●「クビを切られてもおかしくない」開幕3連敗

 明治安田Jリーグ第4節、柏レイソル対名古屋グランパスが16日に三協フロンテア柏スタジアムで行われた。開幕3連敗、しかも無得点と厳しいスタートを切った名古屋は、永井謙佑とハ・チャンレの得点で2-0と柏を突き放し、待望の今季初勝利を挙げた。そもそもなぜ、名古屋はここまで苦しんだのか。選手たちが語る現在地とは。(取材・文:元川悦子)

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 2022年の長谷川健太監督就任後、1年目・8位、2年目・6位と少しずつ順位を上げてきた名古屋グランパス。3年目の2024年は中谷進之介(現ガンバ大阪)、藤井陽也(現コルトレイク)という守備のキーマンが抜けた不安はあったものの、山岸祐也、中山亮輔、パトリックら他クラブで実績を積み重ねた面々を補強。悲願のJ1タイトル獲得を目指し、力強く新シーズン入りしたはずだった。

 ところが、2月23日の開幕・鹿島アントラーズ戦で0-3というショッキングな大敗を喫すると、続くFC町田ゼルビア、アルビレックス新潟戦をそれぞれ0-1で敗戦。3戦終了時点で勝ち点0の最下位というまさかの展開を余儀なくされた。総得点0・総失点5と内容的にも最悪。「3試合無失点で3連敗というのはクビを切られてもおかしくない結果」と指揮官自身も事態を深刻に受け止め、3月16日の第4節・柏レイソル戦を迎えることになった。

 相手の柏は昨季王者・ヴィッセル神戸を撃破するなどここまで好調。U-23日本代表のエース・細谷真大とJ1屈指の助っ人外国人MFマテウス・サヴィオを擁している。名古屋としては彼らを止めるところからスタートしなければならない。長谷川監督は序盤3試合でアンカーを配した3-1-4-2の形を採っていたが、今回は3-4-2-1の布陣に変更。米本拓司と稲垣祥というデュエルに強い2人をボランチに並べて守備の安定化を図った。

 この変更が奏功し、名古屋は立ち上がりから柏に攻め込まれながらも確実に跳ね返す戦いを見せた。そして18分、森島司のFKを188センチの新加入DFハ・チャンレが頭で落とし、俊足・永井謙佑が一瞬の裏抜けからゴールをゲット。待望の今季初得点を手に入れた。

 その後、柏がギアを上げてきて、36分にはマテウス・サヴィオから絶妙のクロスを受けたU-23日本代表右サイドバック・関根大輝が右足を一閃。39分にはリスタートから犬飼智也がフリーでヘディングシュートを放ったが、2つの決定機はどちらも左ポストに阻まれた。これが入っていたら試合の行方は違ったものになっていただろうが、名古屋はラッキーな形で前半を折り返すことができた。

●とにかく内容より結果

「今日は本当にサッカーの本質というか、球際の部分で戦って、五分のボールでこっちのものにしたり、みんなで声出し合いながら、助け合いながらっていうのを意識したんで、その頑張りがポスト2回につながったと思います」と米本も倍以上のシュートを打たれながら耐えた前半の奮闘を前向きに評していた。

 名古屋の「勝利に徹する戦い方」はその後も続いた。後半立ち上がりに久保藤次郎に代えて野上結貴を投入した彼らはより強固な守備組織を形成。その一方で、右ウイングバックに上がった内田宅哉と右DFの野上が機を見て高い位置を取るなど、攻めの活性化も図った。

 もう一段階ギアを上げたのが、58分に投入された山中だ。和泉竜司が足を痛めて交代が早まったのは確かだが、多彩なキックを蹴り分けられる背番号66がいるだけでリスタートの威力が増す。実際、4分後には彼の左CKから永井、三國ケネディエブスを経て、最終的にはハ・チャンレが右足でゴール。2つのリスタートで2-0にし、勝利を決定づけたのである。

「内容的にはまだまだという部分はあるが、今日は勝たなきゃいけない、ゴールを取らなきゃいけない試合だった」と今季初勝利を挙げた長谷川監督は安堵感を浮かべたが、「とにかく内容より結果」という指揮官の姿勢が色濃く感じられた90分間だったと言っていい。

 そもそも名古屋はなぜここまで苦しんだのか…。その問いに中盤の要・稲垣はこう答えていた。

●「この位置にいてはいけない」

「もちろん昨シーズンから選手が入れ替わったのが1つ。それを踏まえて、キャンプで積み上げてきた時にケガ人が出て、開幕戦でメンバー含めて、戦いが変わってしまった。そうなると、やれることも限られるし、それまでやれていたこともできなくなる。悪循環に陥っていたと思います」

 彼が言わんとしているところは、まず中谷、藤井、丸山祐市(現川崎フロンターレ)の主軸DF移籍による守備の変化だ。J1屈指の安定感を誇っていたディフェンス陣がいなくなれば、再構築は容易ではない。DF陣は攻撃の起点でもあるため、攻めのリズムも変わってしまったのだ。

 クラブはハ・チャンレ、三國、井上詩音を補強し、ハ・チャンレを中心に新たな組織を構築していたが、新大黒柱が鹿島アントラーズ戦を欠場。いきなり歯車が狂ってしまった。ハ・チャンレは町田戦から復帰したものの、今度は米本をアンカーに置いた形がうまく機能せず、守から攻への鋭さをウリにする町田に屈した。新潟にも連敗したのを受け、長谷川監督も柏戦で中盤を再構成し、森島と山岸をシャドーに配置。永井を1トップに据えて、柏のハイラインの背後を突くことを徹底した。

「ヨネ君と僕のダブルボランチでこのシステムをやったらこのくらいできるというのは自分たちも分かっていた。そこに関しての手ごたえはありますけど、僕らはもっと先を求めなければいけない。勝ちながら積み上げていかないといけない。選手それぞれが自分たちのストロングを出せないとJ1では結果がついてこない。そのことを苦しんだ3試合で改めて感じました」

 稲垣も神妙な面持ちでコメントした。が、この1勝だけで全てが解決するわけではない。指揮官も「ワンアンカーを捨てたわけではない」と言うが、多彩な戦い方を実践するまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。椎橋慧也、山中、中山克広ら新戦力もまだ十分にフィットしていないため、彼らの力をどうチームに組み込みつつ、総合力を高めていくのか。その重要なテーマにも直面している。

 ただ、ケガで出遅れていた山岸、キャスパー・ユンカーの両アタッカー陣が復帰したのは朗報。序盤の得点力不足は特にユンカーの不在が大きかった。彼がフル稼働できる状態になり、さらに山岸や永井らが推進力をより発揮できるようになれば、名古屋はもっと勝ち点を稼げるはずだ。

「このタレント力でこの位置(暫定18位)がおかしいってことは自分たちも分かっている。ここにいちゃいけないチームなので、這い上がっていきたいです」と稲垣は語気を強めた。それがチーム全員の共通認識だろう。インターナショナルデーで試合が2週間空くこの期間を最大限有効活用して、彼らはチーム完成度を高めていくしかない。

(取材・文:元川悦子)

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