて鈍化する見込みとしているが、これは前期の大幅伸長の反動や不透明感、さらに「CROSS MALL」と「BACKYARD(TM)」の両基盤の並行稼働による一時的なコスト増加などを考慮したためであり、保守的な印象が強い。事業環境が良好であること、上期の進捗率が売上高50.7%、営業利益56.0%、経常利益55.9%、親会社株主に帰属する当期純利益55.5%と順調であること、製販一体体制を中心とする利益向上施策の成果が加速していることなどを勘案すれば、会社予想は上振れの可能性が高いと弊社では考えている。



4. 長期的に営業利益率30%台を目指す

同社は中期経営計画について、急激な事業環境の変化などに応じて随時計画を見直すローリングプランを採用している。この方針に基づいて2023年9月に2026年7月期を最終年度とする3ヶ年計画を策定し、2026年7月期の計画を売上高20,400百万円、売上総利益11,728百万円、売上総利益率57.5%、営業利益5,400百万円、営業利益率26.5%、親会社株主に帰属する当期純利益3,616百万円としている。前回の3ヶ年計画に対して売上高、利益とも上方修正した。さらに、長期的な目標として営業利益率30%を掲げ、営業利益率20%超を盤石にするための足固めの3ヶ年と位置付けた。基本方針としては国策としてのDX推進を追い風に、システムソリューション事業、Webソリューション事業とも2ケタ成長を社内目標に設定している。コスト面では積極的な人材採用を継続するが、ストック売上拡大や製版一体体制によるさらなる生産性向上などで吸収して利益率上昇を目指す。なお、CROSS事業の「CROSS MALL」から「BACKYARD(TM)」への移行については、おおむね2〜3年の期間を要する見込みとしている。



5. 利益率の上昇基調を高く評価、「BX」による成長加速にも注目

同社の売上総利益率は2019年7月期の42.0%から2023年7月期の54.5%まで12.5ポイント上昇し、さらに2024年7月期上期には56.6%まで上昇した。また営業利益率は同様に9.0%から22.3%まで13.3ポイント上昇し、2024年7月期上期には26.1%まで上昇した。そして、現在の中期経営計画で掲げている2026年7月期の売上総利益率57.5%、営業利益率26.5%という目標の前倒し達成が視野に入っている。この利益率上昇基調の要因は、積極的な人材投資を継続しながらも、同社が継続的に推進している製販一体体制による総合的な品質・生産性向上、さらにストック売上拡大という基本戦略の成果であり、この点を弊社では高く評価している。また同社は長期的な目標として営業利益率30%台を掲げ、「BX」による価値創造の実現など新たな領域にも挑戦している。したがって弊社では3ヶ年計画の進捗状況に加え、「BX」による成長加速の動向にも注目したいと考えている。



■Key Points

・「CROSS-OVERシナジー」戦略で顧客の経営力アップを支援するトータルシステムソリューション企業

・2024年7月期第2四半期は計画を上回る大幅増収増益で過去最高、中間配当を上方修正

・2024年7月期通期の2ケタ営業・経常増益予想を据え置き、さらに上振れの可能性

・長期的に営業利益率30%台を目指す

・利益率の上昇基調を高く評価、「BX」による成長加速にも注目



(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)