それなら買ったほうがいい

栄子さんがマンション購入を考えだしたのは50代半ば、4〜5年前のことでした。父はすでに他界し、兄は仕事で国内を飛び回っています。高齢の母は実家の一戸建てで実質的に独り暮らし。20代で実家を出た栄子さんは、いくつかの転職を経て、いまは高齢者福祉施設で正職員として働いています。

介護福祉士という仕事柄、日常的に、高齢者に接してきました。そして同僚や先輩から、「高齢になったら家を貸してもらえない、貸してくれるとしても古くて汚いところしかない、新築のきれいな物件になんて住めない」と聞きました。

栄子さんがその頃住んでいた賃貸アパートは、1LDK、40平米強。駐車場込みで家賃は6万円弱。スーパーまで徒歩数分、コンビニまで徒歩1分と、生活は便利でした。

でも、そのアパートに、「ずっと住み続けられるんだろうか。ほかに貸してくれるところが見つかるんだろうか。働いて収入のある今はまだ貸してくれるけれど、年を取って年金生活になったら、借りられるのかしら」。栄子さんは、そう遠くない「定年後」を想像して、恐怖しました。

「それなら買ったほうがいいと思って。身の丈に合った物件を買って、身の丈にあった暮らしをしようと思って」

地方都市でも最近、東京の不動産好調の余波か、新築マンションがばんばん建っています。栄子さんの住む市でも新築がブームで、駅前に3000万円台からの新築マンションが数棟、建設中です。定年退職で東京からUターンする地元出身者が、東京より安いと購入するのだとか。

でも、栄子さんの狙いは、そうしたお高い新築ではありません。現金で買える中古マンションです。はなからローンは考えませんでした。中古でも、全面リフォーム済みの1000万円超の物件なんて対象外。こつこつ貯めてきた貯蓄で買える範囲、数百万円の予算で、1LDKを探しました。