今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『照子と瑠衣』(井上荒野 著/祥伝社)。評者は書評家の東えりかさんです。

* * * * * * *

70歳の親友同士で始めた雲隠れ生活

照子と瑠衣はともに今年70歳。中学時代に出会ってから56年、親友になってから40年の付き合いになる。2人の名前から、映画『テルマ&ルイーズ』を連想した読者は多いだろう。専業主婦の照子とシャンソン歌手の瑠衣も、手に手を取って逃避行を決め込んだのにはそれぞれ訳があった。

ひとつは瑠衣が気の迷いで入った「老人マンション」でイジメにあい、辟易して照子に助けを求めたこと。もうひとつは照子が45年に及ぶ横暴な夫の寿朗との生活から逃げ出したいと思っていたこと。

瑠衣からの助けを聞いて2日後、寿朗がゴルフで不在のうちに弁当と身の回りのものを詰め込んだ荷物を作り、彼の愛車のBMWに乗って2人は長野の別荘地へ向かった。

照子の計画はこうだ。所有者はわからないが、しばらく使われていない別荘にドライバーで玄関をこじ開けて入り根城にする。

中の備品には手をつけず電気も使わない(水道代は管理費として年初に一括して支払われているのを確認している)。お風呂は近くに温泉があり困らない。

不法侵入が犯罪なのは分かっている。でもそれより2人で自由に生きることを決めた。もちろん瑠衣に否やはない。

2人の男との別れを経験している瑠衣には生活力がある。早速近くのライブスペースのある飲食店で歌手兼ホステスの職を得た。照子も喫茶店のトランプ占い師の仕事を決めた。あとは照子の蓄えを使って、できるところまで行こうと2人の暮らしは始まった。

専業主婦で世間知らずだからか、元不良で世故に長けている瑠衣が尻込みしても、怖いもの知らずの照子はガンガン攻める。イマドキの70歳はまだ初老。色気も食い気も、自由を求める気持ちも若い者に負けないくらい、いや勝るほど持っている。

こんな風に可愛い年寄りになりたい。ストレスなんか吹き飛ばす痛快な小説だ。