自分としては親切で何かをしているつもりでも、相手にとってはそうではなかったということはしばしばあります。今回はママ友を助けてあげていたつもりが、実は相手にとってはただの迷惑行為であることがわかった経験のある私の知人Cさんから聞いた経験談です。

天然と呼ばれて

Cさんは幼稚園に通う子を持つ主婦です。

自分ではしっかりしているつもりでも、周りからの評価は「天然ちゃん」で、その場の空気を読まずに発言することで友情にヒビが入ることもよくありました。

子どもが同じ幼稚園に通うママ友たちの集まりでも、いわゆる暗黙の了解を理解できず、その場の空気を乱してしまうことも。

しかし学生の頃の友情とは違い、ママ友たちは子どもが仲良しであることで繋がっている関係です。

多少Cさんが突拍子もない発言をしても、「子どもたちは仲が良いから」という理由で許されることが多く、ママ友グループから距離を置かれることもなく平和に過ごしていました。

そんなある日、Cさんを含めた数人のママ友たちが幼稚園のバザーの打ち合わせのため、ひとりのママ友Aさんの家に招かれました。
「散らかっててごめんねー」
Aさんの家にはCさんの子の同級生の上にワンパクな小学生男子2人がいるため、家の中は数々のおもちゃなどが置かれ、雑然としていました。
「うちもこんな感じだから気にしないで」
「ほんとほんと、うちに比べたら片付いてるわ」
他のママ友たちは口々にフォローの言葉を述べましたが、Cさんは違いました。

お片付け宣言

「ほんとに散らかってる! 片付け苦手なの? 私が片付けてあげる!」
Cさんはそう言って、打ち合わせもそこそこにAさんの家を片付け始めたのでした。

「あ、そこは開けないで!」
「あらら、収納もぐちゃぐちゃだね。そりゃ片付かないはずだわ」
CさんはAさんの家の収納を無断で開けて、その中のものを取り出し始めます。
「こういう古いおもちゃは捨てないと、どんどんものが溜まっていっちゃうよ。これはいる? いらない?」
収納の中からおもちゃの詰まった段ボール箱を引きずり出し、Cさんは中身を選別しはじめます。
「いや、思い出の品もあるからできればそのまま置いといて……」
「捨てなきゃ一生片付かないよ? ほら、ゴミ袋持ってきて!」
Aさんにゴミ袋を持ってこさせ、Cさんはどんどん箱の中身を袋に詰めました。

「私、断捨離得意だから任せといて!」
「いや、打ち合わせしようよ」
ママ友たちにそう言われたものの、Cさんは散らかっている部屋にいると集中できない、と言って片づける手を止めません。
「何これ、ゴミじゃない。なんでこんなのとっておいたの?」
Cさんは戸棚の中からお菓子の箱でできたロボットのようなものを取り出して言いました。
「それは子どもが幼稚園で初めて作って来て、プレゼントしてくれたものなの」
「ふーん、でももうゴミだよね、捨てるよ!」
「あ、やめて!」
AさんはCさんの手から思い出の工作を取り上げました。
「まあ、今日はいいけどいずれは捨てた方がいいよ。収納がゴミだらけになるから」
Cさんは片付ける手を止めずに言いました。

「良かったらこれから定期的に来て、片付けてあげる!」
Cさんは帰り際にAさんにそう宣言しました。Aさんの子はCさんの子の一番の仲良しだったので、友好関係を保つためにも私が片づけをしてあげよう、そう思ったのです。

それからというもの、Cさんは度々Aさんの家を訪問して片づけをするようになりました。
時には子ども部屋や夫婦の寝室にまで無断で入り、小さくなった服や古いタオルなどをどんどんゴミ袋に放り込みます。

またCさんは家じゅうの収納を勝手に開けて回るため、いつしか掃除道具の場所も把握して、片付けの後は掃除機をかけたり雑巾がけしたりとまるで自分の家のようにピカピカに磨き上げていました。

「ね、部屋が片付いてると気持ちいいでしょ?」
「う、うん。もうお昼時だし、良かったらご飯食べていく?」
「ありがとう! 私、片づけは好きだけど料理はキライだから助かるわ」
このように、子どもを幼稚園に送った後すぐにAさんの家を訪れ、片づけとお昼ごはんを共にして、お迎えの時間までAさんの家で過ごすことも度々ありました。

卒園の日に……

そんな日々を続けているうちに、CさんとAさんの子が卒園する日を迎えました。
「小学校は別々になるけど、たまには集まろうね」
Aさんの子は学区が違うため、Cさんを含むママ友たちはそう言って涙を浮かべ、別れを惜しんでいました。

「そうね、また集まろうね、と言いたいところだけど」
突然AさんはCさんの方を向いて言いました。
「Cさんとはもうこれっきりにしたいわ」
「ええ!?」
Cさんは驚きのあまり、手に持っていたハンカチを落としてしまいました。
「あのねえ、今まで子どもたちが仲良しだから我慢してたんだけど。そう何度も片付けに来られるの、正直言ってありがた迷惑だったのよ」
他のママ友たちはAさんから先に聞いていたのか、気まずそうな表情で黙り込みます。
「片付けだけならまだしも、子どもの工作捨てようとするし、お昼まで食べてずっと居座るし、ほんともう無理。そもそも、人の家に来といて『散らかってるね』なんて言う人いないわよ?」
「わ、私はただ良かれと思って……」
「それがありがた迷惑だって言ってるの! じゃあね!」
Aさんは他のママ友を引き連れて帰ってしまいました。

Cさんはひとり取り残され、その後幼稚園のママ友たちに連絡をしても一切返事が来なかったそうです。

人のためにやったことが裏目に出たのは残念ですが、ママ友との友情はなかなか繊細です。良かれと思ってしたことでしたが、自分の言動にも気を付けるべきでしたね。

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:齋藤緑子