PSG撃破でCL決勝進出のドルトムント、無双アタッカーの存在を逆手に取った対策

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)のベスト8は顔ぶれがおよそ決まっている。近年だとマンチェスター・シティ、リバプール、レアル・マドリード、FCバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、パリ・サンジェルマン(PSG)あたりが常連だが、予想外のダークホースも1チームは8強に残ることが多い。

 今季はボルシア・ドルトムントがそうだった。

 ベスト8の中での下馬評は低く、やや格下感が否めなかったのだが、準々決勝でアトレティコ・マドリードを撃破。さらに準決勝でもPSGを破って決勝進出を果たした。

 もっともグループリーグではPSG、ACミラン、ニューカッスルを制して1位突破している。昨季は最後の最後でブンデスリーガ優勝を逃していて、バイエルンに匹敵する力があったわけだからフロックというわけではない。

 PSGのホームで行われた第2戦では、ウォーレン・ザイール=エメリ、ヌーノ・メンデス、キリアン・ムバッペ、ヴィティーニャのシュートがポストやバーに当たるなど、相手が決定機を外し続けてくれた幸運はあった。ただ、ドルトムントの守備も堅かったのだ。結局のところ、ドルトムントは大観衆の後押しを受けてホームの第1戦を1-0、そして第2戦も1-0と無失点で勝ち上がっている。

 第2戦はマッツ・フンメルスがコーナーキックからのヘディングシュートで先制したあと、5バックで専守防衛に徹していたとはいえ、落ち着いた守備だった。どこを捨ててどこを守るか、優先順位がはっきりしていた。かつて、イタリアのチームのお家芸だった堅守だが、ドイツ勢も本気で守るとイタリアに負けない堅さがあったものだ。今回のドルトムントの守備は、マティアス・ザマーを擁して優勝した1996-97シーズンを思い起こさせた。

 ドルトムントにスーパースターはいない。PSGにはムバッペがいた。

 無双のアタッカーを持つPSGが優位と考えるのが普通だが、ドルトムントはそれを逆手に取っている。右サイドバック(SB)のユリアン・リエルソンが頻繁に前方へ進出。対面のムバッペが下がってこないことを利用していた。サイドチェンジのパスがリエルソンへ渡ると、ドルトムントのリエルソンとジェイドン・サンチョの2人に対して、PSGの左SBヌーノ・メンデスが1人で対応しなければならない。このルートを使えば、安定的に相手陣内へボールを運ぶことができた。

イビチャ・オシム監督が語っていた言葉「ロナウジーニョを抑えるには…」

 もう20年も前になるが、イビチャ・オシム監督(旧ユーゴスラビア代表、ジェフユナイテッド市原・千葉、日本代表などで指揮)がこう話していたのを覚えている。

「ロナウジーニョを抑えるためには、マークしないという方法もある」

 当時のスーパースター、ロナウジーニョは対戦相手にとって大きな脅威だった。マークして抑え込むのは容易ではない。オシム監督の案は、マークするのではなくマークさせればいいということ。ロナウジーニョを放置してDFが攻撃すれば、ロナウジーニョを下がらせることができる。ゴールから遠ざけられる。下がってこなければ1人の数的優位を手に入れられる。どちらにしても悪くない。ドルトムントがやったのはまさにこれだった。

 ムバッペにはいくつかの決定機を作られたが、プラスマイナスではややプラスだったかもしれない。

 思えば、ドルトムントがユベントスを破って優勝した時もジネディーヌ・ジダン対策が周到だった。この時はジダンのいるサイドを試合から切り離して、ジダンに極力ボールが回らないようにしていた。ドルトムントはゴールキックのほぼすべてをジダンのいない左サイドへ回していた。

 無双のアタッカーはゴールから遠ざけ、稀代のプレーメーカーにはボールを与えない。スーパースター対策の意外な定石である。

FOOTBALL ZONE編集部